前作戦の功労者
その頃、山本はある人物と会話をしていた。
「大西君には知らせてあるが、近い内に計画を実行しようと思う」
「け、計画を実行ですか!」
「ふむ。我々ミリタリーズの力を魅せつける為にな」
「そ、それは。御言葉ですが、先日のお台場での事で実証済みでは」
「あの時は、君の第八潜水戦隊と第十一潜水戦隊の力で、見事に成功を成し遂げた。だがな有泉指令、これからが本番なんだよ」
相手の名前は有泉龍之助だった。
太平洋戦争時では、伊号四○一潜水艦の艦長を務め、第八潜水戦隊や第十一潜水戦隊の参謀を務めた。そして、第六三一航空隊司令兼副長兼第一潜水隊司令も務めていた有泉海軍大佐だった。
「有難う御座います。あの時は、大西参謀長の手で造られた設計を基に、堀越技能士の製作で作られた伊四○○型潜水艦が優れていたからであります」
有泉は謙遜してそう言ったが、
「いやいや、君の指示が的確だったからだ。抑々、あれだけの潜水艦を操る人物を操るのは簡単な事ではない。顔も知らなければ逢った事すらないのだからな。プロ歩を持った仲間が、お台場の何処に潜んでいるのかが解らないまま、スマートフォン一つで的確に指示を出す。容易な事ではないよ。それに、今回の攻撃は初めての試みだったからね。よくやったよ」
と、山本は有泉を誉めていた。その言葉に、
「それを言えば、山本総司令長官はもっと凄いではありませんか。パソコン上で見ず知らずの者達に命令を下し、それを実行している。まさに司令長官そのものですよ」
と言った。
「まあ、確かにそうだな。ミリタリーズは全国の戦争マニアから成っている。武器マニアや武装マニア。戦艦から戦闘機、戦車や潜水艦と言ったメカ的なマニアもいる。もちろん、今回の様なラジコンマニアもその一つだ。そういった連中が全国から集まったのがミリタリーズだからな。ただし、それぞれが歴史上に人物の名を語って、本当の自分をひた隠している。それがミリタリーズの規則でもあるからな。だから、それぞれには仕事があり、学生もいる。中にはニートもいるし、自営業を営んでいる者もいる。セレブもいれば公務員だっているからな。そういった連中の共通点は、同じ趣味だって事だけだ」
「はい」
山本の言った事に、有泉は返事をした。
「私も、高校教師をやっています。歴史を選任しています」
「そうか。それは初耳だな。まあ、それ以上は告白しなくても良い。私の声を聞けば解るが、私は君よりもはるかに歳が下だからな。それでも君は、私の言う事を聴く。それがミリタリーズだよ」
山本は、有泉に対して丁寧に言葉を発した。
山本の声からすると、年齢は十代後半だったのだ。
そんな山本は、話の本題に入った。
「かなり前だが、堀越君に制作依頼をした物がある。それを君に送るから、早急に組み立ててくれ。君の所は茨城県だったな。自宅は解らないが、付近の宅配営業所止めで送っておくよ。明日には届く。発注書はメールで送信しておくから、その番号を言えば解る筈だ」
「はい。解りました。それで、その荷物は大きめでしょうか?」
有泉の問い掛けに、
「中身は新型の潜水艦だ。それも五隻分。まあ、トラックでも用意しておいてくれ」
笑いながら答える山本だった。
有泉との会話が終わると、山本は別の人物にもメールを送った。
そのメールに対しての返信は、直ぐにやって来た。
「メールが返って来るのが早いな」
パソコンの画面を見ながらそう言った山本に、
「先日の計画は成功です」
と、スカイプで声が返って来た。
「君のお蔭だよ。あれだけの武装ヘリでの攻撃が出来るのは、君達のいる航空戦隊でないとできない。まさに圧巻だった」
「有難う御座います」
相手の声は、十代の女の子だった。
「ところで、今日は学校は休みですか?」
山本の問い掛けに、
「いいえ、昼休みですよ。メールを見て、学校のパソコン室でスカイプをやっています」
女の子は、笑いながらそう言った。だが、山本の声が変わった。
「学校なんかでやったら、誰かに見られてしまいます。早急にやめて下さい。要件はラインで送りますから」
慌てた口調でそう言った山本だった。
「は、はい。解りました」
そう答えた女の子は、直ぐにスカイプを切った。それを確認した山本は、急いでラインで指示を送った。
そのラインの相手の名前は、淵田美津雄だった。
太平洋戦争時では、源田稔と海兵同期とあって山本五十六の信頼も厚かった。その為に第三航空戦隊を任され、南雲長官の片腕とも言われていた。
その淵田の名を語る女の子に貸された命令は、
「君の戦隊に居る戦闘ヘリ部隊。それを近日中に召集する様に。近い内に攻撃計画を発令する為に、何時でも出撃できるように準備致し」
との事だった。その命令を受けた淵田は、
「了解いたしました。早急に準備致します。ただし、作戦実行の日時は、早めにお知らせ下さい。何と言っても、私達が居るのは九州ですから。この前も上京するのに大変でしたし、仲間達も休まなければいけませんので、どうかお願いしますね」
と返信していた。文章の所々には絵文字が光り、最後はハートマークまで載せていた。やはり十代の女の子は、緊張感が無いのか。