空母機動部隊
その時、大西は何をしていたのか。
「この文面を各航空艦隊に送信すれば、其々が期日までに準備するだろう」
そう言って、パソコンからメールを送っていた。
それから数分後、大西のパソコンにメールが届いた。それを読んだ大西は、ヘッドホンを耳に付けると、
「南雲中将、スカイプを繋ぎましたが聞こえていますか」
と通信を行った。それに、
「山本長官でしょうか。先程の件で、お話が御座います」
と返してきたのは、太平洋戦争で大日本帝国海軍空母機動部隊の旗艦『赤城』の艦長と、第一航空艦隊『南雲航空戦隊』を率いる南雲忠一中将を名乗っていた。
「どうかしましたか?」
「作戦の決行は何時になりますか?」
南雲がそう尋ねると、
「まだ、はっきりとは決まっていません。決まり次第連絡します」
そう答えた。すると、
「はい、畏まりました。早めに連絡を下さい」
と、南雲が要求してきたのだ。それを聞いた大西は、
「仕事の都合で御座いますか。解りました。山本司令長官より決行サインが出された時に、一番初めにお知らせします」
と、落ち着いた口調で諭す様に言った。
南雲を名乗る男の仕事の事情を、大西は十分に理解していたのだ。
「申し訳御座いません。私の仕事が長距離トラックの運転手なものですから、一度仕事に出ると二・三日戻れませんので」
「解っていますよ。南雲中将に合わせて、計画を実行すると思いますよ。そうでないと、第一航空戦隊の戦闘機部隊が飛び立てませんからね。山本司令長官も解って頂けます」
優しくそう伝える大西だった。その言葉を聞いた南雲は、不思議そうに、
「私が居ないと、飛行機が飛べないと?」
と尋ねた。それを聞いた大西は、
「計画は機密になっております。漏らす訳にはいきませんので、完全に計画を立案すればお知らせします」
それを聞いたもう一人の男が、スカイプの会話に割って入った。
「我々も早めにお願いします」
「おお、山口少将。お元気ですか」
男の声に逸早く反応した南雲がそう言うと、
「我が第二航空戦隊も、仕事を持った連中が居ますからね。それに、私も今仕事中ですし、学生だっています」
と、気合の入った声で言って来た。
男が名乗っていたのは、太平洋戦争のミッドウェー海戦で、唯一敵空母『ヨークタウン』を撃破した大日本帝国海軍空母飛龍の艦長でもあり、第二航空戦隊を率いる山口多聞少将を名乗っていた。
山口の言葉を聞いた南雲は、
「連絡は、私がお知らせします。私の戦隊にも大学生なんかが居ますから同じ状況です。責任もってお知らせしますので、準備だけは怠らないで下さい」
そう言うと、
「はい、今直ぐにでも出撃できます」
と、山口が応えていた。その二人の会話に、
「頼もしい戦隊です。お願いしておきますよ」
と大西が言うと、
「はい、畏まりました!」
と、二人は声を揃えて返事をした。
そこに、女性の声が響いた。
「お早う御座います」
「おはよう。堀越君、作業は順調に進んでいますか?」
大西が話しているのは堀越だった。その大西の問い掛けに、
「ええ、昨日から私の3Dプリンターはフル稼働よ。五台もあるから明日一杯には全てが完成するわ。それをどうすればいいわけ?」
と、逆に問い掛けて来た。その言葉を聞いた南雲が、
「な、何を造るのでしょうか?」
と尋ねると、
「新しい戦闘機だ」
「そうよ。零式艦上戦闘機が二十機ほどと、ミサイル二百発のパーツの図面が送られて来たからね。こっちも大変よ」
と、大西と堀越が答えた。それを聞いた南雲と山口は、
「それ程の物を、何に使うのですか!」
と驚いていた。だが、
「それがね、大西参謀長官は教えてくれないの」
と堀越が言うと、
「フフフ…… 機密さ」
と大西は不気味に答えた。