作戦会議
二〇一五年八月六日(木曜日)。
「一体、誰があんな事を?」
「証拠になりそうな物は見つかったのか?」
「はいっ! 硫黄ガスと睡眠ガスが注入されていたミサイル弾が、渋谷交差点付近とお台場臨海公園から発見されました。他には、これといって見つかってはいません」
警視庁では、二か所で行われた犯行の捜査本部が設けられていた。
そこの所轄の刑事を交えての会議で、
「負傷者が出ているからな、悪戯とは言えない。とにかく、今後の犯行声明とも取れる犯人からのメッセージがあるからな」
そう言って、捜査会議の議長でもある刑事課係長が、犯行後にテレビ局に流れたメッセージを流した。
「二つとも、それぞれがテレビ番組などのセリフを繋げたものばかりで、他にはコンピューターで作られた音声になっている。まあ、犯人はメカやコンピューターに詳しいと思われるが、これだけの証拠ではどうにもならんな」
メッセージを聞きながら、中心にいた管理官がそう言った。
「ただ、ミリタリーズとだけ、名乗っております」
係長がそう言うと、
「ミリタリーズ。武装マニアの仕業だというのか。だとすれば、目的がはっきりしない」
「愉快犯かもしれませんね」
管理官の言葉に、そう返した係長だった。
「とにかく、その武装マニアや戦争マニアを調べろ。それに、これだけのラジコンを使うからには、それだけの技術も要する。ラジコンマニアの方も調べるのだ。それらを扱う専門店なども調べ尽くすのだ。他には、インターネットを使っている店も、全て調べろ」
中心にいた管理官の声に、そこに居た刑事達は返事をしていた。
そのころ、とある場所では、
「今回の攻撃。まさに我々の大勝利に終わった。全ては、我々の団結力に他ならない。七十年前の今日、世界で初めて日本に原子力爆弾が投下された。その弔い合戦をやったほどの充実感に浸る想いだ」
黒いレザーのソファーに座った一人の男が、そう叫んでいた。
男の目元には細長い眼鏡が光った。左目のガラスにうっすらと見えていた小さなモニター。
スマートグラスと呼ばれるものだった。
「今後は、どういった動きを行われるのでしょうか?」
スマートグラスのモニターに一人の武装した男のアニメの画像が映し出されると、耳元にあるスピーカーからそう言う声が聞こえてきた。
すると、
「大西参謀長官。かねがねから、私の計画していた攻撃を実行しようと思っている」
と、男が言った。
モニターに映っているアニメ画像の正体。
いや、その向こうに居る男は、大西参謀長官と呼ばれていた。
あの、太平洋戦争勃発時に行われた真珠湾攻撃。
その攻撃計画を出した当時の連合艦隊総司令官である山本五十六が、その攻撃計画の立案依頼をした第十一航空艦隊参謀長の大西瀧治朗少将の事だった。
そして男がその言葉を発した時、スマートグラスのモニターに映し出されていた画像が切り替わった。
別の武装した男のアニメ画像が映ったのだ。
「山本司令長官。その計画には、もう少し時間が。それに、その計画を実行したとして、我々に勝機があるとは思えません」
スマートグラスをした男の呼び名は、大日本帝国海軍連合艦隊総司令長官の山本五十六だった。
そして、その山本が言った。
「源田君。確かに、今のままでは勝ち目がない事は解る。
だが、ここで奇襲攻撃を行って、敵の攻撃力を粉砕しておかなければ、その後の攻撃にも支障を及ぼす事になる。それに、この計画で勢いをつける事も大事ではないのか」
口元は笑みを浮かべていたが、眼は鋭さを増していた。
そんな山本から放たれた強い口調に、
「解りました。ただし、あと一週間の猶予を頂けないでしょうか」
源田は、緊張気味に言葉を震わせながらそう言った。
そして再び画面が変わって、さっきの画像が映し出されると、
「私からもお願いします。
源田参謀と一緒に考えて、完璧な作戦に仕上げて見せまする故、あと一週間、お願いします」
慌てたような早口で、大西がそう言った。
その後、暫く沈黙が続いたが、
「相解った」
山本のその一言に、二人の口から息が漏れた。
その後すかさず、
「敵が我々に気付く恐れがあるかもしれないので、そこは注意深く行う様に。
それと、作戦立案後には我が軍の全ての同志に伝える故、速やかに私に報告する様に」
そう言った山本は右手を耳元に寄せて、スマートグラスの画面を切り替えた。
そこで行われた会話は、これから戦争でも始るかのような内容だった。
歴史に登場する人物がいる筈はない。
しかし、そんな実在しない筈の人物を名乗る者達の戦略会議だったのだ。
それもネットワーク上での会議だ。
こういった事は、チェーン店の店長などの会議に使われるモニター会議だが、それをなぜやるのか。
山本五十六と呼ばれた男が居る場所は、一体何処なのか。