愛しい人
家に帰り着いた淵田麗華は、急いで自分の部屋に向かった。
「既に連絡が来ていましたね」
そう呟きながら、パソコンを起動した。そして、
「山本司令長官。聞こえますか?」
マイクに向かってそう叫んだ。すると、
「待っていました。漸く帰って来たようですね。前の様に学校からの通信だったらどうしようかと、ハラハラしていました」
山本は、そう言って軽く笑った。その言葉に、
「その様な事は…… 一度注意を受けた事は、二度と行いませんわ」
と口を尖らせていた。
「すまない。ちょっと言い過ぎたようだな。ところで、本題に入るが……」
そう言った山本に、
「等々、作戦実行の時ですね」
と、真剣な表情になる麗華だった。
「既に参謀には伝えてはいるが、君の言った通り、作戦の実行日が決まった」
「はい」
「作戦決行は、〇八一五。時間は〇九〇〇だ」
「今週末ですね。で、早朝の九時。と言う事は、前日には……」
「そう、上京してもらう」
「それで、敵目標は?」
麗華がそう尋ねると、山本は暫く黙っていた。
「何処を、狙うのでしょうか? やはり、国家」
麗華は、声を振り絞る様に言った。何故なら、山本の想いが、麗華にも伝わっていたのだ。
国家権力への恨みの念が。
「敵目標は、警視庁」
山本の言葉に、パソコンの前で麗華がニヤリと笑った。
「山本司令長官も、わたくしと同類でしたね」
麗華が、小さな声でそう言った。その言葉を聞いた山本は、
「私も、君と付き合っていて解ったよ。君がどれだけ国家に遺恨があるのかがね。だから、君との交際に踏み切ったのだからな。麗華」
山本は、淵田の名前を知っていた。それもその筈、麗華とは、前から交際していたのだ。
「わたくしが、この九州の地に来たのは、貴方様の命令によっての事で御座います。わかくしは、この日が来るのを、首を長くして待っておりました」
「君にはすまない事をした。君一人に重要な事を任せて。だが、君のお蔭で、先日の作戦も成功する事が出来たのだからな。本当に有難う」
「何を仰いますやら。愛しい人をお守りする事は当たり前。これからも、わたくしは貴方様に着いていきます」
「この作戦が成功した暁には、我が家に君を迎える準備をしたいと思ている」
「ほ、本当で御座いますか!」
「ああ、私に二言は無い」
「う、嬉しゅう御座います。此度の作戦、必ず成功させます」
パソコンに縋る様に、麗華はそう言った。
「その作戦だが、先鋒に、君の戦隊を使いたいのだが」
「わたくしの戦隊は、貴方様の僕。何時でも、貴方様の依存のままに致して下さい」
麗華はそう言った。
麗華の戦隊、即ち、サチの居るパソコン部の仲間達の事だ。
あの、渋谷を襲った時の様に、再びサチの率いる武装ヘリ軍団が、攻撃の先鋒を切るというのだ。それは、危険な賭けだった。
何故なら、前回の作戦で、警察は武装ヘリの存在を知っているのだ。それだけに、かなり警戒をしているに違いないのだ。その事を踏まえても、サチの居る武装ヘリ軍団を先鋒に使うというのだ。
「君の戦隊の攻撃に次いで、我がミリタリーズの全勢力を持って攻撃に移る。君の戦隊を捨て駒にして、敵を武装ヘリ軍団に向ける事によって、我が軍の勝機を得る」
「解っております。その任務に、我が戦隊が相応しいと存じておりますから」
麗華は、そう言って再び笑みを浮かべた。
そうとは知らないサチとラジコン部の仲間達は、河川敷で武装ヘリを飛ばしていた。そしてその日の夜に、作戦決行日と時間の知らせを受けるのだった。だが、作戦の先鋒と言う事は聞かされてはいなかった。サチには、一斉攻撃との命令が下っていたのだ。
十一日(火曜日)の早朝。
全ての参謀と戦隊長に、メールによって作戦決行の暗号が届けられた。その内容は、
「ニイタカヤマノボレ〇八一五」
だった。




