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逆襲

 ドラゴンは、マリスたちをそれぞれ乗せたまま、旋回した。


『遅くなって、悪かった。魔空間の中で、少々迷ってしまったもので』


 彼らは、ベビードラゴンのように、バスター・ブレードが裂いた空間からやってきたのではなく、自力であったので、迷うということは有り得た。


「大丈夫なの? ここに来ちゃって」


 マリスを乗せたドラゴンは、荒野に、スグリと一緒に来た四頭のうちの一頭、ウシオであった。


 ウシオは、一声鳴いてから、答えた。


『ベビーが何の戸惑いもなく、ただあなた方を助けようと、魔空間に入っていくのに、我々大人の竜が行かなくてどうする? 我々は、ゴールド・ドラゴン本来の戦いを、まだベビーに伝えておらなかったことに気付いたのだ。戦いは、能力で、勝敗が決まるものではない。竜族が持っていた、最高の武器『勇気』を、あなたがたは、思い出させてくれたのだ』


 マリスは、後ろのドラゴンに乗っているケインたちを振り向いた。

 カイルが抱えている、治療中のケインには、ベビーがつきっきりであった。


「あたしは向こう見ずなだけ。勇気を教えたのは、ケインだわ」


 マリスは顔をほころばせた。


『それと、我々は、そちらの娘よ、あなたにも教えられた』


 別のドラゴンに乗ったクレアに、首を向けて、ウシオが言った。


「えっ、わ、私!? 」


 クレアは驚いて聞き返す。


「私なんて、たいしてお役に立っていないのに……」


『申し訳ないが、始めは、たいして使えない人間だと思っていた。だが、魔空間での白の能力(ちから)、あれは、素晴らしいものだった。正直に言って、人間で、あれほどの白の使い手を、我々は知らなかった。王も、大変に驚かれたことだろう』


 クレアは、恥ずかしそうに、頬を染めた。


「そんな……。私、ずっとスランプで……。これまでだって、失敗ばっかりしていたし、師匠にも怒られていたし、戦闘の経験も少なくて……。だけど、私の経験した恐怖よりも、あなたがたと魔族との戦いの方が、ずっと深刻で、根深くて、残酷でした。そう思ったら、たかが個人的な私の悩みなんて、あなたがたの、種族としての問題と比べれば、あまりにも小さ過ぎる、と気付くことが出来たのです」


 クレアの瞳が、潤んでいく。


 別の竜が、クレアの側に飛んできた。


『俺たちは、なにも出来ないと思っていたあんたが、あそこまでのことをやってのけたのを見て、再び勇気が湧いてきたんだ。あんたみたいなお嬢ちゃんに、あんなことが出来るなんてさ! 俺たちにとっちゃあ、ベビーが魔族をやっつけたくらいに、凄いことなんだよ! 』


 また別の竜も、寄ってきた。


『しかも、ベビーにも、あんな力が……リリドにダメージを負わせるほどの力が、あったとは! 我々は、ベビーには何も出来ないと思い込み、唯一の子孫だからと、変に保護し過ぎた。あれほどの力に気付いてやれず、眠らせたままにしていた上に、戦い方まで教えてやらずにいたのだと、我らこそ、気付かされた』


 反対側からも、他の竜が追いついた。


『私たちは、今度こそ、本当に、目が覚めた。今度こそ、何があっても、魔族と戦い、自分たちの未来を守るのだ! 』


 ドラゴンたちは、魔空間の一点に、一番安定している箇所を見抜き、人間たちを、それぞれ背から下ろした。


 もう少しで治療の終わりそうなケインには、ベビーがついていて、カイルも付き添っていた。


 皆を下ろすと、ゴールド・ドラゴンたちは、魔空間の中で、雄叫びを上げ、士気を高め合っていた。


「私でも、人の心を動すことができたなんて……! 」


 この場合は、ドラゴンであったが。クレアは感激していた。


「スランプがあってこそ、だったのかもよ? 」


 隣で、マリスが、ひょいっと、顔を覗かせた。


「クレア、凄かったわよ。あなたの白魔法で、魔族の奴らが、ボロボロやられていったじゃない。これなら、今後も、皆、安心だし、心強いわ! 」


「マリス! 」


 クレアが飛びついた。


「マリスのおかげよ! 」


 マリスは、いくらか面食らいながらも、クレアを抱きとめ、微笑んだ。


「あたしは、なんにもしていないわ、ただ暴れてただけで。魔法が復活出来たのは、クレア自身の力よ」


「ううん、マリスがいてくれたからだわ! マリスが側にいてくれるんだったら、きっと大丈夫だって、そう思えたんだもの! 」


 どうしたものかと戸惑っていたマリスであったが、素直に喜んでいるクレアを、抱きしめた。


 ベビードラゴンの治療が終わり、ケインは、カイルに支えられながら、起き上がった。


「確かに、マリスがいると、不可能なことも可能になってしまう気がする。彼女自身は、単に戦闘が好きなだけだとしても」


「ああ、だよな」


「それにしても、カイル、よく魔空間に来てくれた。あいにく、持ってきてもらったのに、マスター・ソードは使わずじまいだったけどな。女子二人が凄過ぎて」


 ケインとカイルは笑い合った。


「正直、俺は、始めは、自分が魔空間に入るなんて、考えられなかったんだが、クレアが必死でさ」


 カイルが、いきさつを語った。




 真剣な表情で、クレアは言った。


「いつも頼ってばかりで、ごめんなさい。だけど、カイルにも、一緒に来て欲しいの。私、魔法は使えなくても、魔族の気配はわかるわ。だから、あなたの援護をするから! 」


「俺には、ケインやマリスが経験してきたほどの強大な敵を、相手にしたことなんて、ないんだぜ? ましてや、魔空間なんて……! 無理だ! 俺なんかが行ったって、何も出来ねえ……」


「だからって、このまま、二人を見殺しにするの? 」


 クレアの瞳には、涙がたまっていた。


 カイルの瞳も、揺れる。


「お願い! 私、ケインとマリスの側に行きたいの。それだけじゃないわ。私は、……カイルの力も信じてるのよ。あなたの冒険者としての素質と、……伝説の剣を持つのに、ふさわしい人だってことを……! もうあなたしかいないのよ、魔族に対抗出来る、唯一の望みは! 」


 彼女のその言葉は、彼の勇気を奮い起こした。




「……ってまあ、そんなところでさ。クレアに懇願されちゃあ、俺としては、断れないだろ? 」


 と、カイルは、はははと笑ってみせた。


「確かに。それは、誰も断れないよな」


「それに、俺のことを、冒険者だって認めてくれて、伝説の剣を持つのにふさわしい人間だ、とまで言われちゃさ。今からほんの数年前だが、俺も、純粋に、冒険に目覚めた時があってな、その時の心情を思い出すと、自然と気合いが入ったぜ」


 微笑んだケインは、そういうカイルを、改めて見た。


「カイル、……本当にありがとな! 」


「よせよ、ガラでもねえ! 」


 カイルが、頬を赤らめた。


「とにかく、クレアの魔法が復活して、なによりだぜ! だけど、まさか、あの二人、道外しゃあしないだろうな? 」


 カイルが、おどけてみせると、ケインは笑いながら、抱き合っているマリスとクレアを見て、微笑ましい気分になっていた。


(あの時、マリスが来てくれなかったら、俺は、多分死んでいた。マリスには、魔族の気配の読み方も教わったし、彼女から学ばなくてはならないことは、もっとある)


(あと一年……。あと一年以内に、魔族の王と対戦するかも知れない。今の俺では、まだまだ上級魔族には敵わない。ボルボを倒せたのは、運が良かっただけだ。気持ちだけじゃだめだ! もっと、俺自身が強くならなくちゃ……! )


 群青色の瞳は、眩し気に、二人の少女を見つめ、ケインは拳を握り締めた。




 リリドは惜しくも逃がしたが、魔空間にいた残りの魔族を倒したドラゴンたちは、意気揚々と、始めに魔族を呼び出した荒野へと戻ってきた。


 ドラゴンの王も、共を連れ、やってきた。


 怪我をしたスグリも、首にできた一番ひどい傷跡は残ってしまったものの、全快していた。


『我々は、あなたがたの来訪によって、ドラゴン本来の性質に、甦ることができた。なんとお礼を申し上げてよいやら』


 王の言葉に、ケインは恐れ多く、頭を下げた。


「ま、俺たちの実力なんて、まだまだこんなもんじゃねえって。なんか、また困ったことでもあったら、いつでも呼んでくれよな! 」


 カイルが威張って笑うが、クレアに耳を引っ張られる。


「それにしても、あの吟遊詩人の人ったら、まだ出てこないわ。ヴァルが戻るまで、あたしたちに、ずっと、ここにいろって言うのかしら? それとも、まだやり残したことが、あるとでも……? 」


 マリスが首を傾げた。


『おぬしたちに、伝えなくてはならないことがある』


 王の、思念の声に、四人は、改めて見上げた。


『マスター・ソードの魔石のことだが、六〇〇年前の勇者に渡した後、一匹の妖精がやって来て、そのドラゴン・マスターが去った後だと知ると、慌てて後を追っていったのだ。その時に、次回の魔石は、妖精族が預かることになっているのだとか、言っていた』


 四人は、ハッと顔を見合わせた。


「それは、本当ですか!? 」


 驚くケインに、王は、大きく頷いた。


「ちぇーっ、なんだよ、もっと早く言ってくれればいいのにさー! 」


 カイルが、骨折り損だと言わんばかりに、ほっぺたを膨らませた。


『それが、一〇〇年前の魔族との戦闘後に現れた、とある神の遣いを名乗る者に、口止めされておったのだ。その者が言うには、次に現れるドラゴン・マスターが、ドラゴンを、もとの勇敢な頃に戻す力があるようであれば、教えても良い、と』


「とある神の遣い……! 」


 一行は、顔を見合わせた。


「おい、それって、あの例の吟遊詩人の仕業じゃねえか? 」


 カイルが、うさん臭そうに、眉をひそめた。


「結局、魔石はここにはなくて、どうも妖精の国にあるみたいじゃない? それも、信用できるかどうかは、わからないけど。だけど、なんで、わざわざそんなまわりくどいことするのかしらね? あたしたちを、(かつ)いでるのかしら? 」


「う~ん、マスターも、結構そーゆーヤツだったからなぁ」


 マリスとケインも、疑わしい顔で頷く。


「あの……、もしかしたら、私たちの試練のためかも知れないわ。実際、今回の戦いは、少なくとも、私にとっては、大きな励みとなったもの」


 クレアが遠慮がちに吟遊詩人を弁護するが、三人には、聞き入れてもらえなかった。


「俺たちをここへ案内した吟遊詩人が現れるまで、もうしばらく、置いて頂いても、よろしいでしょうか? 」


 ケインが、ドラゴンの王を見上げる。


『おぬしたちには、ベビーも懐いておるようだしの。我らは、構わぬぞ』


「グルルル、ピーッ! 」


 王の脇から、ベビーがよちよち走り出すと、はしゃぎながら、べろべろと、ケインの顔を舐め回した。


 カイルもベビーにじゃれつき、マリスとクレアは、笑って見ていた。


 王の横から、スグリが、ゆっくりと進み出た。


「獣神様の巫女よ、おぬしの口づけが効いた。命の恩人よ、礼がしたい。私が人間の姿に変身し、おぬしたちの旅に同行するのは、いかがか? 」


「へえ、人間の姿に! そんなことも出来るのか! 」


 逸早く、カイルが目を輝かせた。

 クレアもマリスも、感心するが、ケインの顔色が変わる。


「ちょっと待て。今、口づけって……? 」


「ああ、瀕死のスグリさんに、マリスが生命エネルギーを注いだんだよ。いつか見たことあっただろ? それで、クレアを救ったのを」


 カイルの説明を聞くうちに、ケインが動揺していく。


「じゃ、じゃあ、マリスがスグリさんに……! 」


「そうそう、チューしてたぜ」


 ケインは、見るからに、ショックを受けていた。


「俺にはしてくれなかったのに、スグリさんには……。マリス、ドラゴンの方が好きなのか? 」


「何言ってるのよ、あんたが拒んだんでしょ? 」


 両手を腰に当てたマリスは、不可解な顔をして、言った。


「だって、マリスに悪いかと……」


 ケインは、今さらながら、痩せ我慢して格好付けたことを、激しく後悔した。


「それじゃあ、スグリさん、例えば、あたし好みの、超イケメン男子に変身することも、出来るのかしら? 」


 マリスが、スグリにウィンクする。


容易(たやす)いことだ」


「ちょっ、ちょっと待てよ! 見た目が人間になったって、中身はドラゴンだぞ? 」


「あら、ケインだって、ドラゴンが好きでしょう? それに、あたしが、ずっと、ドラゴンに会いたかったの、知ってるわよね? 」


「……まさか、ホントに……人間より、ドラゴンが好きなんじゃ……!? 」


「魔界の王子をペットにするより、ドラゴンの彼氏がいる方が、カッコいいわ! 」


 マリスはウキウキとしていた。


 ケインは顔面蒼白になり、立ち尽くしていた。


 途端に、マリスが吹き出す。


「冗談だ」


 スグリのセリフに、ケインは、がくっと身体中の力が抜けた。


「スグリさん、……そんな冗談なんか言う人だったっけ? 」


 スグリは、笑ったみたいだった。


 マリスも、クレアも笑った。


「ははははは、良かったな、ケイン! じょ、冗談だってさ! ははははは! 」


 最も笑っていたのは、カイルであった。


 腹を抱え、息も途切れ途切れな彼を、ケインが横目で見る。


「何が『良かった』だよ。笑い過ぎだぞ、カイル」


「お前、わかりやすいな! 」


 カイルは、再び大笑いした。

 それを、ケインは面白くなさそうに見ていた。


 そのさなか、突如、ドラゴンたちの一角が、騒ぎ出した。


 ただならぬ異変に、王も、ケインたちも、辺りを見回す。

 ケインとスグリ、側近たちは、すぐさま、王を庇うよう取り囲み、警戒した。


 そして、ーー! 


 ぼごおぉお! 


 マリスのすぐ後ろの土を掘り返し、いきなり、それは、現れた。


 どす黒く、濃い緑色の混ざった血に全身を染め、ほとんど白髪と化した髪を振り乱した、凶悪な人相の女ーーリリドであった。


「あ、あんた、まだ……! 」


 マリスが振り向き様バスター・ブレードを薙ぎ払うが、リリドの方が一瞬速かった。


 血の混じった白髪が伸びていくと、マリスを、あっという間に包み込んだ。


「マリス! 」

「マリス! 」


 クレア、カイルが叫び、ケインも駆け出すが、マリスの身体は、乱れた白髪に、丸く、虫の繭のように包まれてしまった。


 恐ろしい、地獄の底から響いてくるような声が、伝わる。


『許さない、お前だけは……! 神の憑いた、お前だけは! 』


 繭になったマリスを、怒りをあらわにした形相で見下ろすと、リリドの姿は、ふっと消えた。


「マリスー! 」


 ケインたちが叫ぶと同時に、ゴールド・ドラゴンが数匹、すさまじい風を起こし、舞い上がった。


『リリドめ、こっちへ逃げたぞ! 』

『追え! 追うんだ! 』


 ドラゴンたちは、空中へと、次々消えていった。


 走って追うケインを、ベビーが乗せて、ドラゴンたちに続き、宙に消えた。


「お、おい、俺たちは、どうすればいいんだよー! 」


 ケインの消えた空へ、王と護衛のドラゴンしか残っておらず、置いてけぼりになったカイルが叫ぶが、何も返ってはこない。


 隣では、クレアが、なすすべなく、心配そうに、おろおろと両手を揉み絞っていた。




『待てリリド! 大勢の仲間を殺し、喰らったおぬしだけは、生かしてはおけぬ! 』


 ゴールド・ドラゴンたちは、溶岩でできたような、赤茶色の岩山へと来ていた。


 岩山は、真っ赤な夕焼け色に染まっている。

 そこも、人間界とはまた違う風景であった。


 上級魔族リリドには、自分に有利な空間である魔空間を造る力は、もう残ってはいなかった。

 変わりに、別の次元へと、逃げ込むのが精一杯であるようだった。


 黒いマント姿で、大きな白い繭を引き摺りながら逃げている女の姿を、ドラゴンが追う。


「なんて、熱いところだ。どこかで、マグマでも流れているのか? 」


 ドラゴンには耐えられる温度らしく、平然と飛んでいるが、人間にとっては、焼け付くような熱さで、堪え難い。


 ケインには、空気までもが熱く、息苦しく感じられた。


 突然、リリドが、悲鳴を上げて倒れた。


 繭の中からは、バスター・ブレードを突き立て、マリスが破って出て来たのだった。


「このあたしを誘拐しようなんて、そうは行かないわよっ! 」


 ばこばこと繭を打ち破ったマリスが、リリドに、バスター・ブレードを向ける。


「マリス! 無事だったのか! 」


 ケインを乗せたベビードラゴンが、その上空で旋回する。


 追いつめられたリリドは跪き、ぜえぜえと肩で息をした。


 ゴールド・ドラゴンたちも、次々と、岩石の上に舞い降り、取り囲んだ。


『リリド、もはや逃げ場はないぞ。観念するのだ』


 ドラゴンたちを背に、繭を踏み付けたマリスも、腕を組み、リリドを見下ろす。


 リリドの戦闘能力は、ほとんどなくなっているのは、ドラゴンにも、ケイン、

マリスにも、わかっていた。


 先の戦闘の時とはまったく様子の違う、疲れ果て、死させも覚悟している姿である。


 だが、肩で大きく息をしていたリリドが、いきなり地面に両手をつく。


 その途端、岩盤が、ぼこぼこと割れていき、リリドとマリス、ドラゴンたちの間に割れ目が出来た。


『私を追いつめたからといって、いい気になるな。私は、お前たち、竜族の手になどかかっては死なぬ! しかも、ただで死ぬものか! 』


 魔族の女は、立ち上がると、マリスに向かって、てのひらをかざした。


『獣神の巫女である貴様を、道連れにしてやる! 魔王様を封印した、獣神の籠を受けているお前だけは、許さぬ! 神の憑いた我が身を呪いながら、死んでゆくがよい! 』


 地面の割れ目が、一気に走っていくと、マリスの足元が陥没した。


 それと、ドラゴンがリリドに襲いかかっていったのは、ほぼ同時であった。




 リリドの最後の叫びであった。


 ドラゴンたちの鋭い牙によって、身体はえぐられ、後に、黒い灰となっていった。


 陥没した岩は、リリドの最後の魔力で、もろく崩れると、マリスは、真っ逆さまに落ちていった。


「マリスー! 」


 ケインの乗ったベビードラゴンが、必死に後を追う。


 下降すればするほど、マグマが近くなっているのか、温度は上がり、ケインの身体からも、ベビーの皮膚からも、汗が流れ出していた。


(マリス、死ぬなよ! 死なせるもんか! )


 狭かった空洞は、急に開けた。


 岩は崖になっており、そのずっと下方では、赤い溶岩が流れている。

 岩と一緒に落下していくマリスが、見えた。


「マリスー! 」


 ベビーの上からケインが叫ぶ。


 ベビーはスピードを上げ、マリスに追いついた。


「ケイン! 」


 その時、マリスの持っていたバスター・ブレードが、岸壁に当たった。


「あっ! 」


 バスター・ブレードが、マリスの手から離れた。


 その直前に、ケインの手が伸び、バスター・ブレードを掴むかに見えたが、彼が、迷いもなく掴んだものは、マリスの手であった。


「バスター・ブレードが……! 」


 マリスが手を伸ばす。

 ケインも、もう片方の手を伸ばす。


 ケインの手が掴もうという瞬間、大剣は消えた。


「……!? 」


 二人は、目を疑った。


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