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神立ヴァルハラ学園! 2年3組オーディン先生

ばいめた本編とはあまり関係ありません。

昨今「この展開になるとだれてつまらなくなる」と界隈で話題の学園編を書いてみました(棒

 十字路まで歩いてきたその挙句、クマクランは寒さに外套の襟を掻き合わせ、疲れと飢えについにがっくりと座り込んだ。

「何だ、ここは」

見渡す限り一面の荒れ野、乾燥した冷たい風が裏地の抜けた毛織の外套を容赦なく通りぬけ、時々風の中に白いものが舞う。


「もともとおかしな所にいたが、さらにおかしな所に迷い込んでしまったのか。いや、それともおかしいのは僕の頭かな?」

寒さで鈍りがちな思考を懸命に動かして、あまり役に立たないことを考える。そもそもおかしな所という印象だけは残っているが、クマクランは自分がさっきまでどこにいたのか覚えていないのだった。


 びゅうびゅうと吹き荒れる風の音のその中に、なにか聞きなれたようなありえないような音を聞いた気がして、彼は耳をすませた。


 やはり間違いない。ディーゼルエンジンの駆動音だ。


 こんなところにバス路線が?


 訝しく辺りを見回すと、さっきまで気づかなかった道の傍らに、ローティーン少女好きな絵師のお絵かきブログによく出てきそうな、塗装のはげたトタンで囲われたバス停とベンチがあった。


 しかしそこに座っているのは、まだ青い果実のような身体をセーラー服に包んだ人類の宝などではなく、薄汚い感じのローブに身を包みとんがり帽子の陰から一個だけ残った眼球をぎらぎらと知性の光で輝かせた、沸点の低そうな爺だった。


「来たようじゃな」訳知り顔に老人がうなずく。

あの、とクマクランは切り出した。

「ここにバスが止まるんですね? いったいどこへ向かうバスなんです?」


「学園じゃよ」

「学園ですって?」

なんだそりゃ。


「おぬしにひとつ重要なことを教えておくが、この路線のバスは一日一本。行き先がどこであれ、乗ったほうが良かろうな――凍死したくなければ」

「それはもう、是非もありません」


 やがて巨大なシルエットがバス停の前にうずくまった。それは巨大なヤギの姿をデザインにあしらった、ファンシーかつおどろおどろしいビジュアルのバスだった。なんだか親近感を覚える。


「うへえ……確かにこれをスクールバスといわれれば、納得はしますね!」

「早く乗れ、座席がなくなるぞ。わしは老人だからお前に席を譲ってやる気はない」


 バリアフリーという言葉がない時代から来たかのように、バスのドアの内側には闇雲に段差のあるステップがあった。だが車内は暖房が効いていて、クマクランはようやく人心地付いた。


 隣の座席にはいかにも人徳の高そうな、額の広い、というか禿げ上がった男がちょこんと腰掛けていた。

「やあ、君も学園の新しい職員かな? 私はリンベルトという。これから向かう学園で、主の教えを説く使命に燃えているのだよ、よろしく頼む」

「はあ、僕も職員なんでしょうか。ところで学園は何て名前なんです?」


「ページの一番上を……いやなんでもない、ゲホンゲホン。神立ヴァルハラ学園だ。世界の運命を背負って戦える優秀なエインヘリャルとヴァルキューレを養成しているという」

「リンベルトさんはそんな学校で何を教える気なので」

「気にしてはいかん」

気になるわ。


(まもなくヴァルハラ学園、ヴァルハラ学園。お降りの際はお忘れ物のございませんよう、足元にご注意してお降りください。大山羊号の運転は私、しがないスカンジナビア農民のチアフルがお供いたしました。またのご利用をお待ちしております)

車内放送が鳴り響く。


「チアルフじゃないんだ。元気の出そうな名前だな」

とんがり帽子爺が横から口を挟んだ。

「ひひひ、違うところに元気が出るかも知れんぞ恋愛アドベンチャー的に」

 うわ薄汚い。さすがランドセルを背負った女の子が佇んでいそうなトタンで囲まれたバス停に推定丸一日座っていた爺だ薄汚い。


 先ほどまで全く意識が向いていなかったのだが、バスの中は腹や胸に虚ろな傷口がぽっかりと穴を開けた屈強なヴァイキング戦士と、翼をあしらったデザインの兜をかぶり弓道部の生徒よろしく細長い布の袋に包まれた長い棒を携えた、誘拐され属性の高そうな女戦士でいっぱいだった。


 その体脂肪低めな集団に囲まれつつ、クマクランはリンベルトと片目爺と一緒にバスを降りた。




 トレレボルグのヴァイキング軍事キャンプ遺構を何倍にも何倍にも拡大したような建物に、無数の戦士たちとそこそこの数のヴァルキューレたちがひしめいていた。


「わしがヴァルハラ学園、学園長オーディンである!ついでに2年3組を担任している」

「校長が担任とか地獄じゃねえか」なんということか。先ほどの片目爺がオーディンだったとは(棒)


「別名が死ぬほどいっぱいあってなので、適当に呼んで宜しい。まずは諸君の生活する寄宿舎を割り当てる」


「おいばかやめろ」

 クマクランがいろいろぎりぎりな感じになりそうな状況に戦慄していると、壇上に巨大な手袋が運ばれてきた。

 驚いたことに手袋は中身もないのに五本の指を曲げ伸ばししながら直立し、どこから声を出しているのか気味の悪い声でしゃべりだしたのだ。


「お前たちはみんな、血に飢えて残酷でがさつで頭の中には酒と暴力と文化水準の低いエロへの欲求しか詰まっていない。そんなお前たちが入寮するのにふさわしい寄宿舎は……」

ゴクリ。クマクランは固唾を呑み、リンベルトは頭を抱えた。


「スクリューミル! 俺の腹の中にご案内! ようこそ、全員スクリューミルだ!」

手袋の哄笑がこだまする。実のところここにはスクリューミル寄宿舎しかない。建物の中は空っぽになった。 




 しばらくすると食事の時間になり、堂内に大量のベンチとテーブルが並べられた。内部面積も少し増えたような気がして、クマクランは目をしばたいた。何事もなかったようにスクリューミル寄宿舎から戻ってきた大勢のヴァイキングたちがあちこちで座席を争って喧嘩をしている。


「やあ、貴方は新任の職員だね。傍に座っても良いかな」

見回すと辺りはすでにほぼ満席で、この僕っ娘風の喋りをするヴァルキューレから逃れることは出来そうにないようだった。

「仕方ない、隣に座ってくれ。他にも席にあぶれたものがいるかもしれない、出来るだけつめて、ただし体が触れないように座ってくれ」

「生真面目だね、了解了解」

「別に真面目という訳じゃないんだが、長いことその、禁欲が続いていてね。なぜそんな事になってるのか自分でも良くわからないんだが。たぶん女性に接触すると僕は爆発すると思うんだよ。確信がある」

「その花火は汚そうだなあ」

 その後はしばらく当たり障りのない話をしながら、猪の肉に舌鼓を打った。何を隠そう、この食堂いつからそうなったには猪の肉しかメニューがないのだが。


「おい、そこのひょろひょろした奴!俺様に席を空けろ」

屈強な戦士の一人が図々しく大盛りに盛り付けた肉の皿を片手に、二人を血眼で見下ろしていた。

 ヴァルキューレが相手をことさらに刺激するような返答をするのを、クマクランは頭痛をこらえながら見守った。なぜか何を言うか前もって予測できる。コワイ。

「君は臭そうだ。遠慮してくれたまえよ。こちらのクマクラン先生は汚らしく爆発する危険はあるが、少なくとも食事時に同席して問題のない匂いだからね」

「殺すぞ貴様ー!」

どこかで聞いた様なせりふを吐きながら戦士が長い柄の戦闘斧で襲い掛かってきた。問答無用である。

「やめろ、死ぬ、死ぬって!」

顔面すれすれを掠める斧のぎらついた輝きに、クマクランはすくみあがって助けを求めた。


「大丈夫だ。ヴァルハラに招かれた戦士は、戦っても死ぬことはない」

唐突にオーディン学園長が現れた。


「皆ある時期が来るとひっそりとどこかへ姿を消してしまうだけなのだ!ね、このように!」

オーディン先生が両手を上に掲げると床に巨大な穴が開く。


 地の奥底まで続くその穴はまがまがしい赤い光で内側から照らされ、そこには永遠の闘争を繰り返す戦士たちの姿がうごめいていた。


 何かが内側で切れたようにオーディン先生の首がコトンと傾き、口の端から黄色い泡が漏れた。そして穴の中を指差し、うわごとのように声を上げた。

「ヴぁ・・・・・・ヴぁるはら」


「まさか、これが真のヴァルハラか!」


「その点々はちゃんと三点リーダー二つに直さないと、こんなクソの山を読んでなお文章作法や誤字を指摘するタイプの読者さんが……!」


「そんなことは今どうでもいい!こいつらはみんなどうしようもない異教徒だ!主よ、ご加護ー!」

穴の中を指差してリンベルトが叫んだ。

「アンタそのためだけに出てきてたんかい」


 まだ辛うじて食堂だった食堂の外から地鳴りの音と不気味な熱気が伝わってくる。校庭にそびえていたトネリコっぽい巨木がぐらり、と傾いでそこから黒煙が立ち上るのが見える。


「ラグナロク……神々の終焉か」

 崩れた食堂の残骸の上で、クマクランは皿の上の猪肉を間断なく口に運びながら呆然とつぶやいた。

「すべて煙となって消えていくのだな。まあ先ほどからのさまざまな傾向を考えるに、これはどうせ夢だが」


 夢の中でそれを夢と気づけばすなわち明晰夢となる。彼は僕っ娘ヴァルキューレのおっぱいを満足いくまでいたずらした後、設定どおりに爆発することにしたのだった。


「人間の時代が、ちゃんと来ると良いねぇ」



 爆ぜた。

ヴァルハラというかこれはウトガルドじゃないのか。

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