02-16 実践戦闘科の場合
現在アレイシアを含む四人は、実践戦闘科を専攻したクラスメイト達と一緒に学園内ギルドまで来ている。
クラスに行くはずが、ここにいるのは何故かというと、担任の犬人ダル先生からギルドに召集がかかったからだった。ギルドは木造の建物で、その中は依頼を要請、受領する多くの生徒で溢れている。
受付の方でダル先生のお呼びがかかっても、それさえ多くの声でかき消されてしまう。時間がかかってようやく集められた実践戦闘科の生徒は、受付の裏にある部屋へと通される。
「おーし! じゃあお前ら、今回は一番最初の授業だから、実力を見る意味も込めてという事になるな!」
先程はなかなか声が届かなかったということからか、ダル先生は自然と声を大きくしてしまう。それによって生徒に『うるさい先生』というイメージが植え付けられてしまったのは言うまでもない事実だ。
「予定としては、まず討伐系の依頼をクラスで一つ片付ける! その後に現在出来る限りの技を放つ様子を俺がみてやる。魔法も剣技もまだ出来ないという奴は……その辺りは各選択科目の担任の教える事だからさて置き、と。質問がある奴は手を挙げろ!」
ダル先生は、生徒の前で一方的にずかずかと説明を進めて行く。この時は誰も手を挙げなかったため、よしっ、と言って立ち上がると生徒全員に告げた。
「ではこれから、ベルウルフを討伐するために学園北の森へと向かう!」
その言葉に生徒は思い思いの反応を返し、そしてギルドを出発する。
ベルウルフというのはその名の通り、狼の様な低級魔獣の一つである。大して強い訳では無いのだが、数が多い上によく旅人を襲うため、討伐対象となっているのだ。
学園北の裏口から歩く事およそ半刻、クラスの全員は既に薄暗い森の中を進んでいた。
その多くが口を聞く事もせず、周りの気配に気を配っている。現在位置はそれ程森の奥深くでは無いとはいえ、低級に当たるFクラスの魔獣、ベルウルフなら、いつ出没してもおかしくない。
「怖いです、こんな場所は初めて……」
「アレイシアさん助けて……」
だがここに、周りの気配に全く気を配らず、口さえ閉じようとしない二人がいた。フィアンとクレアである。
二人とも、アレイシアとシェリアナに抱き付いて離れようとしない。抱きつかれている二人はどこか鬱陶しそうだ。
「そこの御二方、いい加減離れなさいな」
「だって怖いんだもん……」
「だもんとか言っていないで、早く離れ……!」
「そこ、静かにしろよー!」
ダル先生の注意を受け、四人が気まずい雰囲気になった所で――アレイシアは近くに獣の気配、魔力を感じ取った。
しかし問題はこの後である。それが情報で聞いていたベルウルフよりは強いものだという事も、同時に理解出来たのだ。
「……先生、前方に二匹と左に一匹!」
「ん? そんな気配はどこにも……っ!」
次の瞬間、アレイシアが言った通りの方向に突如現れた気配にダル先生は驚く。その気配は二方向から急接近して来る。
それにいち早く気付いたアレイシアは、一瞬反応が遅れたダル先生を庇う様に立ち、茂みから現れたその獣を顎下から蹴り上げた。勿論、身体強化を発動させて、である。
「先生っ!」
「ああ、俺は大丈夫だ!」
アレイシアは、その獣の方を向いて観察すると、ベルウルフの上位種であるギルウルフだという事が分かった。
黒い毛並みはベルウルフと同じだが、その体の大きさが桁違い。体高四テルム程度のその体は、アレイシアからしてみればかなり大きいものだった。
――こんな時だけ、永遠に伸びないこの身長を恨めしく思うアレイシアであった。
「まだ戦えない奴はなるべく後ろに下がれ!!」
ダル先生のその声により、生徒のほとんどが後ろへと下がって行く。その中には、フィアンとクレアの二人の姿も見られた。
結局、前に残ったのはダル先生含め七人、そのうち女子は、アレイシアとシェリアナの二人だけとなった。
「……来る!」
アレイシアのその声に、他の六人は揃えて臨戦体制を取る。魔導書を持つ者、剣を抜く者など、様々だ。
「ガルァ!!」
二匹のギルウルフが五人の男を狙って飛び出して来ると同時に、アレイシアとシェリアナの方には、先程蹴り飛ばされたギルウルフが向かって来ていた。
――願いよ届け! 我、その刃に全てを裂きし風を纏わん事を望む!
「風よ!!」
シェリアナは短剣を腰のベルトから抜き、刀身に風の刃を纏わせた。ギルウルフがシェリアナに到達すると同時に、その背中に短剣を突き立てる。
「グァァアアッ!!」
背中に短剣が刺さったまま、方向が逸れたギルウルフはアレイシアの方へと突進して来る。
アレイシアは、ギルウルフの足下に水魔法を放ち、そのまま風魔法で氷結、身動きが取れない様に固定した。そしてシェリアナが、先程外した急所である首元を狙って、抜いた短剣を再び振り下ろす。
ザシャッ!
「ガアゥ! ル……ガッ…………」
「やった!?」
「みたいね! ……でもあまりその言葉は言わない方が良いわ」
そこで丁度、ダル先生が残り一匹のギルウルフを斬り伏せ、アレイシアの方へと向かって来た。
「二人共、よくやったな……それと、アレイシアだったか? さっきは気配に気付いてくれてありがとう。まさか氷魔法を使うとは思わなかった」
「はいっ!」
「どういたしまして。……あと、この場を早く離れた方がいいわ、血の香りに誘われて何が来るか分からないから」
アレイシアがそう言うと、ダル先生は相槌を打って生徒達を早急に森から出すために動き始めた。
森から出て実践戦闘科の教室へと戻って来た皆は、そのまますぐに解散という事になった。ダル先生は、この件を学園長三人に伝えるために、戻って来て早々、教室から出て行ってしまった。
次の選択科目は、シェリアナと一緒に研究科へと向かう事になっているのだが――
「あ、あの黒翼のアレイシアよ!」
「あいつを降参させたという一年生か……」
「聞いた? さっき戦闘科の授業でギルウルフを倒したんだって!」
どうも、クラスに遅れてしまいそうなのは気のせいではないだろう。ギルウルフの件で更に噂が広まってしまったのだ。
なかなか身動きが取れない中で、二人は人混みを掻き分けてクラスへと走って行くのであった。
軽い戦闘でしたー。
部活で映像作品とか作ったり、中間も近いのでいろいろと忙しいです(・・;
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