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02-12 黒翼のアレイシア


 修行を始めてから二ヶ月。神力の扱い方について黒美さんに教えて貰っていたアレイシアは、ある事に気が付いた。

「……ねぇ、私の神力が少し増えてる?」

「それはそうよ……私の血を吸いまくって増えない訳がないわ」

 そのことを黒美さんから聞くと、アレイシアは内心でかなり喜んだ。修行をしていく上で神力が増えるのは当然、喜ばしいことなのである。

 ――ただ、扱いが慣れずに神力の半分近くを無駄に使ってしまうため、効率良く神力を使う修行の方が重要と言えるのだが。

「ならもっと吸わせて?」

「えっ、そんな……断れないじゃない、いいわ……」

 少し嫌がりながらも吸わせてくれる辺り、アレイシアは嬉しく思っていた。なんと言ってもその血は絶品。世界中どころか、異世界中の吸血鬼が味わいたがることは間違いないだろう。また、そんな血を独り占め出来るとは少しシェリアナに悪い気もした。

「あのね、だから、神も生命体なんだよ……血を吸われすぎたら……」

「大丈夫、そんな時は私一人で修行しておくわ」

 口元を血でべったりと濡らして微笑むアレイシアに、そういう問題じゃない! と黒美さんは脳内でつっこみを入れた。







 それから更に時は経ち、神力の直接的な力の使い方をアレイシアは教わった。どうやら、魔法よりも遥かに効率の良い力の使い方という物があるらしく、例えば一瞬の間に多量の魔力を出す必要のある技を簡単に使う事が出来るのだそうだ。

 ……そして現在、空を飛ぶ黒美さんに、それを体を以て叩き込まれているのである。

「ほらっ! そこは斜め下じゃなくて横に避ける所よ!!」

「うわあぁぁお手柔らかに頼みますっ!!」

 魔法魔術において重要なのは、魔力量や効率の良さなどは勿論のこと、それに加えてどれ程の速度で魔力を放出する事が出来るのかという事である。

 普通の『人間』なら、魔力放出量は秒速二十から三十もあれば王宮で一級の魔法騎士団長に就任する事が出来るそうだが、アレイシアは既に秒速数百を超える速度で魔力を手繰ることが出来るのだ。吸血鬼にしても、年齢を考慮せずともこれは高い方だった。

 神力は魔力の七倍もの力を誇るが、アレイシアの神力放出における効率は六十パーセント。つまり神力を使用すれば、今の段階では四倍以上の巨大な魔力を放出するに等しい攻撃を生み出す事が出来るのだ。

「焔球、九十六、密!」

 アレイシアは九十六もの巨大な焔の球を出現させる。あの巨大な猪のような魔獣と戦った時は二十程度しか出せなかった炎球を、更に大きく更に多く、そして複雑な動きをさせて黒美さんに近づけて行く。

 相手の周囲を囲んで近付けて行くからこその『密』なのだが、詠唱が聞こえてしまってそれは黒美さんも理解していた。しかし、それは普通の方法では如何にしても逃れられない複雑な動きだったため、黒美さんは素直にその攻撃を受けることにした。

「っ……!!」

 ゴオォォォッ!!

 炎に包まれ、黒美さんは地面へと落ちて行く。アレイシアは急いで落下地点へと瞬間移動し、黒美さんを抱きとめた。

「ふふっ……まだまだ私は本気じゃ無いわ!」

「何か負け惜しみにしか聞こえないけど、本当なんでしょうね……」

 その日の夜、黒美さんに始めて勝った褒美として、失血死しない程度に毎日血を吸わせろと要求したというのは余談である。










 それは、修行開始から十一ヶ月が経とうとした頃のことだ。ある日、アレイシアが眠りから目覚めてみれば、肩から背中にかけてとんでもない違和感を感じた。違和感の正体が気になりながらも、朝の微睡む心地よいこの時間を堪能しようと、自然と布団の中に深く潜り込む。

 だが、そこで異変は起きた。

「あっ……!!」

 何故か布団に潜り込もうとすればする程、背中でも肩でもない変な場所から痛みが走る。どこが痛んでいるのか、彼女には全く見当が付かなかい。

 結局、その痛みに眠りを妨げられたアレイシアは、ベッドの中からゆっくりと這い出し、部屋のドアノブを目指して眠そうな足取りで歩き出した。

「あれっ……?」

 不思議と、普段通りに歩くとバランスを後ろに崩してしまいそうになる。何かが視界の隅に写り込んだ気がした彼女は、首をそちらへと回し――遂にそれを見てしまった。


(なに、これ……)


 自身の背中に、全く見覚えの無い蝙蝠の様な漆黒の翼が生えていたのだ。それは確かに、伝承で言われる翼持ちの吸血鬼のものだった。





 その後、起きて来た黒美さんから逃げ隠れるようにしていたアレイシアだが、神を相手にしてその翼を隠し通せる筈も無く――

「うーん……そうね、先祖返りみたいなものかしら? やっぱり私の神力の影響を受けたのかも知れないわね」

「これも血を吸い過ぎたから……?」

 ――結局は、黒美さんに相談するという現在の状況に至ったのである。

「……毎日真夜中に、私のベッドに忍び込んでは寝込みを襲っていたことくらい知ってるんだから! 自業自得よ、ふふっ」

「ばれてた……いや笑い事じゃなくて! どうしよ、このままじゃ学園の皆に……隠せる方法とかないの?」

「自分で何とかしてみなさい? さて、今日も始めましょー!」

 そう言って家から出て行ってしまった黒美さんを追いかけるようにアレイシアは走る。何とかするってどうするのよと、彼女は翼についてのことが途端に不安になった。

 また、この日から翼を使って飛ぶ練習が修行のスケジュールに追加されてしまったというのは余談である。







 その一ヶ月後。修行の期間も終わり、亜空間から神界に出たアレイシアは、どうしてか床にへたり込んでしまった。

「この翼、どうしようか……」

 天井の高い神殿のホールに、彼女の無気力な呟きは響いた。黒美さんは、やっぱりと言いたげな表情でアレイシアの身体を持ち上げ、その場に立たせた。

「ふふっ、自業自得よ? 今から学園の寮に返すからね」

「え、ちょっと待って……!」

 黒美さんはアレイシアの肩を持つと、転移を発動させるために神力を集中させ始めた。このままではまずいと、神力を放出して妨害するアレイシアだが、その強さで本物の神に敵うはずも無く、一分程で転移は発動してしまう。

「や、やめてっ! ストップ!!」

「じゃ、またいつか! 用事があったら呼ぶわね」

 最後までギリギリの抵抗を試みるアレイシアだが、押さえ込まれてしまってそれもほとんど意味を為さない。そして、翼を持ったままのアレイシアは、学園の寮へと帰されてしまった。



 翼が生えましたね!

 ああ、早く元の場所まで進めていきたい……。


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