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02-11 神の血はご馳走

 凄まじい勢いで突進して来る魔獣に向かい、アレイシアは無詠唱で、水魔法と風魔法の上位である氷魔法を発動させる。

 ――氷柱(アイシクル)!!

 二十本はあろうかという氷柱が、魔獣へと一斉に放たれる。

 バシャァッ!!

「あっ……!」

 到達する直前、水を氷に留めている風魔法が消滅し、速度による空気の摩擦熱で氷柱が水へと戻ってしまった。

 それを見たアレイシアはすかさず、初級火炎魔法を過度の魔力でわざと暴走させ、巨大な火球を放った。懐かしの『はじめての魔法』である。

 しかし、その火球も獣に届く直前で消滅してしまった。そこでアレイシアは推測する。

 この魔獣は、魔法をある程度無力化出来るのではないかと。実際、上位の魔物は魔法魔術を行使できるのだ。魔法に対する障壁を張っていても可笑しくはない。

「ガアアアァァァッ!!」

「危な……っ!」

 魔獣がアレイシアへと襲い掛かった瞬間、文字通りの瞬間移動で背後へと逃れた。これは魔法だけでは対処できないと、アレイシアは神力を濃縮させて左腕に集める。

 そして現れたのは、巨大な一筋の光剣。これは黒美さんがやり方だけ教えてくれたもので、神力を扱える者はほぼ全員使えるそうだ。

「これ、大丈夫かな……?」

 思いの外簡単に出来てしまって、成功したかどうかが不安だった。逆にこれほど簡単に出来るのであれば、黒美さんが言っていたことも納得なのだが。

 方向転換して戻ってくる魔獣に向かって光剣を構え、通り過ぎざまに横に振りかぶる。

「ってぇぇい!!」

 ザシャッ!!

「グギイィィェァア!!」

 その魔獣はいとも簡単に真っ二つに斬れた。恐らく、魔力以外への耐性はかなり低いのだろう。辺りには、魔獣が光剣に焼き斬られたからだと思われる焦げた肉の匂いが漂っていた。

「ふぅ……疲れた……」

 神力を使ったせいで疲労が溜まったアレイシアは、早く学園へ帰ろうと空中に浮かび上がる。何かにはなるかもしれないと、倒した魔獣の角だけは持って帰ることにした。




 アレイシアが到着した頃には既に、空が真っ赤に染まる夕方になっていた。学園から離れたところに着陸し、門を入ってからは全力疾走で寮への道を駆ける。

 自室の扉の鍵を開け、中へと入るとあの三人がアレイシアの方を振り向いた。

「遅いですよー、これからみんな外で夕食を食べようと思っていたんですから!」

「遅いわ、罰として私に血を吸わせなさいっ!」

「う……」

 フィアンとシェリアナには、帰りが遅かったことを叱られてしまった。そんな二人の後ろには、上品な含み笑いと共に二人をなだめるクレアがいる。

 その後、夕飯を食べに出た学園街で、シェリアナが「血を吸わせろー」と叫びながらアレイシアをずっと追いかけていた事を除けば、大して何も起こらずに一日は終った。






 次の朝、まだ夜中なのではないかという程の暗がりに起きたアレイシアは、着替えた後、棚から丸められた紙を取り出した。それは言うまでもなく、黒美さんに場所を知らせるための魔法陣が描かれた紙だ。

 実はこの日は、前回亜空間で修行をした時に次回の約束をした日なのである。わざわざこの時間に出かけるのも、シェリアナとクレアにあまり知られたくないからだった。亜空間ならば、時間の進みが遅いためにすぐに戻って来られるだろう。

 取り出した紙を広げてその上に立ち、魔導書を手に持って魔力を込め始める。薄く光る魔法陣だが、前回と同様、この程度の魔力では全く反応が見られない。

 それからしばらく。アレイシアが三段階までの魔力を開放したとき、突如発生した眩い光とともに彼女はその場から消え去った。



 少しづつ意識が浮上する。この微睡みのような感覚は、心地良くてついそのまま寝転がっていたいような気分にさせられてしまう。

「んっ……!」

 伸びをして薄っすらと目を開くと、そこにはやはり黒美さんがいた。辺りの様子からすると、ここはどうやら亜空間の森の中のようだ。

「起きた? 今回は直接亜空間内に呼んでみたのよ。成功して良かったわ」

「……失敗したらどうなったの?」

 その言葉に不安を覚え、アレイシアは起きて早々に勢い良く立ち上がり黒美さんに問う。

「それは……何処とも知れない世界の宇宙空間や『無』に放り出されていたかもね」

「私はまだ死にたくないって……少なくとも寿命で死ぬ事は無いだけなんだからね。はぁ……」

 そう深いため息をついたアレイシアは、腕を組んで木に寄りかかる。これから行うのは言わずもがな、1ヶ月位にはなると思われる修行だった。彼女がそう考えていると、黒美さんは突然――

「という訳には行かないのよ……」

「心読まれた!?」

「口に出てたわよ、1ヶ月も修行しなきゃなのーって」

「あ、そう……」

 アレイシアは思わず口元を抑え、口をついて出てしまう言葉には気をつけようと考えた。黒美さんはこれでも神なのだから、もしかしたら本当に心を読めるかも判らないのだが。

「えー、あのね? 下手したら、魔界がもっと早く攻め入るかも知れないって情報があって……だから」

「だから面倒だろうけど、一年間はここで修行してもらうわ、って?」

「えっ、心読まれた!?」

 言葉が重なり、先程のアレイシア同様に驚く黒美さんだが、別に心を読んだというわけでは無く、言いそうなことを推測して言ってみただけなのだった。得意げな笑みで、アレイシアはその事を説明すると、

「読心術にちょっと期待たのに……」

「無理に決まってるじゃない」

 何故か黒美さんには落胆されてしまった。




 それから、亜空間内の時間にして三日が経った後のことだ。アレイシアはいつか感じたことのある変な感覚を覚えていた。

 頬は紅潮して妙に落ち着かず、理性が本能に圧されている心地の悪さもある──そして、込み上げてくる食欲にも似た渇望。

「黒美さん……あの、私ちょっと……」

「どうしたの?」

 黒美さんはアレイシアに近寄って行く。だがアレイシアは、それを無意識の内に狙っていたような気がした。神も生命体だと、黒美さんから聞いたことがあったのだ。

「あの、血を……吸わせて欲しくて」

「……わ、私の!?」

 そこでアレイシアは瞬間移動を発動。背後から抱き付いたアレイシアは、黒美さんの首もとに牙を突き立てる。黒美さんの方がアレイシアよりもずっと身長が高いため、腰に足を回して抱き付く形になってしまう。

「私の血は、あまり……吸うと……」

 彼女はその血のあまりの甘美さに夢中になった。何処までも深く、甘く、そして力のあるその血は、瞬く間にアレイシアを虜にする。

 そして彼女は、短い時は数時間、長い時には数週間おきに起こる吸血衝動の度に、黒美さんの血を吸うことが習慣となってしまった。これが、後にある事件を引き起こすとは知らずに――

 アレイシアが行使した読心術もどき、ちょっと、見たことがある人もいたかもしれません。私がやっても成功したことありますし!

 冒頭の魔法は別に九番の妖精じゃありません(笑


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