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02-10 西の草原

 気付けばアレイシアは、白くて四角いあの空間に立っていた。前方のかなり離れた所に、白いワンピースを身に着けた黒美さんが立っている。

「こんにちは! 今日もよいお天気で……それにしても、吸い取られたわね」

「うん……なんか脱力感がすごい」

 やはり、黒美さんはアレイシアの全てを見ているようだった。それも、アレイシアが恥ずかしさを覚えてしまいそうなほどに——ただ、これは彼女にとって安心できることでもあるので何も言うつもりはないのだが。

「脱力感って、吸血鬼が獲物に抵抗されたら困るからそうなるって知ってた? あと、脱力感というよりそれは……」

「知ってるから言わなくていいわ……前者は初耳だけど」

 獲物とは、ここではアレイシアのことなのだろう。確かに、抵抗するつもりは無かったが、抵抗する力も起こらなかったと思い返す。

「それはいいとして……あなた、あのシェリアナと後戻り出来ない関係にあるわよ」

「どういうこと……?」

 急に話を切り出され、アレイシアはやや困惑する。

「それは……あの子があなたの血液を口にしたものだから、血液に含まれる多量の魔力や神力が身体に影響して、寿命がかなりのびてしまったという事ね」

「えっ……成る程、具体的にはどれ位?」

 吸血鬼は血を飲むことによって魔力を得ることができるのだが、その中に妖力や神力が含まれていたらどうなるのかは想像に難くない。しかし、これがシェリアナの人生を大きく変える事になるかもしれないのだ。

 内心は恐々としながらも落ち着き払った姿勢で、アレイシアは黒美さんの答えを待つ。

「そうね……えーと、多分、体はあれ以上成長しなくなって、寿命は七千年くらい。神力はとても強い影響力を持っているのよ」

「……私に責任を取れと?」

 アレイシアは、自分の血のせいで寿命が長くなってしまったのなら、責任を持って彼女と過ごしていかなければと考える。寿命が長いということは、他の者に取り残されるということであり、必然的に孤独が付き纏うのだ。

「そんなことは言わないわ。それはあなたの自由だし、良ければもっと味わって貰いなさいよ」

「えー……あっ!」

 そこで不意に視界が揺れる。意識は薄らぎ、気付けば彼女は、現実に目覚める前の微睡みの中にいた。

 余談だが、彼女とシェリアナは起きた後、血を洗い流すためにシャワーを浴びることを要求された。アレイシアは恥ずかしがりながら渋々と、シェリアナと二人で湯船に浸かることとなってしまった。






 この日も、午前中だけの授業が早々と終わる。

 アレイシアは、フィアンに外で魔法魔術の練習をして来ると断りを入れ、大魔法を放っても問題の無さそうな学園西の草原へと向かう。空を飛んで行きたかったのだが、それは学園からある程度離れた後にした。それを目撃されてはもう弁明の余地が無いからである。

 四半刻もの飛行の後、アレイシアは目的の場所に到着した。そこは川が流れ、遠くには森が見える、とても自然豊かな場所だ。ただ、これ程自然豊かな場所では火炎魔法を放つことは躊躇われる。

 今日アレイシアは、矛盾の能力による『こじつけ』が何処まで通用するのかと、それを調べるためにもこの場所へと来たのだった。瞬間移動で感覚を掴んでから、他の用途も見いださなければと思ってはいるものの、未だにこれ以外では何も使い道が無いのが現状だ。アレイシアが今回知りたいのは、今の力量でどれだけの事が出来るかという事である。

 とりあえず、そこら辺に転がっている小石を使い、当たっていないのに当たるという矛盾を試そうと考えた。ここでは適当に『必中の投石』と呼ぶことにする。

 アレイシアは手近で投げやすい大きさの小石を生い茂る草の中から拾い、そして神力を込め、想像する。当たりもしない筈の小石が、標的へと吸い込まれる様に飛んで行くという、その様子を事細かに。

 徐々にイメージがはっきりとして来た所で、アレイシアは手に持った小石を勢い良く近くの木……の上に茂る葉っぱの一枚を狙って投げた。

 ——パシャッ!

「おおー……!」

 若干外した方向に投げてしまった筈の小石は、極めて自然な形で狙った葉っぱへと命中した。これにはアレイシア自身もかなり驚き、ため息混じりの感嘆の声を発する。

 それから何度も練習を重ねて行く内に、彼女の能力に関して大まかに二つのことが解った。

 一つは、物に矛盾を付加する事は出来ないという事。もう一つは、狙った事象からあまりにも逸れるとその通りにはならないという事だ。

 前者は、必中の効果が付加された武器を作る事はできないが、使う時に技としては発動できるという事である。後者は、後々改善して行けるだろうか。

 と、一段落が着いた所で彼女は違和感を覚え、思わず辺りを見回す。それは、地響きのような低い音が、腹の底まで響いてくるような不快感だった。

 ——何かが来る……!?

 アレイシアの鋭い聴覚はそれを素早く察知した。

 遠方、木々の生い茂る森の方向だ。咄嗟にそちらを向き、魔導書をポーチから出して臨戦体制を取ったアレイシアは、次の瞬間現れた巨大なモノに愕然とした。

「ええええぇぇっ!? 何あれっ!!」

 アレイシアはこの日不運なことに、この草原における最も上位の獣と遭遇してしまったのである。それは、この近辺の動植物を荒らしていることで有名な、城一つと呼ばれるほどの巨大な体躯を持つ猪型の魔獣だった。

 続きは次回です!

 今回は前半に、聞き捨てならない設定が潜んでいたかもしれないと思いますが、お気になさらずに……まぁ、そういうことなのですよ。きっと。うん。


 感想や評価など、心よりお待ちしております!


 番外編/コラボも同時に執筆中です。上げられるかは分かりませんが……豚足好きな吸血鬼のおはなし、かもしれない!

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