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01-08 急襲 2

 意識がだんだんと曖昧になって行く。手足の感覚も薄れ、痛覚が弱まってきたのか、胸元の傷の痛みまで引いてきた。

 何とかこの状況を打開出来る方法は無いかと、彼女は薄れ行く意識の中で考えを巡らす。しかし当然、はっきりとしない意識の中ではまともな思考を保つ事は困難だ。

 高い自然治癒力を持つ吸血鬼でも、少なくとも百年は生きなければ心臓を貫かれて回復するという荒技は難しい。治癒魔法を使って回復を促す事は可能かもしれないが、現在のアレイシアは治癒魔法をそれ程良く使える訳でも無いため、あまり頼れるものでは無いだろう。


「ぅ、えぇぇ……けほっ……」


 何もすることが出来ない自身への悔しさで、自然と涙が込み上げて来る。二度目の人生があるという時点で充分贅沢な話なのだが、それを無駄にするのは全ての死者に対して失礼な話だ。だから、彼女はここである決意をした。

 一か八か、生きる死ぬか、二択に一つ。何もやらなければ死は免れないため、わずかな希望だけでも見える行動に出る事にしたのだ。

 それは、永遠に現在の容姿を保ち続ける不老になる事だった。そうすれば死ににくい身体になると、あの黒髪美人さんが言っていた筈である。

 注意しなければいけないのは、不老は決して"不死"では無いという事。アレイシアは、もしかしたら今も自身を見ているかもしれない神に向けて、叫ぶ様なつもりで強く念じた。


 ————今、お願いだから不老にして……っ!! 私にはまだやる事があるはずな……

 

 感情的に訴えられた彼女の言葉はしかし、意識の暗転とともに最後まで言い切られる事は無かった。

 ただ、彼女が意識を失う直前。どこか楽しそうな声量の、とても懐かしい声を聞いた気がした。

















「ぅ……?」


 たった今まで、夢を見ない眠りのように何も感じていなかった彼女。瞼をうっすらと開き、暗い視線の先に見える指で床に触れる。

 そこには木の材質を思わせる凹凸があるものの、触り心地はどこかべったりとしていて、まるで長時間空気に晒されて固まった血の様な————


「……ぁ、あぁっ!! ……っ、そうだ、私は……」


 気絶する前の事を思い出し、一瞬で意識が冴え渡る。アレイシアは上体を起こし、思わず胸部に左手で触れた。

 そこに傷らしき箇所は見当たらず、衣服に空いた大きな穴から血濡れた肌が覗くだけだ。この時彼女は、自身が完全に不老になったのだと確信した。

 不老になれば死ににくくなるとは言っても、心臓に空いた穴を治す程とは流石に驚いてしまう。ただ、身長にしろ胸にしろ、もうこれ以上成長しないのかと思うとどこか寂しく虚しい様な気持ちにさせられる。


 しかし、今は自分の事よりも、この場で未だに眠っている人達を起こす方が優先だ。恐らく、何処かに設置されている催眠魔法の魔法陣を破壊すれば、彼らは目を覚ます筈であった。その魔法陣を逸早く見つけて解除するため、両親がいる場所の隣へと歩み寄って行く。


 ガタッ!!


「……あわっ!」


 二歩前へと進んだ瞬間、突然前日と同じ様な睡魔に襲われた。どうやらこの先は魔法陣の範囲内の様だ。咄嗟の判断で体重を後ろに掛け、背中から床に倒れ込む。

 ここでもしも前に倒れていたら非常に危険な所だったが、お陰で正方形の頂点を取るように設置されている魔法陣をすぐに発見する事が出来た。

 アレイシアは魔法陣に手をかざし、多量の魔力を一気に流し込む。これで魔力の回路を破壊し、魔法陣を無力化する事が出来るのだ。

 そして、四つ目の魔法陣に魔力を流した時————


「……んっ、ここは……?」


「あ、母様!!」


「……アレイシアちゃん!! ……な、何でそんなに血が……大丈夫!?」


 アレイシアは勢い余り、目を覚ましたナディアに抱きついてしまう。母親は血塗れの娘を心配している様子だったが、当のアレイシアは母親に抱き付いたまま離れない。

 何時の間にか父親のオーラスも起きていたのか、アレイシアの服の背にぽっかりと空いた穴に視線を向けては疑問の表情を浮かべている。

 その後も続々と起き出す屋敷の使用人達。何が起こったのか理解出来ずに混乱している者が殆どだった。


「……何があったんだ?」


「あ、父様。説明はするけど……その前に風呂に入って来ても良い?」


「まぁ、そんなに血がついていたらな……」


「ありがと、ついでに着替えてくるわね」


 もう既に夜のため、暗い食料庫の中では確認が難しかったのだが、彼女は自身がなかなか凄まじい格好をしているという事にようやく気が付いたのだ。アレイシアは食料庫を後にし、クローゼットから黒い服を取り出して風呂場へと向かって行った。




 ————その後、風呂上がりのアレイシアが両親による質問攻めを喰らったというのは当然の話である。仕方無く誤魔化した部分もあったが、催眠魔法で眠っていた事、自身を殺そうとする者がいた事、食料庫で血を流したのは自分だという事は素直に伝えた。

 何かと大変な事件はあったものの、今日はアレイシアの誕生日だ。その日はアレイシアが眠ってしまうまで、夜通しならぬ昼通しで祝いをしたという。



 はい、前回の後編になります!(結局今回で一章は終わらなかった……)


 色々と、改定前の二倍くらい描写の量が膨らんでしまって大変です……が、それだけ描写の力が上がっていたら良いなぁとポジティブに考えてみる事にしましょう^^;


 次回で第一章終幕、その後はやっと魔法魔術編ですね。

 次の更新こそは早くしよう……っ!


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