01-07 急襲
更新遅れました、すみません……m(_ _)m
今回は文章全体を書き直してしまいました。
初の戦闘描写とあって、改定前の方は納得の行かない箇所が多々あったからです^^;
まぁ、少しでもこの小説を読者様に楽しんで頂ければ幸いです。
第一章七話、どうぞー!
アレイシアは今年で十二歳になる。
彼女が十一歳の頃に創り上げた飛行魔法は、一応周りには公表しないという事になった。何故かと言えば、アレイシアがあまり有名になっても困る上に、飛行魔法を悪用されたくないという両親の願いがあったからだ。
この様な新技術は必然的に、人のためになる事もあれば、人を殺める事にもなりうるのだ。長く生きた経験からか、アレイシアの両親はその事を良く理解しているのだろう。
また、彼女は十二歳になったばかりの一月十日から、国王が直々に誘って来た魔法魔術学園に入学する事が決まった。現在は一月六日、誕生日の一月七日を翌日に控えている。
当然、魔法魔術学園に入学するとなれば準備すべき物も多く、学園指定のローブに靴、自身の魔導書となる白紙の厚い本など、他にも多くの物が必要だった。これらの買い物は既に済ませてあり、荷造りもほぼ終えて今すぐにでも行ける状態になっている。
白紙の厚い本の表紙には英語で『the Grimoire of Alysia』と、要するに『アレイシアの魔導書』と書かれており、アレイシアが作った飛行魔法含め二十を超える魔法が術式化されて収められていた。
……つまり、この時点で既に白紙ではなくなっているのだ。学園に白紙でない魔導書を持って行って良いのかは分からないが、これでも自分で創り上げた重要な魔法魔術の資料。彼女にとっては、学園に行くからと言って屋敷に置き去りに出来るほど軽い物では無いのである。
学園は、アレイシアが二歳の頃、始めて本を買った時に行った町であるラ・レティルの先の山脈を超えた場所にある。大体道中馬車で丸一日といった所か。アレイシアは夜明けと共に馬車で出発、夜明けと共に学園に到着という予定になっていた。
アレイシアは、魔法魔術学園ではどの様な事をするのかと非常に楽しみにしていた。確かに、今まで独学で魔法魔術の勉強を進めて来たが、この世界の基準としてどの様な勉強をするのかと思うと、東次は自然と動悸がする程の興奮を覚えたのだ。これまでの日々であまり友人と呼べる"ヒト"が居なかったのも原因の一つだろう。学園は全寮制になっているため、どの様な友人が出来るのかと心底期待しているのかもしれない。どうせなら、他の吸血鬼とも仲良くなりたいと彼女は考えていた。
学園ではどの様な事が起こるのか。どの様な友人に会えるのか。そもそもどの様な場所なのか。アレイシアは想いを馳せながら、地下室の卓上に魔導書を広げる。
「ふぅ……ぁ、あれ……?」
小さなため息に続き、眠たそうな疑問の声を発するアレイシア。魔導書に書かれた全ての文字が歪んで見えたのだ。
「……な、なんで……ねむ……ぁ……」
ガタッ!
突然襲って来た睡魔に、アレイシアは卓上に倒れる様にして眠ってしまった。
何故眠くなったのか。その理由を考える暇も与えられずに彼女はこの時眠りに落ちてしまった。
次の日の昼。通常なら起きる筈も無い時間に彼女は目を覚ました。
辺りを見回し、自身が地下室で眠っていた事を自覚する。更にそこから記憶を辿り、昨日の夜、突然の睡魔に襲われ思わず眠ってしまった事を思い出す。
椅子に座ったまま上体を起こし、昨日眠ってしまった理由を考える。
体中がやけに重く、肉体的な面と精神的な面で疲れた様な倦怠感。それに加え————
「……魔力?」
自身の体内に、誰のものか分からない魔力が極微量存在しているのが分かった。アレイシアは、この様な状態に心当たりがある。
催眠魔法——これを使われてしまった場合、行使者の魔力が体内に少し残されるために後遺症として数日の不調が付き纏うのだ。
これなら、昨日の研究中に突然眠ってしまった事も、現在の気怠さにも説明がつく。問題は催眠魔法を何時、何処で掛けられたかという事だ。そこで強い不安を感じたアレイシアは、辺りを見回し、服装が乱れていないかを細かく確認する。
「問題なし、っと……」
身の安全を確認し、立ち上がった彼女は、おぼつかない足取りで階段へと向かって行く。勿論、机の上に置いてあった魔導書も忘れずに抱える。
誰が何のために催眠魔法を使ったのか、と考えると嫌な予感は尽きない。襲撃の可能性もあるこの事態に、よろけながらも急いで屋敷へと戻って行った。
「闇壁!!」
現在は昼のため、未だ日光に慣れないアレイシアは、日を遮る小さな闇の壁を魔導書を用いて出現させた。
上空六テルム(一・五メートル)程度の位置に現れた円状の闇壁は、アレイシアの上をすーっと滑る様についてくる。催眠魔法の後遺症が残る中でもアレイシアは闇壁を軽々と扱うが、これでも難易度としては中級魔法の上位に当たるものなのだ。
屋敷の中へと裏庭の扉から入るが、どこを向いても人の気配は全くと言っていい程無い。屋敷の廊下は完全に静まり返っており、何かがあったのは確実だろう。
しかし、人物だけが消滅するなんて"余程の事"でも無い限り有り得ない。絶対何処かには居る筈だと考え、再び魔導書である魔法を発動した。
「探索!!」
この魔法は名前の通り、周囲に存在する物体や魔力を察知する事が可能だ。半径二百テルム(五十メートル)程度は既に察知出来る様になっているため、一応屋敷の全体を把握する事が可能なのであった。
この時アレイシアは、位置としては厨房の奥に眠っていると思われる沢山の気配を感じ取る事が出来た。その中でも特に大きい魔力を感じ取れる四人の内二人は、恐らくナディアとオーラスだろう。誰かが分からないもう二人は、厨房の入り口に近い場所をうろうろとしていた。
アレイシアは走り出す。少し前に使える様になった身体強化魔法で更に加速し、魔法をいつでも発動出来るようにと準備しておいた。不思議な事に、催眠魔法の後遺症はこの時既にかなり薄くなっていた。
————ガタンッ!!
僅か数秒で厨房に辿り着き、両開きの扉を勢い良く開け放つ。すると、周囲の状況を確認する暇も無く突然小さな火の玉が目の前に現れる。
咄嗟に張った魔法障壁で火球を防ぐも、その直後、隙を与えず真上から剣の一閃が迫る。少々剣に掠りながらも勢い良く横に転がった彼女は、攻撃を仕掛けて来た張本人の姿を捉える。
振り下ろした剣を持ち上げ、アレイシアと視線を合わせる男。見た目から判断すれば、どこにでも居そうな金髪の青年といった感じだ。
「……貴方は、誰? この屋敷に何の用?」
「お前に言う事は無い。俺はただ、雇われているだけだ」
冷淡な返答に、アレイシアは少々怒りを覚えながら再び男に問おうとする。しかし、発そうとする言葉に無意識に力が篭ってしまうため、一旦気持ちを落ち着かせてから話し始めた。
「雇われて……? 誰が貴方を雇っているの?」
「……それを言うと思ったか? 俺が言われた事は、この屋敷に住む黒髪の少女を斬り捨てろ。それだけだ!!」
言い終わると同時に、男が持つ剣からバチッと空中に一筋の光が走った。無詠唱で雷魔法を剣に纏わせたのだ。
これで剣の斬れ味を良くし、更には攻撃範囲を広げ、一度喰らえば体が痺れるという効果まで付加する事が出来る。
「……!? 平和的に話し合いで解決した方が互いに得策だと……きゃっ!?」
「お前と話す事など無い!!」
胴を横に薙ぎ払う様な一撃を、ギリギリの所で後ろに移動して回避する。その時、思わず出してしまった声にアレイシアは恥ずかしさを覚える。
横薙ぎの一閃から前へと踏み込み、アレイシアへの接近を図る男。それに対し、武器と言える様な武器を全く持たないアレイシアは、剣から逃げる様に離れつつも、お返しと言わんばかりに初級魔法を弾幕の如く連続で放つ。
————しかし、初級魔法を多く相手に放った所でそう簡単にダメージを与えられる筈も無く、殆ど男の魔法障壁に防がれてしまっている。
アレイシアは困っていた。このまま男に大魔法を放てばダメージを与えられる事はほぼ確実なのだが、屋敷に被害が出る上に、厨房の奥で眠らされている人達も居る。避難でもさせない限り、自身の魔法の流れ弾で使用人や両親を傷付けかねない。
ガタッ!!
「扉……!?」
剣を避けている内に、何時の間にかアレイシアは行き止まりに追い込まれてしまっていた。前方には木製の扉があり、その先に部屋がある事は分かるのだが、どうやら鍵が掛けられており行き止まりも同然だ。
背後で男が立ち止まる音。アレイシアは扉に背を向け、男の方を振り返る。
「もう行き止まりだ。そろそろ諦めろ」
「……その程度で、諦めると思った?」
アレイシアは逆手で扉の錠前を鷲掴みにすると、身体強化魔法を付加した怪力で錠を扉もろとも破壊した。
——バキンッ!!
錠前が付けられていた扉の右側は全体が木片と化し、崩れ落ちる扉と共にアレイシアは奥へと移動した。
「……っ!?」
そこは、天井と壁が石で覆われた食料庫と思わしき場所。しかし、それは重要では無い。アレイシアの両親と屋敷の使用人達全員がそこで眠らされて居たのだ。
アレイシアの思考が停止する。それは僅か数瞬の間であったが、彼女が隙を見せるには充分過ぎる時間だ。
雷を纏った剣の突きが、背後から的確にアレイシアを捉え、彼女がその攻撃に気付いた頃には時既に遅し。それ程の至近距離では勿論、魔法障壁を張る事も回避する事も間に合わず————
————サクッ……
その剣は、アレイシアの心臓を貫いた。
驚きの表情を浮かべ、床に倒れ伏すアレイシア。その時に剣が抜け、傷口から多量の血が溢れ出す。
男は何を言うでも無く、剣を振るって血を払い落とすとそのまま食料庫から去って行った。食料庫の中には、眠らされた屋敷の住人達と、血に濡れたアレイシアだけが残される。
————神様……っ、ぁ……たす、け……!!
彼女は朦朧とする意識の中、ただただ、助けを求めて声を発そうとしていた。
はい、Bad Endで終わりという訳ではありません(これ重要)
まだまだ先はありますよ!
感想評価や誤字脱字の報告、是非ともお気付きの点があれば送って下さると嬉しいです。
では、次で恐らく第一章の終わりでしょう。
乞うご期待です!
(↑使い方、合っていますよね?^^;