01-04 初めての魔法魔術
今回は短めになります。
……というよりも、前回が長くなってしまったので、切って二つに分けた感覚です。
あ、絵も描いていますよ!
塗りを少しずつ進めております^^;
さて、歳の頃八歳といえば何がある日だったか。それは、母親による魔法魔術使用禁止令の解除である。
パーティーの翌日。東次は、ファンタジーの醍醐味と言える魔法魔術を扱える様になるという事で、六年間待った甲斐があると非常に喜んだ。そして、部屋の角で埃をかぶっていた本『魔法魔術詠唱術式全集~初級から上級まで 第三版』をすぐに引っ張り出して来たのである。
幸い、六年間でこの本の第四版は出版されなかったため、本を新しく買いなおす手間は省けた。
魔法魔術は全て母であるナディアが教えるという事になっており、アレイシアは中庭で待っている母の元へと本を持って駆けて行く。
その小さい体に不釣り合いなほど大きい本に、たびたびアレイシアは床に転んでしまいそうになる。いくら力のある吸血鬼とはいえ、幼いうちは人間と変わらない程度の力しか持たないからだ。吸血鬼が圧倒的な身体能力の向上を見せるのは、吸血衝動が起こり始める頃とも言われている。
「母様!」
「アレイシアちゃん! やっと来たわね。準備は出来てるわよ」
なんとかナディアの下に辿り着いたアレイシア。そこには直径十テルム(二・五メートル)程度の大きな魔法陣が描かれている。
魔法陣とは最も有名な術式の一つであり、結界など、魔法を固定すべき場所には比較的良く使われているのだ。
例えば、敵襲や災害に備えて建物に張る強化の結界を固定するものもあれば、炎に対する防御に特化した火事知らずの結界もある。
アレイシアが立っている魔法陣は、魔力を感じやすくなる結界を張るためのものであり、これから魔法を習おうとする全ての者に共通する『体内、自然に存在する魔力を感じ取る』という過程を成功しやすくするものだった。
これからアレイシアは、結界によって鋭くなった感覚でナディアが放つ魔力を感じ取り、体内や自然から似た"モノ"を探し出すという最も一般的な方法を行う。
「じゃ、大丈夫ね。魔法陣に魔力を流すわ」
「分かりました。遂に……っ!!」
そこまで言いかけた所で、突然視界が真っ白に染まる。何があったと考えるも、気付けば身体中が痛みだし、痺れたような感覚に襲われそのまま意識を手放した。
何時の間にか、アレイシアは辺り一面真っ白な四角い空間に立っていた。そして、目の前にはあの黒髪の美人さんが立っている。
ちなみに今回は、青と薄緑のドレスを身につけていた。
「こんにちは、今日もいい天気ですね」
「……それは置いておいて、まずは質問に答えて。何で私はまたここに?」
「それは魔力に対する耐性が不十分だったからよ。ただでさえ常人よりも遥かに鋭い魔力に対する感覚、感覚鋭敏化の魔法が合わされば、少しの魔力でも身体中に激痛が走るでしょうね」
「……なるほど、それで私は気絶してこの夢を見せられていると」
アレイシアはうんざりした様に言うが、それ程アレイシアの感覚が優れているという事に他ならないのだ。
普通の人間や吸血鬼でさえ、殆どがこの方法で魔力の感覚を掴むのだから。
「大丈夫、もうじき目は覚めるから。あと、この事を伝えるためにも呼んだんだけど、矛盾を操る能力は十二歳頃に使える様になる予定だからね」
「少しずつ能力に目覚める、みたいな?」
「そうよ。あと、感覚鋭敏化の魔法陣を使わずに先程の方法を試してみるといいわ」
「ん、分かった。それと、貴女の名前は何て……」
そこまで言いかけた所でまた意識が遠のき始める。最後に「私の名前は絶対に教えないんだからねっ!」と聞こえた気がした。
「起きて! アレイシア!!」
アレイシアの耳に、何処か悲痛な声量で自身の名を呼ぶ声が届く。呼んでいるのはどうやらナディアの様だ。霞んでしまっていて、声はあまり良く聞こえない。
「あぅ……母様?」
「よかった……いきなり倒れるから心配したわ……何でかしらね?」
かなり心配そう、かつ不思議そうに聞くナディアにアレイシアは答える。
「うん……きっと感覚が元から鋭過ぎたんだと思う。何か魔力が痛かったし。……だから、魔法陣を使わないで魔力を出してみて」
アレイシアにそう言われ、ナディアは鋭過ぎたとか自分で言わないでよ、と呟きつつも、ナディアの利き手である左手から魔力を出す。
そして、アレイシアはその魔力を逸早く感じ取った。
「……へぇ、これが魔力」
「え、分かったの!?」
驚くナディアを無視し、アレイシアは感覚を掴んだばかりの魔力を操り、知識だけで持っていた詠唱を始める。
火系統魔法の基本中の基本、魔法魔術を学ぶ者なら誰もが一度は練習する魔法だ。
「願いよ届け。我、魔法が行使されん事を望む。火よ!!」
そう言った瞬間、アレイシアの目の前に巨大な焔が現れる。
その焔球は、アレイシアの目の前を一直線に突き進み、中庭の裏、森がある方向へと二百テルム(五十メートル)に渡って焦土へと変えた。
その状況を見ていた屋敷の多くの人達は、そのあまりの威力に恐怖を覚えたという——
「……へ?」
魔法を放った張本人のアレイシアでさえこの反応だ。
彼女はこの時、始めての魔法の行使で、その便利さと恐ろしさを実感したのであった。
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