01-03 パーティにて
文章の全面改定と再投を行いました!
描写が増えたためか文字数も多くなり、二話に分ける事になりました。
……改定が二日空いてしまいましたが、アレイシアの絵を描いていたためなのです。
ん? 前も同じ様な事があった気が……そしてあの頃は絵を描くのに挫折してた気が←
では、本編をどうぞ~
今日はアレイシア八歳の誕生日だ。
彼女の身長も既に四テルムを超えており、長めで腰まで届きそうな黒髪がとても映えている。テルムと言うのはこの世界における長さの単位であり、大体四テルムが一メートルに相当する。
勿論、アレイシアが八歳の誕生日を迎えて何も行わない筈が無い。他の吸血鬼達とも安心して触れ合えさせる年齢になったという事で、パーティーを催す事に決まっていた。
今回のパーティーには、平民貴族関係無しに多くの"人"が集まるという。アレイシアの両親がパーティーで知り合ったという事もあるからか、事ある毎に大人数を呼び、パーティーを開こうとする習性の様な物を持っているのだ。
この辺りでは神童と有名なアレイシアを一目見ようと訪れる者も多く、その中にはイルクス王国の国王が来るという話もあった。母親は『何かコネを作っておいて王子様と結婚しちゃえば?』と薦めたものの、勿論アレイシアは興味が無いので完全に無視していた。
パーティが始まる前。アレイシアと両親は、二階まで吹き抜けとなっているシャンデリアが輝くホールに集まっていた。
アレイシアは既に純白の子供用ドレスを着用しており、胸元にはルビーの嵌め込まれたネックレスを付けている。
そしてこの場が妙に騒がしいと思えば、周りの従者三人程が見ている中で、アレイシアはある種の言葉責め、お説教を受けていたのだ。
「いい? 国王様や他の多くの貴族が来る今回のパーティーで、いつも通りの話し方は控えた方が良いわ」
「ほら。以前言ったとおりに、礼儀正しく、お淑やかな話し方をすれば良いんだ」
「う……そうは言われても……は、恥ずかしいし?」
実は彼女、一年前から口調をもっと上品にする様に言われているのだ。しかし、いざ喋ろうとすると、女口調を使う事への恥ずかしさがどうも先に出てしまう。いつか時間をかけて、ゆっくりと移行すれば良いという考えはどうやら甘かった様だ。
「ほら、いつも通りの会話を……」
「えあ……わゎ、私は、ちょっと……」
「んー、可愛らしくすればいいのに。教えた通りに話すだけよ? ……さっきの会話の続きでいいから、ね?」
そう言われ、頬を紅く染めながら俯くアレイシア。
これは女子として普通の事。頭では分かっていても、身体——特に口——が動かないのだ。
と、彼女も思い切りを付けようと思ったのか、一度肩を震わせ前に向き直った。
「……か、母様、今日のパーティーには何人程が集まる予定なのですか? ぁ、あ、あああぁーっ!!」
少々言葉が足りないながらも、両親が教えた通りの口調で会話の続きを述べたアレイシアは、言い切ると同時に突然顔を赤くして床を転がった。
何の事はない。ただ、自身が発した言葉に対し悶絶しているだけだ。
「……大丈夫?」
「大丈夫だから……っ!! ……じゃなくて、はい。大丈夫です……」
床から起き上がる時、思わず戻った口調を慌てて訂正する。
アレイシアがナディアの方に目を向けると、口元を押さえて小さく笑っているのが見えた。これが所謂『上品な笑い方』なのかと思いつつも、微笑ましく見られていたのかも知れないと推測し、少々恥ずかしい気持ちになる。
「それなら何とか通用するかな……先ずは今日だけでも、その口調を維持してくれれば良いからな」
「はい、分かりました、父様。……うぅぅ」
ホールから中庭に出て、両親と別行動を始めたアレイシアは、さり気無く人の少ないテーブルを選んでジュースを手に取った。
————この時、テーブルが自身の目線より高く、ジュースを取るのに少し手間取ったというのは内緒である。
このジュースはパーティのために用意された物で、モルという果物から取れるという。モルは高い木に生っている林檎程度の大きさの実で、体力回復にも優れている。そのため、モルジュースは多くの冒険者達によって飲まれているのだ。
魔法薬の原料としても有名なため、アレイシアとしては是非とも飲んで見たかった。味は地球で言う所の、葡萄と林檎を合わせて更に酸味を足した感じである。
と、アレイシアがモルジュースを味わっていた時。急にそのテーブルの前に、オーラスと長めの白い髭を持つ男が現れた。その髭男の後ろには三人程、鎧を身に付けた兵士が立っている。
「アレイシア、国王様がお見えになった。口調には気を付けて」
「あゎ、分かりましたっ!」
オーラスの言葉によれば、どうやらその髭男は国王の様だった。国王はアレイシアの顔を見るなりすぐに歩み寄って来る。
「君がアレイシアで間違いないかね?」
「はい、私がアレイシアです。……もしも私が違かったら、父様がこちらに案内しないと思いますが?」
「ほほっ、そりゃあ全くの正論じゃな」
緊張と恥ずかしさを必至に抑え込むアレイシアは、愉快じゃ愉快じゃと笑う国王に若干冷めた視線を送り、モルジュースを口に含む。国王の後ろに佇む兵士達から僅かな殺気が放たれた。
「ふぉっふぉっ……!? そんな目で見ないでくれるかの?」
「むぅぅ。……私に、今回は何の用でこちらに?」
アレイシアは一先ず、無駄な話はやめて本題に行こうと促した。ただでさえ今日一日中、女口調を続けなければならない上に本を読めないと、彼女は少々苛立っているのだ。
「十二歳になったら、儂の息子の嫁に来て欲……」
「いえ、断らせて頂きます」
「す、既にオーラス殿とナディア殿には話し……」
「それでも断ります」
「将来王妃に成……」
「断ります」
「何故じゃぁぁ!」
間髪入れず断るアレイシアの様子に、遂に国王が叫ぶ。
アレイシアとしては、この誘いを断るのは当然の事だった。それは、アレイシアの前世が男だったからでもあるが、王の息子とは即ち王子。この国の王子は一人だけで、歳は二十五程度だった筈である。
————そう、決してアレイシアの歳に近い訳では無いのだ。
「その王子はロリコンかっ!!」
「…………ロリコンとは何じゃ?」
「……あ。し、失礼しましたっ! ……えと、それは古代語を語源に持つ素晴らしいと言う意味の言葉です」
思わずツッコミに走り元の軌道を取り戻すも、不敬罪を当てはめられないかと内心冷や汗をかいていた。
アレイシアが慌てて取り繕った『ロリコン』という言葉、確かに古代語と言うのは当たっている。何故なら、ロリータコンプレックスという英語、もといエングライシアの省略形なのだから————
「む? そうか。何処か納得がいかぬのじゃが……?」
「気のせいでしょう? それに、私は王妃に成りたくはありません」
どうせなら王になりたいものね、と何故か女口調を使って脳内で付け足し、アレイシアはその場を離れようとする。
しかし彼女は、一歩踏み出した時点で国王に呼び止められた。
「待ってくれ! なら、十二歳になったら国立の魔法魔術学園に入るというのはどうじゃ? 儂からのお墨付きという事で、最高のレベルのクラスで入学する事も……」
「……それには興味があります!」
「なら、考えておくと良い。もし行く気があるのなら、儂から学園に書類を出そう」
「はい、父様から手紙を出してもらえば大丈夫ですね。……では!」
そう言い残し、今度こそアレイシアはその場を離れて行った。勿論、オーラスに魔法魔術学園の件を話すためだ。
————この時、女口調を少しずつ無理なく喋れる様になっていたという事に、彼女自身全く気付いていなかった。
その後アレイシアは、そのままの口調でオーラスに魔法魔術学園の件を伝える。どちらかと言えば、魔法魔術学園の件よりも王子との婚約を断った事に驚かれた彼女だが、何故かそれ以上に丁寧な女口調で話している事に驚かれていた。
「アレイシア? その口調は……大丈夫なのか?」
「んんー……少しは慣れました。でも内心、まだそこら中を転げ回りたいくらいに恥ずかしいですが」
「……なら、それはそれで良かったかな? 無理はしなくても少しずつで良いんだぞ?」
「分かった。少しずつで良ければ私も楽だし」
「あ、戻った……」
このままの口調を続けろと言われないか若干心配していたアレイシアは、少しづつでも大丈夫だと言われて安心する。
「では、私はあちらの机にいますね」
「……え?」
そう言いアレイシアは、悪戯をするような無邪気な笑みを浮かべてパーティーの席へと戻って行った。
読者様の感想やアドバイスを参考に、直せる所から改善してして行こうと思います!
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ではまた次回っ!