03-14 国王と再び……
王子に案内されて長い廊下を進んでいくと、大きな木の扉が二人の前方に見えて来る。国王がいる部屋への入り口だ。
「この奥に……」
「分かってるわ」
王子の説明をバッサリと切り捨て、アレイシアは扉に対して体を斜めに向けると左手小指を当てた。
以前と同様、何でわざわざこの様な事をするのかといえば、あえて挙げられるアレイシアの弱点が小指だからだ。
体自体は幼いとはいえ吸血鬼。一般的な人間の成人男性を遥かに超える身体能力を有している。
しかし、運が悪い事にアレイシアの身体は十二歳止まり。小指の先まで鍛える事は非常に困難だ。今まで何回突き指したか……と思い出せば嫌な思い出は尽きない。
ゆえに、彼女は少しでも身体能力が上がる事を願って、たまに扉を小指一本で開けてみる事にしたのである。
「よしっ!」
「ちょ、待てっ……」
バンッ!! ギギィ……
アレイシアがやろうとしている事を察した王子だが、咄嗟に止めに入るも間に合わなかった。中にいた国王は突然の事に驚き、やはりそのまま固まってしまう。
「国王、たのもーっ!!」
「何事じゃっ!? ……あ、アレイシア殿、来ていたのか? それと今はまだ朝じゃぞ?」
再起を果たした国王は、前に謁見をしていた者が丁度部屋を出た後だったという事に安堵する。
それに対しアレイシアは、若干敬称が増えてるのは気のせいかと疑問に思うのであった。
「国王、重要な知らせがあるわ」
「む、なんじゃ?」
「その前に、隣部屋に案内してくれる?」
「うむ」
国王は立ち上がり、接客室の方へと向かって行く。それにアレイシアは着いていくと、部屋の中へと入ってから後ろ手に扉を閉めた。
部屋の中にいた従者数名は、二人が入室した瞬間、客人に出すアテを淹れるために奥の部屋へと消える。
「さて、話というのは……」
「あの件じゃろう?」
「そうよ。ちょっと聞きたい事があって」
国王がソファに座ると同時に、早くもアテが従者によって運ばれて来た。机にカップとミルク、砂糖などを置き、一礼した後に颯爽とその場を立ち去って行く。
「私、あれからギルドで盗賊関係の依頼を二つ受けたの」
「ふぉっふぉっふぉっ……本当にやったんじゃのう」
「それで……単刀直入に言うわ」
アレイシアは話の重要な場所に差し掛かると、一旦間を置いてから話し始める癖がある。
彼女は今も間を置いた。国王はその癖を理解しているのか、普段以上に真剣な面持ちになる。
「ソルフは、貴方がクァルシに送ったスパイなの?」
「……ふむ? どの様な経緯があってその質問に辿り着いたのかは分からぬが……別に、その様な事は無い筈じゃぞ?」
「なら逆に、ソルフはクァルシから送られて来たスパイの可能性があるわね」
「何故じゃ?」
そこで、アレイシアは依頼を受けた時の事を順を追って説明して行く。
隠れ家の奥に囚われていた人達の事や、盗賊の長を倒した所まで。本当に、必要無いのではと思わせる程に細かくだ。
そして話は、アレイシアが長を倒した所まで進む。
「これには正直私も驚いたんだけど、あの盗賊は全員元奴隷だったのよ」
「何? そうだったのか……」
「それで、私は長から聞いたの。彼らはどうやら、クァルシの大臣であるソルフに買われた人達らしいわ」
「……!?」
ソルフの名が出た瞬間、国王の動きが固まる。
この国の優秀な大臣の一人の名がクァルシの大臣として出て来るとは、全く思いもしなかった事だろう。そして、思いもしない内容だったがゆえに、自然と脳内はそれを否定しにかかる。
「……ふむ、その長が嘘を述べたという可能性は」
「無いわ、よっぽどの事が無い限りね。魔力の揺らぎで大抵の嘘は見破れるわ」
国王が絞り出した精一杯の否定文句を、間髪入れずに押さえ込んでしまうアレイシア。
国王はそれに驚くも、続けてさらに問う。
「ならば、ソルフが嘘をついた場合は」
「推測になるけど、かなり確率は少ないわね。この場合、自身がクァルシの大臣だと嘘をつく利点が全く無いもの」
「……確かに、それはそうじゃな」
文字通り、頭を抱える国王。この件は下手すれば、二国間の戦争にさえ発展しかねない事だからだ。その悩み様は、アレイシアの想像を遥かに超えるだろう。
「うむ、分かった。しかしどうすれば良いんじゃ……」
「そうね……」
未だに悩んではいる様だが、国王は一先ず、この件については整理が付いた様だった。
もしも仮に、ソルフがイルクスに送られて来たスパイであり、クァルシの大臣であるのならば、国際問題化は確実だろう。しかし、どうやってソルフがクァルシ側の人間だと証明出来るのかが重要になって来る。
「なら、私が行って来ようか?」
「それは危険じゃ。ソルフがそなたを殺そうとしているのなら尚更……」
「私、そう簡単にはやられない自信あるけど?」
アレイシアは真紅の瞳で、国王の目を真っ直ぐと見つめた。
彼女自身は意識していないのだが、何処までも深い血の様に真っ赤な双眸は、見る者をあっという間に虜にしてしまうのだ。
それは、優しさと高貴さを一度に感じさせる独特の威圧感となって、相手に彼女の存在感を強く印象付けさせる。
「……分かった。アレイシア殿なら、素晴らしい結果を運んで来てくれる事じゃろうな」
「ありがとう」
高貴さの印象は時に、他の者を圧倒して自身の我を通す事が可能となる。
アレイシアの印象は、本来は上の位である国王相手でさえ通用した。これは何故かといえば、実際の地位とその者が持つ位が全くの別物だからだ。
百年以上を生きる吸血鬼のアレイシア、歳数十年の人間のイルクス国王。これだけで、二人が持つ威厳に圧倒的差が生まれるのである。
国王の言葉を聞き、瞳を閉じて軽く頭を下げたアレイシアは、アテを一口飲んでから窓の外に目を向ける。
————まだ、解決までは遠そうね。
アレイシアはそう考え、これからの予定を組もうとメモ帳を取り出した。クァルシに行くにしても、今回の様にあまり学園を休む訳には行かないからだ。出来れば、空いている休日が望ましい。
全ては、アレイシアの身長が伸びない原因の一端を作った者を見つけるために。アレイシアは、三月二十四日と書かれた場所に大きく丸を描いた。
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アリア「感想評価、いれて行ってよね!」
セリア「短いとあまり多くの人に見てもらえないんじゃ……」
アリア「……それもそうね。それなら、Web拍手の方もお待ちしておりま~す!」
セリア「また次回、お会いしましょう!」