03-11 プレゼント
窓から差し込む朝日に照らされ、アレイシアは目を覚ました。
身体を動かして横を見ると、シェリアナが穏やかな寝息を立てて眠っているのが見えた。
少々血に濡れた金色の髪を撫でると、彼女は僅かに声を漏らす。薄く開いた瞼の隙間に、真紅の瞳を見る事が出来た。
アレイシアは寝返りを打ち、反対側に目を向ける。すると、そこには何故かリセルが眠っていた。
眠っているだけなら何も問題は無い。しかし、二人の少女と同じベッドに寝ているという事は大問題だ。
アレイシアはもぞもぞとリセルに近寄って行き、脳天を狙った拳を御見舞する。
ガツッ!
「いだっ——!!」
「何で貴方が一緒に寝てるの」
「……ね、寝る場所が無くてな」
リセルはそう言うと、右手で痛そうに頭をさすりながら、もう片方の手で眠そうに目をこする。
巨石をも砕く一撃を頭一つで受け止めて『痛い』だけとは、思ったよりも竜人は侮れない様だ。
「ソファにでも寝とけば良かったじゃない」
「それは酷いぞ……」
リセルはそう言って立ち上がり、そのままリビングの方へと歩いて行ってしまった。
まだ眠くて低血圧のアレイシアは、誘われる様に再び毛布の中へと戻って行く。シェリアナの体温が心地良く、そう時間も掛からない内にアレイシアは眠りに落ちてしまっていた。
————あれ、私は……?
気付けばアレイシアは、どことも見当がつかない木造家屋の中にいた。それを不思議に思い、辺りをきょろきょろと見回す。
やっと自身が床に倒れている事を自覚したアレイシアは、すぐ隣に鎮座しているそれなりの大きさの木机に手を乗せて立ち上がる。
倒れている事に気が付くのに少々時間が掛かり過ぎた気もするが、それは一先ず思考の隅に置いておく。何故なら、机を挟んで向こうの扉から途轍もなく大きな気配が感じ取れたからだ。
普通の人間なら立ち竦み、あるいは一瞬で気絶する程の気迫。しかしアレイシアは、気配を感じ取った時からそれが誰かに気付いていた。
「お久しぶりね、黒美さん。……って、名前いい加減教えてくれない?」
カチャ、キィィ————
その扉は軋みを上げて開き、アレイシアにとってはすっかりお馴染みの人物が顔を出す。仮称、黒美さんである。
今日は布を体に巻きつけた様な不思議な服装をしている。色は潔白を象徴する白だ。
「久しぶりっていう程でも無いけどね」
「まぁ、何かと密度の濃い日が続いたから」
ここの所のアレイシアの日常は、闘技大会があったり、盗賊を壊滅させたり、極め付けは祐と再会したりと、かなり密度の濃いものであった。そのせいか、以前黒美さんに会った日がかなり前の事に感じるのである。
「用件は何?」
「そうね。貴方が正式に、職業死神として登録されたわ」
「……あ、いつぞやの申し込み用紙」
「そう、それそれ! あと、それに関して渡すものがあって……」
黒美さんはそう言い、手を空中に翳した。すると、突然現れた黒い穴。アレイシアが使った亜空間魔法と同じ様な物だろう。
彼女はその中に手を突っ込むと、何かをガサガサと探し始めた。
「……と、これだ」
穴から手を抜いた黒美さんは、その手に握られた三つの道具らしき物をアレイシアに見せる。傍目に見れば、安い雑貨にしか見えない様な物だ。
「これは?」
「私からのプレゼントよ」
得意げな表情でそう言った黒美さんは、手に持たれた黒い棒をアレイシアに手渡す。長さは十五センチメートル、太さは二センチメートル程だ。
「これ、霊力を込めると死神の鎌になるのよ。やってみたら?」
「うん」
アレイシアが強く霊力を込めると、黒美さんが言った通り、その棒は長さ六テルムの柄に刃渡り四テルムの弧状の刃が付いた、巨大な鎌へと変貌を遂げた。
「あのー、私の身長よりおおきいんですがー」
「……それは、貴女と同程度の身長の人で死神やるって聞いた事無いし」
「あ、分かった。私の身長が低いからいけないんでしょう、そうでしょう?」
どこか怖い笑みでそう言うアレイシアの様子に、思わず後ずさる黒美さん。
「身長が今低いだけなら問題無いのよ。ただ、私はずっとこのままなの」
「うぅ……ごめんね……」
「いいわ。絶対に、身長を伸ばす魔法でも開発するから」
そう言うと、再び黒美さんの掌の上に目を向けた。次に目に付いたのは、学園証と同じ位の大きさの銀色の板だ。
恐らく、死神として働いている人の証明書の様な物だろうかと見当を付けたアレイシアは、再び黒美さんに問おうとするも言葉を遮られる。
「これは、天界に自由に出入りしてもいいという許可証よ。有効期限は八十七年後ね」
「……期限長っ!?」
自身の予想が外れた事よりも、有効期限のあまりの長さに突っ込むアレイシア。
天界は基本的に、数百数千もの年月を生きて来た神々が集う世界だ。そんな中で八十七年と言っても、彼らにとってはそれ程長いものでは無いのかもしれない。
「まぁ、人外なら仕方ない……」
「そういう事よ。最後に、これを貴女に」
紫色の箱。それが、黒美さんの掌に最後に残されたものだ。
アレイシアはそれを受け取ろうと手を伸ばす。しかし————
「だめよ。後ろを向いて目を閉じててね」
「う、うん」
言われた通りにアレイシアは目を閉じる。すると、首元に僅かな重圧が掛かるのを感じた。まだ、それが何なのかは分からない。
「はい! 開けて良いよ」
言われた通りにアレイシアは目を開けた。と、それと同時に黒美さんは手鏡をアレイシアの目の前に掲げる。
鏡に映った己の姿。首元には、美しい十字架の首飾りが掛けられていた。
「これ……!!」
「私が作ったのよ。どう?」
銀色に輝く十字架に入れられた、黒のラインはまるで夜空の様。それよりも更に細く入った金のラインは、優しい満月の光を思わせた。
「凄い! 作れるんだ……」
アレイシアは完全に首飾りに魅入っている様だ。
しかし、十字架に入れられた色合いは全て、アレイシアの髪と目の色まで計算し尽くした結果なのである。彼女が身に付けてこそ、真の美しさを発揮する様に出来ていたのだ。
「ありがとー!!」
「うわっ!?」
感極まって黒美さんに抱き付いてしまったアレイシアは、念話の夢から覚めるまで、ずっとそのままでいたという。
その時アレイシアが聞いた話なのだが、この木造家屋は夢の中で想像から創り出したものなのだそうだ。何でも、夢の中では想像を実体化する事が思い通りに出来るのだという。
「じゃあ、またね!」
「ありがとうっ!!」
最後の最後まで感謝の言葉を述べたアレイシアは、薄くなる意識に身を任せて現実へと引き戻されて行った。
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