03-07 やることは沢山ありました
学園内ギルドの中に入ったアレイシアは、すぐに受付の男の前まで歩いて行く。朝早くからギルドにいる、数人の生徒達の視線が一斉にアレイシアの方へと注がれた。
しかし今までの経験により、すっかりスルースキルを身につけていたアレイシアは、その痛い視線を完全に無視して受付の台の上に頭を乗せる。ついでに、両腕をだらしなく台の上に伸ばした。
「おはー」
「こんな朝早くに……もしかして、もう依頼成功したのか!?」
「依頼は終わったんだけど……色々と話したい事があるから、出来れば外に出てもらいたいのよ。今、忙しかったりする?」
「今は大丈夫だが、一体何があるんだ?」
そう言う男は、入口に向かって歩き出してしまったアレイシアを追いかける様に走り出す。そして、アレイシアが扉を開け放った瞬間、目に入って来た光景に男は驚愕した。そこに八台もの馬車が止まっていたからだ。
「こ、これは……どういう事だ?」
「盗賊二つの人員と囚われていた人達よ。どうしたら良いか分からなかったから、鉱石採掘の人に協力を頼んで馬車を出して貰ったの」
「お前、依頼は長を倒す事だけなんじゃ……紙にも書いてあった筈だぞ?」
「あ」
アレイシアはその言葉で、紙に書いてあった内容を思い出した。依頼遂行から丁度現在まで、細かい内容を完全にど忘れしていたのである。
その事実にアレイシアは、口元を思わず手で覆ってしまう。受付の男の方を振り向くと、頬を朱に染めながら言った。
「……忘れちゃってたわ。テヘッ」
「あのなぁ……まぁ、とりあえず解った。これをどうすれば良いんだ?」
「国に送るわ。囚われていた人達は、それぞれが住んでいる場所に返すの。出来れば明日がいいわね」
「なら先ずは、依頼関係を少し調べなきゃな。そこで待っていてくれるか?」
男の指示に従って、ギルドの中の椅子に腰を下ろすアレイシア。良い加減受付さんの名前を聞いておかなきゃと思いつつも、机を挟んで向かい側にある鏡を覗き込んだ。
服装は黒、髪の左右にはリボンが結えてある。腰元のベルトに携えられた大太刀の刀と魔導書、何故か持っている自分自身を縛っていた縄。黒いスカートの下部から見える、内側に着ている白いスカート。いつもと何が違うと言えば、体の至る所に土が付着してしまっている事だろう。
————あ、風呂入らなきゃ。
そう考えたアレイシアは、ギルドを後にして一旦寮室へと戻って行った。勿論、馬車の所有者と話をしている受付さんにお断りを入れてからだ。
カチャッ————
「ただいま」
寮室の扉を開けてアレイシアはその中へと入って行く。少し進みリビングの方に出ると、そこでは寝間着を着たフィアンが机に突っ伏していた。さしづめ、起き出して来たにもかかわらず、眠かった為に机で二度寝をしてしまったという所だろうか。アレイシアはフィアンに近付くと、肩を揺すって顔を横に向かせた。
「フィア、ただいま!」
「にゃ、ふぁぁぁ……っ」
瞼を僅かに開いたフィアンは、アレイシアの方に顔を向けると大きく欠伸をする。丁度その時、玄関の扉からリズミカルなノック音が聞こえて来た。気配を探ってみれば、魔力量などからクレアとシェリアナだという事が分かる。
玄関へとすぐに瞬間移動したアレイシアは、扉を開けて二人を迎え入れた。何とも能力の無駄遣いだが、それだけ二人を早く出迎えたく思ったという事だろう。
「おはよー!」
「あ、アリアさん! 帰って来てたんですね」
「うん。ギルドの依頼に行ってたのよ」
シェリアナとクレアを連れてリビングに出ると、フィアンが今度は横を向いて涎を垂らしながら机に突っ伏していた。幸い今日は休日のため、起こさなくてもいいかと、アレイシアはフィアンをそのままにして置く。
「今帰って来た所だから、風呂に入って来るわね」
「行ってらっしゃい。私達は……」
「アリアの部屋にいるから!」
アレイシアの言葉に返答したクレアだが、次の瞬間シェリアナに腕を掴まれて奥へと連れて行かれてしまった。それを微笑みながら見送ったアレイシアは、腰のベルトを外して風呂場へと入って行った。
その後アレイシアは風呂から上がり、シェリアナとクレアが居ると思われる自室へと向かう。ちなみに、アレイシアが着替えたのは部屋着となっている黒のワンピースだ。
「上がったわ」
「うん!」
シェリアナはそう言うと、今まで漁っていた机の棚から手を下ろす。その棚は勿論アレイシアが使用している物であり、そこには私物が多く置かれていた。これがどうも、シェリアナにとっては見ているだけで面白いのだそうだ。
「……さて、着替えるからごめん。ちょっと外に出ていてくれる?」
「私達、居てもいいのでは?」
「……あ、そうだ! 私が着替えさせてあげる!」
いつかアレイシアが、三人に着せ替え人形にされた時の服が入っているクローゼットを開けたシェリアナは、中から一着の洋服を取り出した。また着せ替え人形にされるのを恐れたアレイシアは、すぐにその場から逃げ始める。
……とは言っても部屋の中。当然逃げるスペースは限られてしまい、クレアの協力によってアレイシアは取り押さえられてしまった。能力を使えば幾らでも簡単に逃れられる筈なのだが、アレイシアは親友に対して能力を使う事を躊躇ってしまったのである。
それから数分後。ベッドの上には、白と黒の衣服を身に纏った状態で項垂れるアレイシアの姿があった。
上半身、シャツの部分は白い半袖となっており、襟元の前面には金の刺繍が少し施された赤い布が結ばれている。しかし、それ以外には目立った装飾も見られず、スカートも黒いだけのロングだ。比較的簡素な、とも言えるのかもしれないが、シンプルイズザベストという言葉を侮ってはいけない。単純ながらも、その白と黒のコントラストが大人びた美しさを感じさせるのだ。
「よーし、上手く行ったね」
「そうですね、ふふっ」
「…………」
それから更に数分後、やっと再起を果たしたアレイシアは、部屋の隅に置かれた荷物を漁り始めた。何事かと、二人はベッドの上からアレイシアの方を見るが、先程の事もあってか中々話し掛ける事が出来ない。
「あ、あのー……」
「別に怒ってないわ。そんなにビクビクしなくても良いのに」
「えーと、なら……何をやってるの?」
「まぁ、見ていれば分かるでしょ」
そう言って立ち上がったアレイシアは、空中に手をかざして亜空間を開いた。中はやはり、盗賊の盗品でごちゃごちゃとしている。
「……亜空間魔法!?」
「あ、クレア分かったの?」
「何それー?」
それが何かを察したのか、驚きの声を上げるクレアに対し、シェリアナは疑問に首を傾ける。
部屋の隅に置かれた剣を拾い上げたアレイシアは、それを亜空間の中へと大事そうに仕舞う。その剣は、闘技大会第一回戦で戦ったユーニスの物だ。まだヒビは直っていないため、いつでも直せる様にと、亜空間の中へと仕舞って置く事にしたのだ。
「私、これからまた出掛けて来るからね」
「えー……じゃあ、戻って来たら血を吸わせて?」
「う、うん……」
実は闘技大会の後、寝ぼけた状態のアレイシアに血を吸われたシェリアナは、その後丸一日寝込む事になったのである。そして回復後、アレイシアの後ろに抱きつきながら、耳元でゆっくり、恐怖を煽る様に言った言葉が————
『今度は私が、アリアの血を飲み干すからね』
————この時アレイシアは、なかなか吸血鬼らしい吸血鬼だなと考えた。
寝ぼけていたとは言え、元を辿れば自分のせいなのだからと。今日は大人しく血を吸われる事に決めたアレイシアは、玄関先でシェリアナとクレアに見送られる。
「行ってらっしゃい!」
「行って来るわ。夕方までには帰ってくるからね」
「そう言っていつも遅れるでしょー!」
「あ……ぜ、善処します」
そこで何故か敬語になったアレイシアは、恐らく受付の人が待っているであろう、学園内ギルドへと戻って行った。ちなみに、アレイシアが部屋を出る時になってもフィアンはまだ眠ったままであった。
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