03-06 盗賊の隠れ家 5
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後半急ぎ過ぎたかなと反省中。
改定予定であります。
長が言った方向へと洞窟を進んで行くと、アレイシアはまた木製の扉を発見した。それを良く見てみれば、鎖で鍵が掛けられているのが分かる。先程の会話で、鍵については全く述べていなかった事を考えると、これは長のささやかな抵抗なのかもしれない。とは言ってもこの程度、アレイシアにとっては全く障害にならなかった。
パキン、とやけに軽い音が洞窟の中に響き、軋みを上げながらその扉は奥へと開く。アレイシアは、魔法で加熱して脆くなった鎖を引き千切ったのだ。その軽さと言ったら、アレイシアの見た目相応の年の少女でも簡単に出来る程だろう。
「うわぁ……」
扉の奥に見えた光景に、思わず声を漏らしてしまう。倉庫の広さ自体はそれ程でも無いが、辺りに積み上げられられた金銀財宝の山にはアレイシアも圧倒された。
金銀財宝とは言っても、あるのはジュエリーなどの類では無く、金を含んだ石や鉱石、原石などだ。それはやはり、この山が鉱山だからだろうか。これらを全て売り払えば、どれ程の額になるのか見当も付かない。
倉庫の奥には、剣やら弓やら、ありとあらゆる武器が乱雑に積み重ねられている。もしかしたらそこに刀があるかもしれないとアレイシアは考え、早速武器の山を掻き分けて刀を探し始めた。
——結果から言えば、呆気ない程簡単に見つける事が出来た。何故なら、積み上げられた武器の一番上に置かれていたからだ。まだ取られたばかりのため、当然と言えば当然なのだが。
「……あ、どーしよ」
刀を腰に携えたアレイシアは、辺りに置かれた盗品の山を見て思う。依頼の内容は、盗賊の長を倒す事及び出来れば生け捕り、という物だが、これらの盗品は一体どうすれば良いのかと。
実は彼女は知らないのだが、ギルドから与えられる盗賊関係の依頼は、殆ど長を仕留める事だけだ。長さえ仕留めてしまえば、後は隠れ家の場所を聞き出すのは簡単な上に、盗品を取り返しに国の兵士を行かせる事も出来る。冒険者としての仕事は、僅かな情報から盗賊の隠れ家を探し出す事に重点が置かれているのだ。
……これは要するに、たった一人で盗賊を壊滅させる事など始めから想定されていなかったという事である。
そんな事実を知らない彼女は、盗品全てを持ち帰るためにと、ある方法を思い付いた。高密度の神力で空間を捻じ曲げ、亜空間を作ってしまおうという物だ。
黒美さんに教えてもらって以来そのまま放置されている記憶を探り出し、神力を集中させ始める。
しばらくすると、アレイシアの目の前に光の球が浮かぶ。高密度の神力による発光現象だ。しかし、まだ全然神力が足りない。
超高密度の神力で、空間に重圧を与えて穴を開ける。それが、現在アレイシアが実行しようとしている事だ。この世界は神界により『二三・零七九』の番号が振り分けられているが、隣に存在する空っぽの世界『二三・零七八』に、この世界の空間と神力をねじ込ませて新たな空間を作るという荒技である。
ちなみにこの方法で繋げられる世界は、上二桁が同じ数でなければならないという制約を持つ。これは『世界番号の上二桁が異なる、イコール完全なる異世界』というルールに基づいた物だ。下三桁が違う場合は重なり合った世界の時もあるため、比較的簡単に繋ぐ事が出来るのである。
目が痛くて直視出来ない程の光の中央。そこに、少しずつ黒い穴が広がって行く。アレイシアが凝縮した神力はその中へと吸い込まれて行き、瞬く間に発光現象が収まった。更に、小さく空いた穴に、空気中に存在する魔力が大量に流れ込んで行く。
「……大丈夫かな?」
アレイシアが神力を込め始めてから一分足らず。そこに、亜空間への入り口が出現した。中を覗き込んでみると、真っ暗な空間が存在する上に、この場から流れ込んだのか、呼吸可能な空気までもが存在していた。
どれ程の広さなのかは分からないが、今は盗品を持ち帰るのが先決だ。他の事は、後で帰ってから調べればいいだろう。
「早速入れちゃいましょー!」
やけに軽い調子でそう言ったアレイシアは、鉱石を鷲掴みにすると亜空間の中へとポンポン投げ入れた。金塊の様な、やたらと重い物まで軽々と掴んでは投げ入れる。
鉱石や原石を粗方入れ終わり、残すは武器と僅かばかりの貴金属類だけとなった。これらは流石に投げてはまずいだろうと、一つずつ手に取って亜空間の中に仕舞い込む。
そして、倉庫の中は空っぽとなり、剥き出しの石壁を晒すのみとなった。
アレイシアは亜空間を閉じると、再び別の位置に開けられるかを確認した。そして何を思ったのか、ファスナーを開けた様な形————この場合、眼を開けた様な形と言った方が正しいのだろうか————に入り口を開き直す。
「おー……あんな事も出来るかも……?」
最後にそう呟いたアレイシアは、亜空間を閉じて倉庫を後にした。
先程の部屋に戻ったアレイシアは、やはり未だに地面に拘束されている長の隣に立つ。放してくれと視線で訴えかけてくるが、勿論無視しておいた。
「長さん、刀は見つかったわ」
「やっぱり鍵開けたのか……」
「違うの、壊したのよ」
「……成る程。そうかいそうかい……で、俺達はどうなるんだ?」
そう言う長は、どこか覚悟した様な表情をしていた。ギルドに引き渡される事も、最悪——死さえも、覚悟しているのかも知れない。それを考えたアレイシアは、突然罪悪感が込み上げてくる。
元はただの奴隷。言ってしまえば、ソルフの手の平の上で踊らされているだけだ。実行犯的な経歴はあろうとも、自由を望むという一般的な思想を持つ彼らに取っては、盗みを働く事は致仕方の無い事だったのかも知れない。
アレイシアの気持ちに揺らぎが生まれる。人間は生まれて来る場所を選ぶ事はできない。それは、自らの経験により実証済みだ。
「…………決めたわ。貴方達全員をギルドに通して国王に引き渡す。貴方が国王に会う時、しっかりと自分の口で説明しなさい。今までの事……勿論、ソルフについてもね」
「そ、そんな事が出来るのか? こんな俺達に国王が会ってくれる筈が……」
「あるわ。そんな筈が無いのなら、私が国王に会わせる様にするのよ」
自信たっぷりにそう言うアレイシアの様子に、長は懐疑的な視線を向ける。
「……お前、やっぱり何者だ?」
「さぁ? 普通の吸血鬼としか言えないわね」
「吸血鬼だったのか……通りで、その小さい体の割には強いなと」
「他人のコンプレックスに容易く触れる物じゃ無いわよ?」
そこでアレイシアは決意した。学園卒業までに身長を伸ばして見せると。
元々吸血鬼は八歳を過ぎた頃から成長が緩やかになり、アレイシアの両親の様に、十五歳程度の身体を数百年間保つ事になるのだが、現在のアレイシアの身体は十歳程度なものなのだ。どうせならもう少し成長しておきたいと思うのは極自然な事だろう。
勿論、これはシェリアナにも言える事なのだが。
「で、貴方達をどうやってギルドに送るかなんだけど……」
「……あぁ。国王に会って話をさせてくれるならギルドにも喜んで行こう」
「なら良かった。鉱石を運ぶ馬車にでも乗せてもらえば良いわね」
その後アレイシアは外に出て、鉱石の採掘現場で働いている人達を発見した。辺りは既に暗くなっているが、暗視が効くため何ら問題も無く見つける事が出来た。
「……という訳で、馬車を貸してくれると助かるわ」
「あいつらには俺達も悩まされていたからな。馬車くらい喜んで貸すぜ!」
「ありがと、おじさん」
「がっはっはっは!! おじさん言うな! 俺はまだ若いぜ?」
やたらと陽気なこの男が、鉱石などを運ぶ馬車十七台の所有者なのだそうだ。商業ギルドの方に鉱石を売るか、工房などに直接売る事によって商売を成り立たせているのだという。
「じゃ、お願い。それと沢山の人が地下牢に囚われているから、彼らも助けて良いわよね?」
「ああ、勿論だ」
そして、アレイシアを乗せた馬車が学園に到着する頃には、既に夜が開けてしまっていた。道中では勿論、木に縛り付けておいた盗賊も回収しておいた。使用した馬車は、盗賊に三台と、地下牢にいた人達に四台、アレイシアを含めその他で一台の合計八台にもなる。
ちなみに、学園の正門に到着した時、警備の兵士が何事かと剣を持って駆け寄ってきたが、アレイシアの学園証を見せる事によって事なきを得た。
ギルドに報告するだけでは終わらない。まだまだやる事が沢山あるのだ。
アレイシアは、この件が一段落着いたら絶対に昼寝しまくってやると心に決めたというのは余談である。
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