03-05 盗賊の隠れ家 4
風の刃がアレイシアによって放たれる。狙いが狂っていなければ、決して避けられる筈の無い攻撃だ。
しかしアレイシアは、狙う事に関しては人一倍下手だとも言えるのであった。何故なら、能力による必中攻撃を可能としてしまっているからだ。
ズカガッ!!
「っ!?」
風刃は長の体に擦りもせずに、後ろの壁に彫刻を形どった。アレイシアは、攻撃必中化を発動していなかったのだ。
「お、おいおい……見えない攻撃とかうぉあっ!!」
ビキッ!!
「まだ終わっていないわ」
恐々と冷や汗を流す長に向けて、更にもう一度風刃を放つ。そして、手に握った風の剣を真っ直ぐと長の鼻先へと向けた。
「私はあまり貴方達を傷つけたく無いの。猫人を集めて何をしようとしていたのか、それを話せば良い事よ」
「……どうせそう言っておきながら、言ったら俺達を殺すんだろッ!!」
そう言った長は、腰に携えた剣を引き抜き、アレイシアの方へと走り出した。
確かに、そう言って油断を誘っておきながら、情報を引き出したら殺す、何ていうのは良くある話だが。しかし当然アレイシアとしては、そんなつもりは全く無いのだ。
アレイシアのすぐ目の前にまで迫った長は、彼女の胴を狙って剣を横に振るう。
それを見たアレイシア。攻撃を受け止める様に風刃を縦に持ち直した。
しかし、そこでアレイシアは重要な事を忘れていたのである。風の刃では、物理攻撃を止められないのだ。それこそ、剣を両断でもしない限りは。
その事に、剣が当たる寸前で気が付けたアレイシアは、魔法障壁を神力の代用で発動する。
更に剣を防いだ直後、風刃で障壁を破り、意図的な魔力割れを発生させた。いや、この場合は神力割れと呼んだ方が正しいのだろうか。
バキンッ!!
「ぐへぁっ!?」
神力の衝撃波に吹き飛ばされた長。元々魔力割れ自体は、それ程強い衝撃波を放たないのだが、高密度の神力によって、その威力は人間一人を吹き飛ばす程にもなっていたのである。
「っ……痛ぁ……!!」
「さてと……まだ、言う気は無いのかしら?」
二度も地を跳ねやっと静止した長。その横に立ったアレイシアは、手足に拘束魔法をかけて動きを封じた。風刃を首の前に添えると、長は恐怖に顔を歪ませる。
「……な、何が知りたいんだ!?」
「そうね……まず一つ、猫人を集めた理由。二つ、私の武器は何処にあるのか。三つ……ソルフって名前に聞き覚えはあるか、ね」
アレイシアがそう言うと、長は驚いたのかわずかに眼を見開く。やはりそれを見逃さなかったアレイシアは、続けて更に問う。
「どれか、心当たりでもあったの?」
「……い、いや、何でも無い」
長がそう言った瞬間、体から放たれる魔力に明らかな揺らぎが発生したのを感じた。アレイシアの明敏な第六感——魔力に対する感覚が、これほど役に立った日は今までに無い。脳内でそれらしい理由を付け、アレイシアは長に向けて言った。
「嘘はやめなさい。貴方が言った『何でも無い』は、何か別の事象を考えていた時に出る言葉よ」
「く……ッ、言えば良いんだろ、言えば!!」
「そう、言えば良いの」
アレイシアの予想外な返答に、長は一瞬言葉を詰まらせるも、一度目を合わせてから観念した様に話し始めた。
「ソルフ……あいつを何で貴様が知っているのかは知らねぇが、あいつは俺達の主人みたいなもんだな」
「主人……? それはどう言う事よ?」
「俺達も元は奴隷だったんだ、隣の大陸のクァルシって国でなぁ」
何処か苛立ちを込めた様な長の言い分には、逆にアレイシアの方が驚かされた。この発言が嘘では無いという事も、アレイシアの感覚によって確認済みだ。
「で、俺達が居た奴隷商の所に、その国の大臣のソルフって奴がやって来て言ったんだ。ここに居る全員で幾ら出せばいいってな」
「……クァルシの大臣? ソルフはイルクス王国の大臣の筈だけど……?」
アレイシアは、イルクス国王と話をした時を思い出す。確かにその時『優秀な大臣の一人』と国王は言っていた筈だ。それがまさか、クァルシ国の、と言う訳では無いだろう。
そして、アレイシアはある結論にたどり着く。どちらかの国が、スパイとしてソルフを送り込んでいたのではという事だ。この場合、クァルシがイルクスにスパイを送ったと考えるのが自然だろう。何故なら、小国は技術や方法を大国から盗み、他の国に着いて行こうとするのが普通だからだ。更に、ソルフが現在行方不明になっているという事実が、その推測に一層真実味を帯びさせる。
尤も、これだけの情報で判断するのは、些か早とちりが過ぎるとも言うのだが。
「……成る程、とりあえず辻褄が合ったわ。続けて」
「ああ。……その後、ソルフは俺達をイルクスの山奥に置いて、盗賊でもしながらなんとか暮らしてけ、って言ったんだな。その代わり、得た物の三分の一は俺に寄越せと」
その言葉からアレイシアは、この盗賊の大体の事情を察する事が出来た。ソルフは奴隷を自由を与え、元奴隷からの恩返しで利益を得ているのだろう。
「……なら、貴方達が猫人を集めていた理由は、彼らを奴隷として売り払い、一攫千金を狙っていたって所かしら?」
「そ、そうだ……」
嘘をついても無駄だという事を悟り、遂に正直に答えた長。それに対しアレイシアは、どうも納得の行かない気持ちになってしまう。この盗賊が元奴隷なら、猫人を奴隷として売った場合に彼らがどの様な目に遭うか、良く解っている筈だからだ。
「まぁ、いいわ。……良くないけど」
「……あとは、貴様の武器だったか?」
「そうよ」
これが残り一つ、アレイシアが知りたかった事だ。あの刀が無ければ、ベルク先生との約束は果たせない。アレイシアとしては、かなり大事な物なのである。
「この奥に倉庫があってだな、今まで盗った物が全部入ってる」
「随分と素直に答えるのね」
「今更嘘吐いてどうするってんだよ……」
「……それもそうね」
そしてアレイシアは、長が視線を向けた先、洞窟の更に奥へと歩き出した。盗賊の長にどの様な処置を施すべきか、ソルフはやはり何者なのかと考えを巡らせながら————
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