03-02 盗賊の隠れ家
バサバサッ!
「……っと」
翼を発現させて空を飛んでいたアレイシアは、目的の場所に辿り着いた事を確認するとゆっくりと地面に降りて行く。
目的の場所というのは勿論、二つの盗賊集団が集まっているティルフ山だ。
ティルフ山というのは、標高が四千テルム(千メートル)程度の緑の多い山であり、鉱石の発掘も盛んに行われている事で有名だ。
これはあくまでもアレイシアの推測だが、この辺りの盗賊は、鉱石を運搬している人や、食料や資材を運び入れている人を狙っているのだろう。
「……物質魔力構成化」
アレイシアがそう呟くと、翼は魔力へと姿を変え、背中の魔法陣に収まった。彼女の背中に残ったのは、緋色の服に空いた二つの穴だけ。その穴はすぐに、アレイシアの長い黒髪に隠された。
手近な木の幹に寄り掛かり、一息ついたアレイシアは、早速探索を始めようと歩き出す。
腰に巻かれたベルトの右側。魔導書を入れておける様になっているホルダーからメモ帳を取り出し、それを一枚一枚捲って行く。
「うー……」
山の南側の少数盗賊集団と、山の頂上の中規模盗賊集団。近いのはどちらかといえば、前者の方だろう。何故かといえば、この山は学園の北に当たるため、アレイシアが辿り着いたのは山の南側だったからだ。
「……?」
ふとそこでアレイシアは、かなり近くから人の気配を感じ取る事が出来た。人数は———四人。
実はアレイシア、神力の応用により、気配から正確な人数を割り出す事くらいは余裕で出来る様になっていたのだ。……そして、感じ取った人数は、南側の少数盗賊集団と全く同じであった。
「……ッ!」
———水球!!
場所を特定し、不意打ちを掛けられる前にと先手を打つアレイシア。
ガササッ!!
もうバレているという事を悟ったのか。茂みの中から飛び出してきたのは、如何にも『俺達盗賊』と言わんばかりの服装をした四人組だった。
バシャッ!
「うぉああっ!?」
アレイシアが放った水球が顔面に直撃し、叫び声を上げながら地面にダイブする男。
残った三人はアレイシアの方を見ると、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。正直、始めてウェルムに会った時の方がまだましだ。
「ほぉー……」
「こいつぁ中々……」
二人の男の考えが手に取る様に分かったアレイシア。
全身が粟立つのが分かる。これを一言で表せば、生理的嫌悪だろう。
「あーやだやだ……」
ボッ!
「!! 何時の間にぁ熱ちゃぁあッ!?」
「熱つァ!? うぁ……助けっ……!!」
男二人の服が突然燃え上がる。その熱さから逃れようと必至にもがく二人だが、当然"炎"からは逃れられる筈も無く。その炎が消えた——いや、アレイシアが炎を消した時には、既に二人は気絶してしまっていた。
残った一人に向き直るアレイシア。盗賊の仲間二人が攻撃されたにも関わらず、それを傍目に見ているだけで、全く助けようとしなかった男だ。
「……ったく。この役立たずめが……」
そして、挙句の果てにはこの発言。アレイシアがこの男に対して怒りを覚えたのも、極自然の事だっただろう。
「……この中でボスは誰?」
「この俺だ。良くも……」
ガッ!
「な……!?」
倒れている男が持っていた縄を奪い取り、アレイシアは一瞬で男の背後に回り込んだ。そして、一番近くの木の幹に硬い結び目を作って男を縛り付ける。
「……良かった。上手くボスが残ってくれて」
「貴様ぁ……何が言いたい!?」
「ソルフって名前に聞き覚えはないかしら?」
「……くっ……無いな」
「……嘘じゃないみたいね」
魔力の揺らぎが無い事からも、この男は嘘をついている訳ではないという事が理解出来た。
これは、手掛かりが掴めなかったという事になるのか、ソルフは小さな盗賊に興味が無かったという事になるのか。それはまだ分からない。
「あ。貴方どうしよう……」
「…………」
これから山頂付近を目指すアレイシアは、この男を木に縛り付けたままで良いものかと考えた。少なからず、この山にも魔物は潜んでいるのだ。この様な場所に縛り付けて置いたら、魔物にとっての格好のエサとなってしまう。それはアレイシアとしても後味が悪い。出来れば生かしたまま、ギルドに連れ帰りたい所だ。
「んー……あ、そうだ」
男を縛り付けてある木を中心にして、地面に倒れている三人を囲う様に結界を張る。その結界は、例えこの三人が起きても決して破る事が出来ないであろう程の強度だ。
「後で、また来るわね」
「ちょ、待てぇッ!!」
耳が痛い程の大声で呼び止める男を無視し、アレイシアはその場から瞬間移動。周囲に全く人がいないという事を確認すると、すぐに翼を広げてその場を飛び立った。
直感的に頂上だと思う方向に進み始めてからわずか三分足らず。アレイシアは、山頂付近の山肌に開いた巨大な穴を発見した。それが恐らく盗賊の隠れ家だろう。アレイシアは、穴の入り口まで一気に下降。クレーターが出来るのではと思わせる程の速度で地面に着地した。
ズガカッ!!
辺りを見回せば、そこかしこに出来上がっている土の山。元々は、トンネルを掘っている途中で工事中断となった場所だからかと当たりを付ける。
木々をかき分け、トンネルの中へと足を踏み入れる。そこには、明らかに人工物である炎魔法のランプが並べられていた。土がそのまま地面と天井になっているからか、トンネルの中はどうも湿度が高い。それ程温度が高くないにも関わらず、大汗でもかいた様な感覚だ。
しばらく歩き続けると、トンネルの両側に木製の扉が見つかった。もしかしたら、中には盗賊の一員がいるかもしれないし、囚われている人もいるかもしれない。
「……!!」
アレイシアは音を立てない様に刀を抜き、警戒しながらも、その扉を一気に開け放った。
続きは次回です!
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