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01-02 魔法魔術の学習書

 この辺りはまず、アレイシアが十二歳になるまでは地の文、説明文が多くなると思いますが、展開を早めるためにどうしても会話を多く挟めませんので、ご了承下さい。


2011/1/8追記:

 感嘆符(!?)の後にスペースを入れました。

 若干の訂正をしました。


2011/6/4追記:

 全面改定と再投を行いました! 結構変わってる場所も出て来ます。

 アレイシアが産まれてから三ヶ月が経ったある日。

 少しずつだがこちらの世界での生活に慣れて来ていたアレイシアは、今日もいつも通りに————母親の乳を飲んでいた。

 始めはやたらと授乳を嫌い、すぐに赤ん坊らしからぬ驚愕的な速度のハイハイで逃げていたのだが。どうしても空腹だけには抗えず、母乳を仕方無く飲まざるを得なかった。

 最近は慣れて来たとは言え、やはり未だ進んで飲む気にはなれない。


 その様な変わらない毎日を過ごして行く中で一つ、気付いたことがあった。それは言語の習得速度だ。

 誰だって、幼い頃の言語学習の早さには目を見張る物がある。しかもその学習には、言語を習得しようとする必要も無く、気付けば何時の間にかその言語を使いこなせる様になっていた、と言う感覚だろう。

 もともと習得しようと思う必要の無い事を『習得しようとする意思』と共に学習すればどうなるか。答えは単純、学習速度が飛躍的に高まるという事だけだ。

 例えば、母親が己を指差して何かを喋ったとすれば、この場合は『母親』の意味を持つ言葉、或いは母親自身の名前でほぼ間違いないだろう。この様な思考回路を既に持っていたアレイシアは、生後一ヶ月を過ぎる頃には日常会話がある程度成り立つ様になっていたのである。

 お陰で周りからは、神童だの邪神の生まれ変わりだの、もてはやされたり恐れられたりと大変だ。尤も、声帯の発達が人間より速かったと言うのも理由の一つだろう。


「ふふっ、アレイシアはきっと将来美人になるわよ」


「そんなこというなっ!」


「あらあら怒っちゃって、かわいいわね」


 この様な対話は毎日の様に繰り返されている。しかし、普通なら喋る事もままならいであろう赤子相手に会話をする母親というのはもの凄くシュールに映る事だろう。

 実際、屋敷の使用人達が休憩時間に雑談していると『アレイシア様とナディア様の会話』という話題で持ち切りだ。

 最近では、父の書斎にある本を漁って母が簡単な本を読み聞かせている為に、更に言語を覚える速度は上がっている。




 ただ、アレイシアは現在大きな悩みを抱えていた。それは、言語習得に伴う口調だ。

 元々男として生きて来た身としては、女口調で喋るのは憚られる。学習中の言語の中には日本語で言う『僕』『私』などの性別によって使い分けられる事の多い一人称の単語も多く存在した為に、その悩みは尚更強いものとなっていたのだ。

 今は妥協策として、一人称を『私』とし、中性的な口調で喋る様にしている。最悪気は進まないが、少しずつでも女口調に移行すれば良いだろう。何より吸血鬼の生は永いのだから、あまり急ぐ必要は無いのであった。


 ちなみに、最近アレイシアは髪が伸び目立つ様になって来たため、その綺麗な黒髪は誰から来たものだろうねと父と母で話をしている事もある。

 父は茶髪、母は金髪であり、親族に黒髪の人は誰も居ない。こればかりはアレイシアも疑問に思ったのだが、どうせ神の悪戯だろうと軽い気持ちで切り捨てた。





 ある日の夜、アレイシアが産まれてから二年が経ったその日、彼女は始めて町の外に出た。何故かと言うと、誕生日に欲しい物としてアレイシアは珍しく本をねだったからだ。

 アレイシアが住んでいる町、クラードには図書館や本屋は少なく、本を求めるなら隣町であるラ・レティルに行くのが普通となっていた。

 ラ・レティルにはこのイルクス王国で一番大きな図書館があり、本屋も充実している。まさに学問の町、と言った感じだ。多くの魔法魔術研究者達が貴重な文献を求めてこの町を訪れる。


 馬車に揺られて到着した、町の中心部にあるこの町でも有数の本屋にて。両親とアレイシアは激闘を繰り広げていた。何故なら————


「母様! あの本でもいいか?」


「あぁぁ……アレイシアちゃん、ちょっと待って待って! ……ってそれは魔導書じゃない!」


「……まぁ、買ってあげてもいいんじゃないかな? 君もアレイシアの大きな魔力に気付いていただろう? どう成長するか見守るのも良いと思うし」


「そうは言っても、だってまだ二歳よ? ……ほら、またあそこの店員さんが睨んでいるじゃない!!」


 産まれてから一年程で走る事も出来る様になっていたアレイシアのせいで、先程からこの様な事がずっと続いている。

 そのため、いつ店長が出て来て店を追い出されるか分からない恐怖に耐えながら、両親はアレイシアの買い物に付き合わされている状態なのだ。


「じゃ、母様。この四冊の本でよろしく」


 床に積んである本の山に両手を置いて笑うアレイシアに促され、本のタイトルを見てみると————


『魔法魔術超初心者用 前編~魔導の心得』

『魔法魔術超初心者用 後編~詠唱術式の基礎』

『魔法魔術初心者用~詠唱術式の応用』

『魔法魔術詠唱術式全集~初級から上級まで 第三版』


 と、あった。

 この素晴らしすぎる本の陳列に、優秀な娘で良かったと軽く泣く父親に対して、まだ魔法魔術を勉強するのは危険だと言う母親。どちらも一理ある意見だ。

 結局、アレイシアが用意した本の山をそのまま買い、馬車で屋敷へと戻って行った。





 アレイシアは二歳になるまで全く気にかけなかったのだが、どうやらこの世界での一日と言うのは元々東次が居た世界よりも長く、大体二十八時間に相当するらしい。そして、一日を十六に分割した時間を『一刻』と数える様だった。

 一日が長いので眠くなりやすいかと彼女は考えたのだが、基本的に吸血鬼は夜に活動するためあまり気にはならなかった。

 とはいえ、元々一日が二十八時間と言う環境で進化して来た生き物だからこそ、これが当たり前だとも言えるだろう。因みに一年は三百六十日、二十四日を一月とした計十五ヶ月によって成り立っている。


 本を買って来たアレイシアは起きている間中、一日の内八刻は本を読むようになり、大の大人を遥かに凌ぐ速度で魔法魔術の知識を蓄えて行った。

 しかし、母親に八歳になるまで魔法魔術の使用禁止令を出されている為に、残念ながら実践した事は一度も無い。そのため、実践用の本である『魔法魔術詠唱術式全集~初級から上級まで 第三版』はアレイシアの部屋の角で埃をかぶってしまっている。


 アレイシアが知った魔法魔術の知識によると、魔法は基本的に存在する物を動かしたり変質、変形させる事によって生まれ、魔術はどちらかと言うと作り出す方に当たる様だ。

 魔法には催眠、物質の遠隔操作、念話が当てはまり、それに対し魔術は火を出したり、風を起こしたり、と言った感じである。

 ただ、最近では両方合わせて魔法と言うのが一般的になっている。何故なら近年、根本を辿れば魔法も魔術も全く同じ理論で発動されるという発見があったからだ。


 アレイシアが魔法を勉強していて特に驚いたのは、魔法の詠唱に使うエングライシアと呼ばれる古代語である。

 エングライシアというのは要するに、東次の居た世界での英語に近く、詠唱用に若干文法が異なってはいるものの内包する単語はほとんど英語と一致する。

 本に書いてあった資料によると、千年以上もの昔、とある異世界から数千人もの魔法使いに協力してもらい、異世界転移の術式の稼働に成功した魔法使いが来たという。

 当時はあまり普及していなかった魔法をより多くの人が使える様に、エングライシアによる詠唱、記号による術式という新しい概念を取り入れて世界に広めて行った。

 今では、皆その人を賢者と呼ぶ。その賢者が英語を扱える地球出身の人物の可能性も否定は出来ないが、地球には魔法が存在しなかった筈である。そのために、この辺りはまだまだ謎であった。


 ただ、魔法の詠唱にエングライシアが使われているのなら都合がいい。何故なら、新しい魔法の開発にはエングライシアの解読が必要不可欠であり、エングライシアが元々ある程度理解できるアレイシアは、その点に関してかなり大きなアドバンテージを握っていると言えるからだ。

 八歳になったら絶対に魔法魔術の研究を始めてやると意思を固め、今日も彼女は勉学に励む————



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