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02-37 真夜中の思い出話

 今回は短めです。

 ストーリーが動き出すのは、きっと次回からになります。

 闘技場の中にある保健室の様な部屋。そこのベッドには、アレイシアが静かな寝息を立てて眠っていた。

 彼女が身に着けているのは緋色のロングスカートだけであり、肩から胸にかけては包帯が巻かれている。包帯は恐らく、肩の傷はほとんど塞がっているとは言え、心配に思った者が巻いたのだろう。


「アリアさん、まだ起きませんね……」


「……はい」


 心配そうに話すフィアンとクレア。シェリアナに至っては、ベッドの隣に座り込んで今すぐにでも泣いてしまいそうな表情をしている。

 反対側に立っているナディアとオーラスも、アレイシアを心配そうに見守っていた。……時折、壁際に立っているリセルに『お前のせいだ』と言わんばかりの鋭い視線を浴びているのは気のせいだと思いたい……


「ぅ……」


「……!! 今、ちょっと動いた……!?」


 小さく声を漏らしたアレイシアを見て、一番早く反応したのはシェリアナだった。そして、シェリアナがアレイシアの右手を掴むと同時に、突然寝言を言い始めるアレイシア。


「んぅ……セリア……もう飲めないよ……」


「平和な夢ですね……」


「……私?」


 アレイシアの事を心配して、ずっとベッドの傍で見守っていた六人は、案外心配する事は無かったのかもしれないと安堵するのであった。


「……あゎ!? アリア起きて!!」


 そこで突然、シェリアナの手を強く引くアレイシア。意識してか、それとも寝ぼけて無意識の内か。それが分からないのが怖い所だ。

 シェリアナを抱き寄せると、その首の後ろに牙を突き立て、口を押し付ける様に血を吸い始めた。

 思えば先程の寝言。シェリアナの血を吸う夢でも見ていたのかもしれない。


「助けて! 捕食される!!」


「アリアさん起きて下さい!」


「……んん……?」


 フィアンの呼びかけに、アレイシアの目がわずかに開かれる。だが、その紅い瞳はシェリアナの姿を捉えると、かえって安心したかの様に再び閉じられた。


 そこで勿論、アレイシアは吸血を再開する。


「あぁぁ、あぁ……助け……て…………」


 ガクッ……


「セリアさぁぁんっ!!」


 クレアのその叫び虚しく。アレイシアは、それから数分にも渡ってシェリアナの血を吸い続けた。

 いつもは意識があるからいいものの、意識の無いアレイシアに血を吸われてしまっては、どこまで吸われるか分からない。さらに、どうしてもアレイシアを引き剥がす事が出来ないという恐怖がある。


 ただ良かった点は、これでシェリアナに吸血に対するトラウマが植え付けられなかった事だろう。




「……で、私は何を?」


 そして、やっと意識を取り戻したアレイシアの第一声がこれである。


「何を、じゃないですよ……セリアさんの血を吸い続けてたんですよ?」


「あ。確かに血の味が……」


 そう言い、アレイシアはすぐ隣で眠っている——もとい、倒れているシェリアナに目を向けた。吸血鬼特有の白い肌が、更に青白くなっている気がするのは何故だろうか。


「……セリア!? ごめんっ!!」


「ぁ……アリア……?」


 ———その後、アレイシアが起きたという事を担当の先生に伝えた所、すぐに寮に戻っていいとの許可が貰えたため、アレイシアは眠っているシェリアナを背負い、寮室へと戻って行った。





 その日の夜。


 アレイシアは、学園で最も高いと言われている教職員塔の最上部に来ていた。今までは隠していた筈の翼を大きく広げ、待ち合わせの人物が来るのを今か今かと待っている。


 バサッ!!


 そこで、大きく羽ばたく音。アレイシアがそちらに目を向けると、灰色の翼を羽ばたかせるリセルが空中に浮かんでいた。


「ごめん、ちょっと遅れたかな?」


「別に、気にしていないわ」


 短いやり取りの後、リセルはアレイシアの隣に腰を下ろす。塔の最上部は円錐状になっているため、御世辞にも座りやすい場所とは言えないのだが。


「ふぅ……じゃ、話してくれるわよね?」


「元々そのつもりだよ」


 何故二人がこの場に来たのかというと、互いに現在に至るまでの経緯を話したかったからである。

 リセルは少し息を吸い込むと、アレイシアに向けてゆっくりと話し始めた。


「十二年前だったかな……」





 十二年前、地球で大地震が起こった日。


 祐は東次を転生させた後、その転生体であるアレイシアが心配でならなくなってしまったのだ。そして、天界の友人に仕事を任せ、祐自らこの世界に降り立ったのである。彼が言う『友人』の中には、暇にしていたワルキューレの黒美さんも含まれているのだろう。


 そして、この世界にやって来た裕は五歳の竜人に適合し、リセル・ディトリーの名でとある竜人家族の養子になったのである。彼の説明によると、適合というのは神にのみ許された権利であり、一時的に己の肉体を他の種族に変える事なのだそうだ。


 アレイシアはそこで、なら吸血鬼になれば良かったのに、と思ったのは内緒である。


 リセルが学園に入学してから五年。第五学年になったリセルは、ある興味深い噂を耳にする。


『今年入学した一年生にもの凄く可愛い黒髪の娘がいるらしいんだけど、お前聞いた事あるか?』


 それを聞いたリセルは、十中八九アレイシアだなと見当を付けたという。


「そして一昨日の闘技大会。偶然にも、決勝戦まで勝ち残った二人は奇跡の再開を果たしたのであーる……とか言ってみる」


「……成る程。私が心配、それだけの理由で天界の仕事を(ないがし)ろにして私の所に来たと?」


「……!! ぁ、まぁ、そう言う事に、なるかな?」


 アレイシアの威圧的な雰囲気に冷や汗を流し、口がうまく回らないリセル。それを見たアレイシアはと言うと……


「ふふっ、やっぱり貴方をからかうのは面白いっ!!」


「ちょ、おまっ……!!」


 この時のリセルの反応は、いつか東次が裕をからかった時の反応と全く同じであった。その事に懐かしさを覚えた二人は、それから朝までずっと、思い出話に耽ったという。

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アリア「感想評価を入れて行ってね」


フィア「Web拍手のコメントも、お待ちしております!」

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