02-36 闘技大会本戦 決勝戦 2
地を蹴って跳躍したアレイシアは、一瞬でリセルと同じ高さにまで到達する。そこですぐさま飛行魔法を発動。アレイシアは空中に留まった。
刀の切先をリセルの方へと向け、距離を詰めるべく宙を駆け出す。
それに対しリセル。アレイシアの攻撃を防ぐために、大剣を右手で前方に構えた。
ガキキキィンッ!!
刹那の瞬間に三度振られた刀。それらを全て防ぎ切ったリセルは、アレイシアに反撃を見舞おうと大剣を振るう。
「ぐ……ッ!!」
キンッ!!
重い大剣の一撃を刀でやすやすと逸らしたアレイシアは、大剣を振るった後の隙を狙い、刀をリセルの方へと振り下ろす。
それを素早く察知したリセルは、咄嗟に大剣を引く事によって辛うじて攻撃を防いだ。
「……風刃ッ!!」
攻撃を防いだばかりで隙だらけのリセル。準備に時間の掛かる風刃を発動させるなら今しかないと、アレイシアは詠唱をすぐに完成させた。
嵐の如く強風を纏った刀を、下から斜めに振り上げる。ここまでわずか一秒未満。やっと体制を取り戻したリセルに、音速にも届く程の速さで刃が襲いかかる。
ザッ!!
「……っ!?」
その状態では流石に防御も間に合わず、リセルは攻撃をもろに食らってしまった。
しかし、アレイシアの刀に直撃したにもかかわらず、リセルの体からは血の一滴も出て来ない。それどころか、身に着けている衣服にも全く損傷は見られなかった。
強力な魔法障壁でも張っているのかと推測したアレイシアは、ひとまずその場を離れようと飛行魔法を発動する。だが……
ガシッ……!!
「ぁ……!」
何時の間に回り込んだのか。背後に突然現れたリセルはアレイシアの背中を鷲掴みにすると、膨大な量の魔力を流し始めた。
「……ッ!! そこは……やめろぉぉっ!!」
何とかリセルから離れようと、ジタバタともがくアレイシア。だが、どういった理由かは分からないが、どうしてもリセルの腕の中から逃れることが出来ない。
アレイシアの背中にあるのは、蝙蝠の様な翼を隠すための、そして発現させるための魔法陣だ。そこに魔力を込めるという事はつまり———
———語るまでもないだろう。
「……っ……!!」
もうすぐで翼が現れると直感的に理解したアレイシアは、自身とリセルの周囲に魔法障壁を展開。下から吹き上げる風魔法を全力で発動させた。
「あぁあああッ!!」
「……うぉ!?」
ゴォォオオオオッ!!
眼下に広がる雲海。
上を見れば、煌く無数の星と白銀の月。
ここは、地上から遥か二万テルム(五千メートル)の上空だ。
そんな場所で向かい合うのは、二人の翼を持った人外。一人は、黒く長い髪を風になびかせる、蝙蝠のような翼を持った少女。もう片方は、大剣を斜め下に向け、黒髪の少女の方をじっと見つめる白髪の青年だ。
しばらくはその場を沈黙が支配していたが、白髪の青年———リセルは話し始める。
「……まさか翼が……封印系の魔法陣みたいだったから発動させてみたんだけど……ダメだったかな?」
「ダメもいい所よ。……まだ、続きやるのよね?」
アレイシアがそう言った瞬間、リセルは大剣に炎を纏わせる。それを見たアレイシアも、すぐに刀を持ち直して臨戦体制に入った。
「勿論」
「ふふっ……早く終わらせましょう。観客が待ってるわ」
そう言い笑みを浮かべたアレイシアに、大きく羽ばたいたリセルは急接近。風魔法を翼全体に受け、更に加速する。
リセルをこれ以上近付かせまいと、十数もの風刃を放ったアレイシア。だがリセルは、風の刃を大剣による物理攻撃で相殺し、アレイシアの目の前にまで迫る。
ブォッ!!
風を斬る音と共に放たれた大剣の一撃。それを、一度羽ばき急上昇してかわすアレイシア。
一旦距離をとる二人。アレイシアの方が若干、リセルよりも高い位置にいる。
刀を鞘に収め、アレイシアは神力を集中させ始めた。
仄かな光を放つ左手。神力が少しずつ、密度を増して行っているのが分かる。
「……光剣ッ!!」
高密度の神力による発光現象が起こる。月明かりにしか照らされていなかったその場が、一瞬にして目が眩む様な光に包まれた。
アレイシアが前を見れば、何故かリセルも同様にして光剣を作り出している。そこから感じ取れるのは魔力などではなく、明らかに神力だった。第一、この様な発光現象が起こるのは神力だけなのである。
「行くわよ!」
「いつでもどうぞ……ッ!!」
アレイシアとリセルが猛接近。剣の打ち合いと同じ様に、リーチの長い光剣を自在に操る二人。
光剣同士がぶつかり合う度に、辺りには神力の衝撃波が放たれる。それを防ぐためにも、神力を使った強固な障壁を常時発動し続けなければならない。わずかな時間に膨大な神力を消費する消耗戦だ。
バキンッ!!
「……!?」
リセルの光剣が障壁を突き破り、アレイシアの左肩へと振り下ろされる。
ザシャッ!
「うぁっ……!!」
致命傷でこそ無い物の、アレイシアの肩からは、多量の血がぽたぽたと垂れては雲海に消えて行く。
久しぶりに感じた激痛に顔を歪ませるアレイシア。前にこの様な痛みを感じたのは、地に叩き付けられた時と心臓を貫かれた時くらいかと考える。
———嫌な事を思い出したわ……あんな時に心臓貫かれてなければ……もっと身長伸びてたかもしれないのに……
アレイシアは翼を動かす事も疎かになり、既にかなり高度を落としてしまっていた。
そこを追撃する様に、重力に任せた落下と風魔法でアレイシアの方へと近づいて行くリセル。
右手に構えられた光剣は、遂にアレイシアの方へと———振り下ろされなかった。
「……え? わふっ!?」
「……ふっ、はははっ!!」
リセルは光剣に込めた神力を霧散させると、アレイシアを抱き締める様に腕を回した。そして、何が面白いのか突然笑い始める。
「ちょっ……! やめ……!!」
「久しぶりの再会でそれか?」
「う……もしかして、やっぱり……」
アレイシアは目頭が熱くなるのを感じた。その紅い瞳の両端にはうっすらと、涙が浮かんでいるのが分かる。
「ぷっ……すっかり女らしくなったなぁ!!」
「ッ……!! それを言うなぁぁあッ!!」
見事なまでに一瞬で、感動の再会の雰囲気を壊したリセル——ではなく祐に、思いっきり頭突きをかますアレイシア。
「痛っ!?」
「自業自得よ!」
二人はそのまま雲の中を通り抜け、学園へと落ちて行った。
アレイシア曰く、高度四千テルム(千メートル)を超える場所から見る学園の夜景は、かなり美しい物だったそうだ。
タタッ!
「……よっ」
闘技場のステージに無事着地する二人。ちなみに、アレイシアは既に翼をしまっていた。
———ざわざわ…………
観客席にざわめきが走る。それは恐らく、両者共に血まみれになっていたからだろう。尤も、それはアレイシアの肩から流れ出た血なのだが。
アレイシアは、隣に立つ裕に目を向ける。そして、いつもより幾分小さい声で言った。
「ハァ……裕、私ちょっと疲れたから……寝るわ……」
ドサッ……
「……あ、アレイシア?」
地に倒れたアレイシアを見て、観客全体が騒然となった。
決勝戦まで勝ち残って来た、闘技大会最年少の少女。その人気はいつの間にか、他の選手とは比べ物にならない程になっていたのである。
そんな『学園の人気者』が決勝戦で負けたとあれば、誰もが驚く事だろう。
『ゆ、優勝、決まりましたぁぁッ!! 勝者は———』
「待て!!」
最後の判定を下そうとした司会の言葉を、裕が大声で遮った。その様な事をすれば当然、観客の視線が一気に裕に集まる。
裕は、司会が持つ拡声の魔法陣が描かれた板を手に取ると、観客全員に告げた。
『勝者はアレイシア、異論は認めない!!』
その言葉と同時に、周りの観客席から徐々に拍手が巻き起こる。それはいつしか、今までで最も大きな拍手となった。
「司会さん……勝手にやって悪かったかな?」
「い、いや、君が良いなら大丈夫だ。それなりの理由があるんだと思うし」
「ありがとう。大丈夫で良かったよ……」
その後、裕はアレイシアの体を抱きかかえ、一先ずはと保健室に当たる部屋へと運んで行った。それまでに、肩の傷は既にほとんど塞がっていたというのは余談である。
新暦百六十九年度の学園全体闘技大会は、史上最年少で出場した吸血鬼の少女、アレイシアの優勝に終わった。
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〜やっぱりやろうよ謎コーナー〜
七篠「総合評価がもうすぐで1,400に届きそうです。読者の皆様、今回も読んで頂きありがとう御座います!」
アリア「そういえば今回の話、本来はリセルと裕を同一人物にする予定は無かったんでしょ?」
七篠「実はそうなんですよ…… 大会くらいはと思って作成したプロットからは実際、かなりかけ離れています」
アリア「それって、プロット作る意味無いじゃん」
七篠「……確かに。これである名言を思い出しましたよ」
アリア「それは?」
七篠「アムラン氏が、ある曲を作曲した時に言った言葉です」
『ひとたび書き始めてみると、最初は全く予想しなかった方向へと、勝手に進んでいくものだ』
アリア「…………かなりいい事言ってる」
七篠「もの凄く痛感しました(笑)」
アリア「では、感想評価など、いつでもお待ちしておりま〜す♪」