02-35 闘技大会本戦 決勝戦
読者の皆様、お待たせしました!
遅くなってすみませんです。
2/12に、ユニークアクセス35,000達成!
現在は既に夕方の十二刻。空の低い位置には、やや黄色がかった色の満月が浮かんでいる。アレイシアはそれを見る度に、一度死んだ『あの日』を思い出す。
今から始まるのは決勝戦。大いに盛り上がった竜人兄弟対決の末、勝ち上がったのは兄の方だ。アレイシアが決勝戦で戦う相手は、兄のリセルに決まったのである。
獣人種の中では最強と謳われている竜人。保有する魔力量でもそうだが、身体能力面でも他の種族を大きく上回る。そして、そんな竜人と互角、あるいはそれ以上なのが吸血鬼だ。
この大会の決勝戦。竜人と吸血鬼の戦いとあっては、盛り上がらない方が可笑しいと言うものだった。
『遂に来ました、決勝戦です! アレイシア・ラトロミア選手、リセル・ディトリー選手、この二人が決勝戦で戦います!!』
何故かアレイシアの左側に立ち、手を大きく広げて場所をアピールする司会。ちなみに、アレイシアのすぐ右隣にはリセルが立っている。
このリセルという男。若干長めの白髪と、背中にベルトで固定された大剣が特徴的だ。竜人は翼を持っている事が普通なため、アレイシアの翼とはまた違う、灰色の羽が敷き詰められた様な翼を観客の眼前にさらしている。
アレイシアはそれを見て、どうも羨ましく思ってしまう。———何故私は、翼を隠さなければならないのかと。
だが、翼持ちの吸血鬼だという事を明かしても、何一つ良い事が無いのは分かり切った事だ。むしろ、厄介事が増えて大変な事になるだろう。
『では両者、前へ!!』
その言葉を聞いたアレイシアは、ウェルムと戦った時と同じ様に一歩前へと進み出る。観客の歓声を聞き流しつつ、二人はステージ上で向かい合った。
『闘技大会決勝戦! 只今始まります!!』
観客席に座っているナディア達五人。我が娘を、親友を、尊敬する者を見守るために、ステージ上へと目を向けた。
『っ……始めぇぇッッ!!』
司会がそう言った瞬間、リセルはアレイシアの方へと急接近し始める。一部の観客の眼には全く映らないであろう程の速度だ。アレイシアはしかし、それをかわそうともせずにじっとその場に佇んでいる。
竜人なら、皆誰しもが持っていると言われている鋭い爪。それを、アレイシアの方へと振り下ろした。
ガキィン!!
闘技場全体に、硬質な物を叩いた様な音が響き渡る。アレイシアは、神力を用いて障壁を張ったのだ。詠唱も前準備も無く、これ程丈夫な障壁を張れる者が他に一体何人いるだろうか。
そこでアレイシアは、お返しと言わんばかりに居合の一閃を放つ。リセルはそれを、爪の先端で受け止め———切れなかった。
パキン!
リセルの爪にはかなり多くの魔力が込められ、その固さは普段の十倍以上にもなっている。だが、それをものともせずに、アレイシアの刀は爪の先端部をへし折った。
互いに距離を取る二人。リセルは爪を気にしている様であったが、アレイシアの方に視線を向けて離さない。リセルは背中の大剣を右手に取り、アレイシアの方を睨む。
「それ、本気じゃ無いだろう? 第四回戦の時もそうだったけど」
「……そう言う貴方こそ、ね。やろうと思えば、この闘技場を一瞬で瓦礫の山にできると思うけど?」
アレイシアがそう言うと、リセルはほんの少しだけ笑った。それは恐らく、肯定の意を表しているのだろう。
「ふぅ……出来れば本気で来てほしいな」
「……分かった。"ある程度"は本気で行くわ」
次の瞬間、リセルの背後に瞬間移動したアレイシアは、刀を逆手に持って勢い良く上へと斬り上げた。リセルはその攻撃を、大剣を縦に置く事によって防ぐ。
そのまま刀を持ち直し、リセルの方へと高速連続攻撃を放つアレイシア。だが、その攻撃は全てリセルの大剣に阻まれる。
驚くべき事に、リセルは右手だけで大剣を支えているのだ。普通は両手で持つ様な大剣を右手だけで支え、アレイシアの刀の速度に対応出来ているのである。
アレイシアは確かに、このリセルという男が今までとは比べ物にならない程強い相手だという事が理解出来た。
キンッ!!
一瞬だけ身体強化魔法を発動し、リセルの大剣を思いっきり押し返す。
そこでは何とか押し勝ったアレイシアだが、次にリセルはあまりにも予想外な行動に出る。背中の翼を羽ばたかせ、空中へと舞い上がったのである。
「……っ!!」
刀では攻撃出来ないと、アレイシアは遠距離攻撃魔法を放つ。だが、相手は竜人。空を飛ぶ事に関しては、純粋な竜を含めた他のどの種族にも劣らないだろう。リセルは、アレイシアが放った火球、水矢、風弾を見事にかわし、今度はアレイシアに向けて攻撃魔法を放ち始める。
プツッ!
「……ぁ……!!」
すぐ横を掠めた水の矢。アレイシアの頬に、綺麗な紅い筋が入る。そこから溢れ出した血液は、アレイシアの肌を伝って地面に落ちた。
頬に付いた血を指にすくい取り、自身の口に運ぶ。
「ん、美味しい……」
血を舐めて若干の冷静さを取り戻したアレイシアは、今のこの瞬間まで忘れしてしまっていたある事を思い出す。それは……
———当たる筈の無い攻撃は、当たるッ!!
「水弾!!」
「な……っ!!」
リセルが居る場所よりも左に放たれた水弾はしかし、吸い込まれる様にリセルの体に命中した。
空中で姿勢を崩して落下し始めるリセルだが、すぐに体制を立て直し地面に着地。そこでリセルは、どうも嬉しそうな表情をする。
「……やっと使ってくれたか。矛盾を操る程……じゃなくて、矛盾を起こす能力、で良いかな?」
「……!! 貴方は……」
「それはお楽しみ。本気でかかって来てくれたらね」
アレイシアの脳裏に、リセルに関するとんでもない仮説が浮かぶ。まさか……とは思うが、その可能性も否定出来ない。
リセルは再び空へと舞い上がる。そして、アレイシアの方を見て大剣を構えなおした。
「このために来たんだ。君の本気が見たい」
「……いいわ。私の母様と父様、フィア達以外の人には少なくとも見せたくなかったんだけどね……」
「……来い!!」
魔力を五段階まで開放、空を飛ぶリセルの方へとアレイシアは走り出した。いくつか心配な事もあったが、アレイシアはリセルの正体が知りたかったのである。ベルク先生に教えてもらった気を集中し、アレイシアは地を思いっきり蹴ってリセルの方へと跳び上がった。
続きは次回です。
でも、次からが本番です(笑)
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