02-34 闘技大会本戦 第四回戦
走りながら剣を抜き、両手で斜め後ろに構えたウェルム。その姿勢は、力の入った大振りの一撃を与えるのにかなり有効なものだ。
それに対しアレイシアは、左側に携えた刀。その柄の部分を右手でしっかりと握り、いつでも抜刀出来る様にと構えていた。それはつまり、素早い一閃を放つ居合の構えである。
互いがぶつかり合う様に。高速で、かつ正確に接近して行く二人。このままアレイシアとウェルムがすれ違えば、かなりの確率で、どちらかが攻撃を喰らう事になるだろう。あるいは両方か———
「……っ!」
「っ……らぁっ!!」
シャッ……!!
アレイシアとウェルムがすれ違った瞬間、何かが擦れる様な音がした。だが二人共、特に目立った怪我は見受けられない。
実はウェルムが剣を振った時、アレイシアは攻撃を逸らすために、剣の中央を縦に切り裂く様に刀を動かしたのだ。もし、少しでも手元が狂っていれば、二人は互いの攻撃で地に伏していただろう。
例え攻撃を受け止めても、このままだと相打ちになる。その事を理解していたからこそ、アレイシアは剣全体を押さえるこの対処法を取ったのである。
「……相変わらず凄いなお前は」
「貴方も、剣を逸らさずに良く支えられたわね」
「俺も伊達に鍛えちゃいねーよ。っと……そら、お返しだ!!」
ウェルムは多くの火球を放つ。でもそれは、攻撃するための物というよりは小手試しに当たる物だろう。迫り来る火球を次々と、軽快な動きでかわして行くアレイシア。長い髪の先端も、洋服の裾も、全く当たらないのが不思議だ。
「……我、その刃に吹き荒れんばかりの風を纏わん事を望む。風刃!!」
アレイシアは走りながら、素早く詠唱を完成させる。それは、第三回戦でフェダーが使っていた風刃を自己流にアレンジ、詠唱をその場で編み出した新作魔法だ。
アレイシアの刀に、目視出来そうな程の風が集まって行く。闘技場の砂を高く巻き上げ、それですら目くらましになるのではと思わせる程だ。ウェルムが放った火球は既に、風の強さでそのほとんどが消滅していた。
「おいおい……凄っ……!」
刀に収束した風と多量の魔力。それを確認し、アレイシアはウェルムの方へと向き直る。
風を纏った刀は、振る時の力を極限まで抑え、素早い連続攻撃を可能とする。相手が離れている場合でも、風の刃を放てば遠距離戦が可能だ。
「貴方はどうせ、私から向かって行かないと気が済まないと思うから」
「まぁ、その通りだな」
「行くわ、とりあえず受けてみなさいっ!!」
身体強化魔法を発動、目にも留まらぬ速度でウェルムの眼前へと迫る。そして、体の速度をそのまま峰打ちに掛けた一撃。
キンッ!!
ウェルムは咄嗟に剣で防御する。だが、例え防御したとしても防ぎきれないモノがあった。
「っ……!」
「うぉあっ!?」
剣だけでは当然、アレイシアの速度までは殺し切れず、ウェルムは大きく弾き飛ばされてしまう。
この戦いにおいて、弾き飛ばされる事程不利なものは無いだろう。何故かといえば、ステージからはみ出るだけですぐに負けが決まってしまうからだ。
ガッ!!
「危ねぇっ!!」
場外負けの危険があると判断したウェルムは、地面に剣を突き立て、何とか空中に静止する。そのまま剣の柄を軸にして、ステージの境界線ギリギリの地面に着地した。
「こいつ……!! ……願いよ届け。我、その炎が幾多もの矢を成さん事を望む! 炎矢!!」
ウェルムの周囲に八つの炎の矢が浮かぶ。辺りに火の粉を振りまき、空中をゆらゆらと動いている。
炎の矢がわずかに後ろに下がったと思った次の瞬間。アレイシアの方めがけて、炎矢が勢い良く放たれた。
それを見たアレイシアは、すぐに刀を構え直し、ウェルムの方へと走り出す。普通に考えれば、炎矢を放って来ている相手の方へ向かうなど、自殺行為にも等しい事なのだが。
シャシャッ!
目の前に迫る炎矢に向けて、アレイシアは二度刀を振るう。それだけで、その場に発生した風の刃が炎矢を斬り裂く。
炎をも切り裂くのは、魔力を纏った音速の風の刃。風刃はそのままアレイシアの意思により、空気中に霧散してすぐに消えて無くなる。
アレイシアがウェルムの方を見ると、驚いた様な表情をしながらも、何やら詠唱を始めているのが分かった。相手が詠唱をしている時は、妨害して詠唱を完成させない様にするのが基本である。アレイシアもその例に習って、火球をいくつか牽制に放つ。だが、アレイシアが放った火球は、ウェルムに到達する直前で消滅した。恐らく、魔法障壁が張られているのだろう。
ウェルムはそこで、アレイシアの方を見てニヤリと笑う。それは始めて会った時の様な、嫌悪感を覚える笑みでは無い。単純に何かを楽しんでいる様な笑い方だった。
「……炎剣ッ!!」
ウェルムの周囲で巨大な炎が巻き上がる。それはすぐに一筋の形を取り、ウェルムの手に収まった。かなりの熱風がアレイシアの立つ場所にまで押し寄せる。
「アレイシア! 俺の攻撃も受けてみろぉぉお!!」
「……っ!!」
身体強化魔法も使っているのか、かなりの速さで地面を駆けるウェルム。
そこでアレイシアも、面白い事を考えついた子どもの様な笑みを浮かべた。思い立ったが吉日と言わんばかりに、アレイシアはすぐさま詠唱を始める。
「願いよ届け! 我、宙に迸る雷の槍を形成せん事を望む! 雷槍!!」
アレイシアの利き手——左手に、纏わり付く様な雷が走った。その雷はバチバチと音を立てながら広がって行き、先端の尖った槍の様な形を形成する。
青白い光を放つ雷槍。それは、ウェルムの炎剣を見たアレイシアが、その場の思いつきで作り上げた即興新作魔法だ。この魔法の凄い所は、雷系統を使うためには必要だと考えられていた、火系統、風系統、水系統の合成を全く行わない所にある。
今現在アレイシアが使っている魔法が、ここ何百年と変わらなかった魔法魔術の理論を完全に覆す物だとは。観客は勿論、ウェルムや教師ですら全く思わなかっただろう。
「うぉぉおおああ!!」
ウェルムは、アレイシアの雷槍にひるむ事無く向かって行く。
———そして遂に、雷槍と炎剣が激しく衝突した。
バキィィィンッ!!!
その音は何の音だったか。
気付けばアレイシアは、地面に倒れたウェルムのすぐ隣に立っていた。砂埃で視界が悪いが、それもすぐに晴れ、その姿が観客にも届く。
『……き、決まりましたぁぁッ!! 立っていたのはアレイシア選手! 決勝進出ですッ!!』
観客席が、今までよりもさらに大きな歓声に包まれる。それも当然。あれ程大規模な戦いを見せられて、興奮しない観客がいる筈も無かった。
今すぐにでも、アレイシアコールが巻き起こりそうな勢いだ。
——うん、それは起こらなくて良いわね。
何はともあれ次は決勝戦。アレイシアは次の戦いで、竜人兄弟のどちらと戦う事になるのかと、楽しみに思いを馳せていた。
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