02-32 闘技大会本戦 第三回戦
闘技大会の第一回戦で、アレイシアが戦った日から二日。第二回戦でも、四年Aクラスの大男相手にアレイシアは勝利を収めた。
一体どの様にして勝ったのかというと、開始早々走って来た大男が剣を振り下ろした丁度その時。アレイシアは体の小ささを上手く利用して、足元に滑り込んで氷魔法を放った。結果、足が滑って地に伏した大男は、アレイシアに負ける事となったのである。
今日は闘技大会の最終日。アレイシアは闘技場の中央に、勝ち残った他の七人の選手と並んでいた。多くの観客を含め、その場の全員が司会の話に耳を傾けている。話によれば今日は、第三回戦、第四回戦、決勝戦を行う予定だそうだ。
ちなみにこの世界の言語には『準決勝』を表す言葉は存在しない。それは、アレイシアが使う三国共通語だけの話では無く、この世界の他のどの言語でも同じ事らしい。
『今日の戦いで、優勝する選手が決まります! まずは第三回戦、これで残るは僅か四人です!!』
司会がそこまでを一息で言い終えた所で、観客席からは今までとは比べ物にならない程大きな歓声が上がる。決勝戦が行われる日だからか、今までよりも多くの人が集まっている様だ。
『第三回戦からは、今までとは違うルールを取ります。相手の気絶、降参及び行動不能で負けとなるのは同じですが、それに加えて闘技場の中央に、一辺六十テルム(十五メートル)の線を引き、そこからはみ出た場合も場外負けとなります』
アレイシアは自身の周囲を確認する。地面には確かに、濃い線が正方形状に描かれていた。待合室の出入り口から入場して来た時、気になった線はこれだったのかと考える。
『なお、場外の線を超えても、足が地に着かない限りは負けとはなりません。この線で囲まれた場所は、以後ステージと説明します』
そこで一息おいた司会は、観客の様子を見る様にして話を続けた。
『では今から、第三回戦の一戦目! 呼ばれた選手以外は、ステージから離れておいて下さい。こちら側は、一年Sクラスのアレイシア選手!! 一部で翼持ちの吸血鬼なのではと噂されているそうだ!』
「……噂されてるんだ……」
今まではこんな説明無かったのに、とアレイシアは内心でため息をつく。遠くからアレイシアを見守っているナディアとオーラスも、その説明には驚いた様だった。二人で目を見合わせ、アレイシアに何かを言おうとしているのが分かる。
と、そこで、アレイシアとオーラスの視線が交わった。
「アリア? 今の放送って本当なのか!?」
「あゎ、う、噂されてるだけ!」
若干慌てたように答えるアレイシア。年齢についてと同様に、実は翼を背中に隠してる、だなんて言える筈も無かった。
『対してこちら、六年Sクラスのフェダー選手! 今までの戦いで、剣術を活かした素晴らしい俊敏さを見せてくれた選手だ!!』
アレイシアともう一人、司会が言っていたフェダーと思われる人物だけがステージ上に残る。他の選手は皆、ステージと場外の境界線の後ろに立った。
『いよいよ始まります! 第三回戦の選手はこの二人!!』
息を大きく吸い込む司会。
観客は皆、向かい合う二人の間から緊迫感が伝わって来るのが分かった。
『……始めぇぇッ!!』
その声と同時にフェダーは駆け出した。アレイシアの方へと、右手に持った剣を向けている。距離を取った状態から始まる戦いは、その距離を詰める事から始まるものなのだ。
だがアレイシアは、近づいて来るフェダーに対し、距離を縮めさせない様にと同じ速度で遠ざかり始めた。近接戦闘が得意だと思われるフェダーには、遠距離からの魔法が有効だと考えてこその行動だろう。注意すべき点は、ステージの正方形という形だ。正方形の頂点部分に追い詰められてしまっては元も子もない。
フェダーが立ち止まる。それに反応し、アレイシアも立ち止まった。魔法を放とうと詠唱を始めるアレイシアだが、そこで予想外の攻撃が飛んでくる。
「……風刃!」
何時の間に詠唱を完成させていたのか、それとも無詠唱か。フェダーは剣に風魔法を纏わせ、アレイシアの方へと勢い良く振りかぶった。
放たれるのは、視覚不可能の風の刃。ソニックブームが放たれる速度よりは遅いが、その速さは確実に亜音速の域に入る。
魔法障壁を球状に、自身の周囲を取り囲む様に張るアレイシア。魔力放出速度が間に合わないと判断したのか、神力を代用して障壁に供給している。
バキィンッ!!
アレイシアが魔法障壁を張っていない所だけ、地面に大きなヒビが走る。それからすぐに魔法障壁を解除、刀を右手に持ってフェダーの方へと駆けて行った。ちなみにここで、第一回戦と同様に瞬間移動を使用しても良かったのだが、あまり変な噂をこれ以上広めたくないと自重したのである。
先程の攻撃は、相手は遠距離攻撃も可能だという事を表している。これ程の攻撃を放てるのだから、他の遠距離攻撃の手段も持っている事だろうとアレイシアは考えた。だから、予想外の攻撃を喰らってしまう前に、あえて近接戦闘に持ち込んでみる事にしたのである。
——キィン!!
互いの武器がぶつかり合う。フェダーは上手く力を分散したのか、彼の剣は弾き飛ばされる事も、ヒビが入る事も無かった。
「こんの……!!」
ガキッ! キキィンッ!!
そのまま、二人は武器の打ち合いに入る。片方が攻めに入れば、もう片方が防ぐ様に武器を動かす。
両者共に、一瞬たりとも気を抜かない。対応に遅れる事があろう物なら、すぐに負けが決まってしまうからだ。
そこでアレイシアは、わざと対応に遅れたかの様に刀を止めて後ろに下がった。剣が捉えられる範囲から出たアレイシアを追う様に、フェダーは一歩前に踏み出す。
だがそれが間違いだった。フェダーが前に踏み出す一秒にも満たない時間。それだけでアレイシアは充分だった。
再び振られたフェダーの剣は、アレイシアの刀に直撃する。その瞬間、二つの刃の間に光が走った。つまりアレイシアは、無詠唱で刀に雷魔法を纏わせていたのである。刀に込められているのは、感電とまでは行かないが、動きを鈍らせる程度は出来る微弱な電流だ。
バチッ!!
「うをぉっ!? ぁ……体が……?」
フェダーは一瞬よろめくも、それからすぐに体勢を立て直す。だが、明らかに動きが鈍っているのが分かる。そんな中で打ち合いを再開しても、まともに剣を操れないのは当然の事であった。
キンッ!! ガッ……!
二、三度の打ち合いの末、アレイシアは刀の峰をフェダーの胸部に押し当てる事が出来た。もしもここで刃の部分を押し当てていたのなら、と考えアレイシアはぞっとする。
後ろにのけ反るフェダーに、アレイシアは視線で訴えかける。
「っ…………分かった、俺の負けだな……」
『……!? どうやら決まった様です! 勝者は、アレイシアさんだぁぁっ!!』
割れんばかりの拍手と歓声に包まれる闘技場。上級生に引けを取らない戦いをするアレイシアに、観客は皆が皆、驚いた様であった。
今はまだ第三回戦、後二回の戦いが残されている。今日の戦いはまだ始まったばかり———
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