02-30 闘技大会本戦 開催
闘技大会の予選が終わり、次の日の朝。この日からは決勝のトーナメントが始まる。
「アリアさん、おはようございます!」
「フィアおはよ……あ、ちょっと貧血気味だわ……」
ベッドから起き出して来たアレイシアは、何故か早速貧血を訴える。それもその筈、昨日の夜寝る前にナディアに血を吸われてしまったからだ。勿論アレイシアも、仕返しと言わんばかりにナディアの血を吸ったのだが。
ソファに倒れ込むアレイシアの様子を見て、この事を知らないフィアンは、アリアは昨日の予選で血を流す怪我なんてしたっけと考える。
横から見ているフィアンを全く気にせずに、アレイシアはソファで寝ていたオーラスに抱き付いた。
オーラスとアレイシアは親子の関係だが、吸血鬼という種族上、老化が他の種族に比べて圧倒的に遅いため、寝ている二人は兄妹にしか見えない。人間からすれば、オーラスの身長もまだ子供という範囲だからだ。よくよく見れば、髪の色こそ違うものの、顔立ちがどこか似ているという事に気が付くだろう。
それから暫くして、やっと起きて来たナディアとオーラス、着替えを済ませたフィアンと共に、隣の部屋へとアレイシアは向かう。何故かといえば、シェリアナとクレアも誘って朝食を食べに行くためだ。
ちなみにアレイシアはいつも通り、刀と魔導書を持っている。
——コココンッ!
アレイシアは扉を軽く爪で叩く。
数秒の沈黙。
……しかし、何も起こらない。
「まだ寝てるんでしょうか?」
「そうかもね……案外セリアとクレアって朝の寝起き悪いから」
「もう先に行っちゃいましょうか?」
「そうね。一応先に……」
——ガチャッ! バンッ!!
アレイシアがそう言った瞬間、扉が勢い良く、それこそ壊れてしまうのではないかと思う程の速度で開いた。突然の事に、フィアンとナディアは驚いてその場を後ずさってしまう。この時、アレイシアとオーラスは全く動じなかった。
「ごめんっ! 寝坊しちゃった!」
部屋から現れたのは寝間着姿のシェリアナ。いつもは一つに纏められている金髪が、寝癖で痛々しい程に乱れている。
「扉、壊れるわよ? ……ほら、うしろ」
「え?」
そう言われたシェリアナは、扉の後ろを確認する。そこにあったのは、丁度ドアノブが当たる場所に大きな窪みができた白い壁だった。吸血鬼がいかに高い身体能力を持っているかが良く分かるだろう。
「あぁぁ……どうしよ……」
「ま、仕方が無いわね。着替えて朝食に行きましょ」
「……はいっ!」
その後、既に着替え終わっていたクレアが四人の中に入り、髪を整えたシェリアナも一緒にレストランへと向かって行った。
…………。
「あの、学園紙の取材です! アレイシアさん、今日の本戦での意気込みをどうぞ!」
「私が今日出ると決まった訳じゃないわよ? 三十二人分、十六試合を二日に分けて行うんだから」
「あ……そ、そういえばそうでしたけど、意気込みをお願いします!」
レストランに来たアレイシアは、早速学園紙記者の取材を喰らってしまった。
すぐ後ろにいた筈の五人は、ナディアとオーラスを除いてその場を離れている。友達だからと言って、取材をされたく無いからだろう。
「じゃ、私はそろそろ……朝食がまだだしね」
「あ、あぁ……待って、待って下さい! 後ろの二人は誰ですか!?」
「私の母様と父様よ」
「あ、少し話を……ダメかぁ……」
取材の男は、遊園地で親を急かす様に二人の手を引くアレイシアを見て、これ以上の取材は無理だと悟った。そして、トーナメントが行なわれる闘技場へと足を運ぶ。取材が無理なら、戦っている所を見ようと思ったからである。
———昨日の予選は他の取材があって行けませんでしたからね。本戦こそは……
第四闘技場の中央に、予選で勝ち残った三十二人の選手が並んでいる。一番後ろの一番左に立っているのがアレイシアだ。
『予選を勝ち抜いた皆さん、本日三月三日から三月六日まで、闘技大会の本戦が行われます! 三十二人が二人ずつ戦い、今日は十六人の中から八人が選ばれる予定です』
司会の人がそう言うだけで、観客席から歓声が上がる。
アレイシアが右側に目を向けると、『優勝! アレイシア様!!』と書かれた大きなボードを掲げたファンクラブの男子共が目に映った気がした。
———そうよ、あれはあくまでも気のせいね。気のせい……気のせいなのよ……
視界の端に映ったあるモノを全否定し、アレイシアは司会の方へと目を向ける。
『問題はどうやって今日戦う十六人を決めるかですが、それに関しては既にトーナメント表を作ってあります。こちらに注目!!』
闘技場の円形の観客席。そこの一角、司会者が立っている段の下に、授業でも使われている板が運び込まれて来た。遠くにいる観客への配慮なのか、普段使用している板よりもかなり大きい物の様だ。
『ここに描かれたトーナメント表の左半分が一日目、右半分が二日目を予定している分となっております!』
アレイシアは列の一番後ろに居ながらも、板に描かれたトーナメント表を高い視力で確認する。
———一日目の一戦目……って!?
探してみればすぐに、表の一番左端にアレイシアの名前が見つかった。その下には小さく『一戦目』と書かれている。
『では、選手の皆さんは待合室に戻って、準備を始めておいて下さい。第一回戦の一戦目はこれからすぐに始まります!』
その後、心の準備が全く出来ていないアレイシアは、待合室の出入り口付近に立ち、どうしたものかと頭を悩ますのであった。
観客席の最前列、司会の丁度向かい側に当たる席に、アレイシアの両親含め五人が座っていた。クレアは板の方を指差し、ナディアに話し掛けている。
「ナディアさん、あの板を見る事は出来ますか?」
「出来るわよ。アリアちゃんが一戦目になったみたいね」
「本当だ、早速アレイシアが出て来る……!」
「私も見える。一番左にアリアの名前があるわ」
ナディアとオーラス、シェリアナは、この距離からでも板に書いてある事が読める様だ。百テルム(二十五メートル)以上も離れた場所から細かい文字を読む事が出来る三人を、フィアンとクレアは少し羨ましく思ってしまうのであった。
「一戦目……! 応援しましょう!!」
「勿論、言われずともね!」
そして五人は、一戦目が始まるという風魔法の放送を聞き、闘技場中央へと目を向ける。それは丁度、アレイシアが出入り口から出て来る所であった。
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アリア「また次回! 次こそは本戦が始まるわよ!」
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