02-28 闘技大会予選
闘技大会予選の当日二日目。アレイシアは寮室で、クレアと共に装備の確認を行っていた。
何故二日目なのかというと、アレイシアは第四チーム、つまり予選二日目の部に入ったからである。前日既に、第一チームと第二チームは終了しており、決勝進出の三十二人中十六人は既に決定しているのであった。
この場に居ないフィアンとシェリアナは、闘技場の観戦席を取ろうと必至になっている様である。アレイシアの様子を見るため、一番前の席を取りたいそうであった。
手に持った魔導書を机の上に置いたアレイシアは、鏡に映った己の姿を上から下まで細かく見て行く。
彼女の服装は王都に行く前、学園街で購入した緋色の服に、対魔法の魔法陣を裏に描いた物であった。腰にはベルトが巻かれ、左側には鞘が固定されている。
「……よし、これで準備は大丈夫」
「頑張って来て下さいね!」
「勿論よ。折角出場するからには……ね!」
アレイシアはそう言うと、魔導書を再び手に取り、玄関の扉へと歩いて行く。クレアも急いでその後を着いて行った。
寮を出たアレイシアとクレアは、四つの闘技場の中で最も大きい第四闘技場の前まで来ていた。
周りを見れば、人、人、人、ついでに獣人、エルフに小人まで。ありとあらゆる国からの、ありとあらゆる種族がこの学園に集まっていた。その中には学園に通う生徒の親などもいると思われるが、娯楽を求めてやって来た者も多くいる事だろう。
「アリアさん、とりあえずセリアさんとフィアさんを探しましょうか」
「そうね。まだ始まるまで二刻も……」
「アリアちゃんっ!!」
「……え?」
どこかで聞いたことのある、そして懐かしい様な声に、アレイシアは咄嗟にその方向を向いた。そこに居たのは確かに、アレイシアの母であるナディアだった。
そこでアレイシアはつい、ナディアに思いっきり抱きついてしまう。
「……母様……っ!!」
「あら? 学園に行くまではこんな事無かったのに……」
勿論ナディアは知らないが、アレイシアにとっては実に百年ぶりの再会なのである。これでは逆に、泣かない方が不思議だった。実際フィアン含め三人に、九十年ぶりに再会した時でさえ泣いてしまったのだから。
「あ、あの……アリアさん?」
「あ……変な所を見せてしまったかしら?」
まさに感動の再会といった二人の様子に、困惑した様に話しかけるクレア。それに反応し、アレイシアはすぐにナディアから離れる。
「……アリアちゃん、口調変わった?」
「口調はちょっと訳ありで。……それよりも、何で私の愛称がアリアだって知っているの?」
「それはね……あそこに居る二人が教えてくれたのよ。仲のいい友達なんでしょ? しかも一人は吸血鬼じゃない」
ナディアが指差す方向に目を向けると、そこにはフィアンとシェリアナの姿があった。二人共こちらを向いて、何やら微笑ましい物でも見守るかの様な表情を浮かべている。
だがそれと同時に、アレイシアにとってはかなり重大な事に気が付いた。
———こちらを向いて……? いつから……まさか私が母様に……ッ!!
向こうから見ている二人の表情と、先程の自身の行動から確信する。ナディアに抱き付いた所を見られてしまったと。
それからアレイシアは恥ずかしさの余り顔を赤くし、すぐに瞬間移動で二人の背後に移動した。
「御二方、一体何を見たのかしら?」
「ぁわ、私は何も見ていませんですよ?」
「そう、そうよ! アリアがママに抱き付いた所なんて見ていな……!!」
シェリアナがそう言った瞬間、何て愚かな事を言ってしまったんだと後悔する。フィアンもそれと同時に、貧血じゃ済まない程度に血を吸われる事を覚悟した。……彼女の中で、アレイシアは一体どういう人物になっているのかは分からないが。
そんなアレイシアは、二人に対して怒るでも無くナディアの元へと戻って行く。フィアンとシェリアナは当然、肩透かしを何度も喰らわせられた気分になった。
「え……? 何で?」
「アリア、何もしないの?」
「したって何の意味ないでしょ。……それとも、何かされたかったのかしら?」
「い、いや、そういう訳じゃ……」
そして、その様子を見たナディアはというと……
「アリアちゃんは学園に来てから二ヶ月で大分変わったのね」
「……ま、褒め言葉だと思っておくわ」
まさか、この二ヶ月で百歳以上も歳を取っただなんて、口が裂けても言える筈が無かった。この件については、時期を見て言わなければならない時がいずれ来るだろう。
そこでアレイシアは、腰の左側に携えた刀をナディアに見せた。
「この武器、剣術科の先生から貰った物なのよ」
「へぇ……変わった武器ね」
鞘から刀を抜いて、刀身をじっと見つめるナディア。いくら見た事がない形の武器とはいえども、それの良し悪し位は感覚的に理解できるのだろう。刀をアレイシアに返すと、
「これ、凄くいいわ。絶対にアリアちゃんの助けになるでしょうね」
と、そう言った。
その後、しばらくの間ナディアと話をしたアレイシアは、選手招集の放送と共に待合室へと向かって行った。その時は勿論、三人とナディア、オーラスの応援を受けたのは言わずもがなである。
闘技場の中央で開会式らしき物を行った後、アレイシアは待合室へと戻っていた。
周りにいるのは、アレイシアよりも明らかに身長の高い男女丁度五十名。大剣を磨いている者や、魔力を引き出しやすくするために瞑想をする者など、それぞれが思い思いの方法で待ち時間を過ごしていた。
『第三チーム、決勝進出はこの八人に決まりました!』
———ワアアァァァァ!!
———パチパチパチパチ!!
風魔法の放送と歓声、割れる様な拍手が闘技場に響き渡る。第三チームが終了、つまりアレイシアの第四チームは次になるだろう。
『では、次は第四チームの試合になります。第四チーム選手の皆さん、入場門から入って来て下さい!!』
その声が聞こえた次の瞬間、待合室の全員が我先にと闘技場へと溢れ出した。
第四チームが出揃い、今は開始の合図を待つだけ。アレイシアも刀を構え、臨戦体制を取る。
『第四チーム、出揃いました! では…………』
そこで息を吸い込む司会の男。
————!
『始めぇぇッ!!』
その声を受け、その場の全員が前方へと駆け出した。
———アリア、頑張って!!
アレイシアは会場の歓声の中、だれかがそう言ったのが聞こえた気がした。
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