02-27 ファンクラブ内争奪戦
闘技大会まであと三日、廊下を歩いていたアレイシアは、向かい側から歩いて来た男子に突然話し掛けられる。
「……あの、君がアレイシアさん?」
「そうよ。何の用かしら? 闘いを挑むとかだったら即断るわ」
「いや、そうじゃないんだけど……」
そう言うと、その男は突然黙り込んでしまう。立ち止まったアレイシアは、何を言うつもりなのかと考えながら次の言葉を待つ。
数瞬の間を置き、その男が口を開いた。
「あ、あの……僕は、アレイシアさんのことが……す、すっ…………」
「……あー。はいはい、分かったから」
震える言葉から内容を察したアレイシアは、すぐにその言葉を制する。聞いたら大変な事になると思ったからだ。そこで何を勘違いしたのか、その男はとても嬉しそうな顔をする。
「そ、そうですか……! ありがとうござ……」
「いやだから違うって」
どこか盛大に勘違いをしているこの男。その様子にアレイシアは一度呆れのため息を漏らすと、廊下の反対側に目を向けた。
人数は四人くらいだろうか、廊下を駆ける音が近づいて来るのが分かる。
「あっ! こいつ……抜け駆けしたな!!」
「それはファンクラブのルールに反するだろ!!」
「……! な、何?」
廊下の向こうから走って来た五人組は、アレイシアと男の姿を見るなり大声を上げる。ファンクラブのルールというのは何か分からなかったが、その中にアレイシアへのアプローチ禁止に近い物があるという事は容易に想像出来た。
「お前! アレイシアちゃんに何をした!?」
「あ、いや、僕は何も……」
「……嘘じゃないのか?」
「うわぁ、これはひどい……」
アレイシアに関する事なのだが、当の本人は完全にカヤの外。その呟きも、誰に聞かれる事も無く宙に消えた。
厄介事には巻き込まれたくないと、アレイシアはすぐにその場を離れようとする。一瞬、追いかけられるかもしれないと心配が頭をよぎったが、すぐにその心配も晴れる事となった。
「告白か? まさかの告白か!?」
「い、いや、だから違うって……!」
「俺もしたいのを我慢しているんだぞ!」
話に熱中する余り、どうやらアレイシアが離れようとしている事にも全く気付いていない様だ。
その話の内容に、思いっ切り突っ込みたい気持ちを抑え、アレイシアはその場から離れて行った。
入学の日に魔力検査を行った中ホール。アレイシアはそこに、闘技大会に出場する生徒全員と並んで立っていた。何故かといえば、これから闘技大会のルールを説明して行くとの事だからだ。この場に立っている全員が、前方の先生に視線を向けている。
「よし、いいか? これから闘技大会のルールを説明して行く訳なんだが、その前に伝えておく事がある。今回の大会に、第三学年未満で推薦状を貰って出場する奴が何人か居る」
先生がそう言うと、その場の生徒は皆ざわざわと話し始める。話の内容は勿論、誰が推薦状を貰った生徒なのかである。
それと同時に、他の生徒よりも頭一つ分、下手したら二つ分よりも身長の低いアレイシアに視線が注がれた。この様な場合も想定して、わざわざ右端の列の一番後ろという場所を選んだのだが、あまり意味が無かった様だ。
アレイシアは、自身に注目する生徒の中に、どこかで見た様な顔を見つけた。若干濃い茶色の髪に頭上の犬耳、どちらかといえば痩せた体つきの男。
それが誰だったか理解すると、アレイシアは深いため息をついた。今日二回目のため息、明日から幸せが逃げないか心配だ。
「……なんであのウェルムが」
「お……? あいつ、気付いたか?」
ウェルムのその言葉は、ちゃんとアレイシアの耳に届いていた。吸血鬼の高い身体能力、その中には当然、五感の鋭さも含まれているからである。……実際は、魔力などを感じ取る『第六感』も優れているのだが。
アレイシアはそこで、念話魔法を使ってウェルムに言葉を伝えてみる事にした。向こうからも言葉を伝えられる仕様だ。
——何で貴方がここに?
——うぉっ!? 念話か……いきなりは驚くだろ。……そりゃまぁ、俺は四年の主席だし?
——それは自分で言う事じゃないでしょ……
——俺はいいんだよそれで。ま、大会で……
その言葉で、アレイシアはすぐに念話魔法を切った。 説明の先生が話し始めたからである。
「ま、これ以上はあえて言わないでおこうかな。では皆、この紙に注目!」
その言葉を受け、アレイシアを含む全員が前方の紙の方向に注目した。
紙の下部に描かれた四つの円。その上には、三十二もの線に分かれたトーナメント表があった。
「この場にいる全員をランダムに四のグループに分け、予選としてまずはそれで戦う。各グループから八人ずつ残った奴がトーナメントに進出って訳だな。単純だろ? 今年の出場者が二百四人だから、予選は一グループ五十一人になる。ここまでで質問は?」
先生がそう言うと、何人かの生徒が手を挙げる。そして先生は、順番に生徒達を指差して行った。
「魔法の使用は大丈夫ですよね?」
「ああ、他の武器の場合でも同じだが、殺しさえしなければ大丈夫だ」
「日程はどの様になるんでしょう?」
「三月一日と二日が予選、それから先が六日まで本戦だな」
…………
生徒達の質問も大体終わり、質問で出なかった部分だけ先生が説明をして行く。アレイシアが、これなら始めから説明をすれば良かったのではと思ったのは内緒である。
昼過ぎの九刻、全ての説明が終わった後、アレイシアは人目を避ける様に校舎内のレストランへと向かって行った。わざわざ人目を避けるのは、先程のファンクラブに件で敏感になってしまったからかもしれない。
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