02-22 死神就職申し込み用紙
行動範囲が大幅に拡大フラグ(笑)
王の間の隣、机とソファが置かれた部屋。そこは元々、国王が客と重要な話をする為の場所であるが、今はすっかり和やかな雰囲気に包まれている。
国王が座る向かい側、先程までソファに座っていたはずのアレイシアは、何故かリーシェの膝の上に乗せらせられていた。それもまるで、大切な人形を抱き締めるかの様に、互いが向き合う形で。
「私は人形かッ!」
「下手な人形よりもずっと可愛いわ!」
ぎゅぅぅ……
本人は気付いていない様だが、人形と間違えられる程には可愛いという事も、また事実なのである。
「リーシェは小さい頃からずっとこんな調子じゃ。今年で十六だというのに、いつになったら直るのやらと心配なんじゃよ……」
「へぇ、十六歳……」
ぎゅぅぅぅ……
年の割に子供っぽいリーシェには、何か理由があるのかとアレイシアは考えたが、ここで聞くのは控えた方が良さそうだ。そこで、国王が思い出した様に言う。
「そうじゃ、明日まで王都に居るなら、城の客室がいくらか空いている。連れて来た三人と一緒に泊まってはどうじゃ?」
「……寝込みを襲われたらたまったものじゃないわ。主に二つの意味で。だから悪いけど、街で宿取って明日また来るわね。……リーシェ、いい加減放しなさいよ」
そう言って、リーシェの腕の中から逃れようとするアレイシアだが——
「やだ」
「放せっ!」
「やだっ!」
「はーなーせっ!!」
「やーだっ!!」
「……という事があったのよ」
「始めまして、リーシェです!」
「…………えええぇぇ!?」
ここは中心街にある宿。四人が泊まるため、一番広い部屋を用意してもらったのだが、現在この部屋には五人の少女の姿があった。
「ぇ、えっ? この国のお姫様!?」
「うん、そうよ」
「うわぁ! まさか会えるなんて思ってなかったわ!!」
やはりどの世界でも、姫というのは女子の憧れの的なのである。アレイシア以外の三人は、それから半刻に渡ってリーシェと嬉しそうに話をしていた。クレアも当然、姫同士で仲良くなって行った。……勿論、姫であるという事を隠しながら。
「で、リーシェさんは城に帰らないんですか?」
「私はいいの、明日帰るから。今日はアレイシアと寝るわ」
「絶対寝ない!!」
「寝ようよー」
「やだっ!」
寝るかどうかを言い争う二人は、他の三人の目にはかなり微笑ましく写っていた。その事を口に出したシェリアナが、二人に厳しく責められたというのは余談である。
意識が浮上する。辺りはどこまでも奇妙な色が続き、時間と距離の感覚が曖昧になる。アレイシアは、そんな場所に見覚えがあった。そう、ここは夢を見せられる時に来るいつもの場所であった。
「こんにちは! どうやら上手く、リーシェ姫とレオル王子には会えた様ね」
「今日は何の用かしら?」
「あの、ちょっと話があって」
前方に立つ黒美さんは、アレイシアに近寄ると視線を合わせる様に屈む。その様子にアレイシアは、自身の身長の低さをまたもや恨めしく思うのであった。
「……あの二人、記憶を持った転生者なのよ。地球からじゃないけど」
「へぇ……なんか納得出来る」
「天界の手伝いとして死神の職に就いてもらってるんだけど、貴女も入ってみない?」
それを聞いた瞬間、すぐに興味を持ったアレイシアは黒美さんに問う。
「具体的にはどんな仕事を?」
「そうね……時間がある時に見つけた魂を天界に送るとか? 祐に渡せばあとは天国行き地獄行きはこちらが決めるからね。報酬には天界の共通通貨とか、何か物がもらえたりするわ」
「はい決めたっ! 楽しそうだし、とりあえずやってみるわ!」
「話が早いわね。じゃあ早速……」
そう言って、黒美さんは懐から一枚の紙を取り出した。書かれている事から判断して、申し込みフォームに近い物だろう。
「この紙に書かれた項目を全部埋めておいてね。また明日!」
「え、ちょっ!? 待って!」
気付けばアレイシアは、暗くなった視界に飲まれ、再び現実へと戻されて行った———
「んぅ……にぇむい……」
次の朝、アレイシアはカーテンの隙間から漏れる僅かな光で目を覚ました。腰と腹部に回されたリーシェの腕の中から這い出し、枕元に目を向ける。そこには確かに、夢の中で黒美さんに渡された紙が置いてあった。何故置いてあるとか、その様な疑問はさておき、アレイシアは紙に目を通して行く。
パサッ……
「…………」
紙の内容は至って普通。名前、性別、種族から始まって、魔力量や得意な事など、多くの項目が英語で書かれていた。アレイシアは万年筆を取り出し、眠い頭を働かせて順番に一つずつ記入し始める。
「ふわぁぁ……」
「アリア何やってるの?」
「あひゃあ!?」
大あくびをするアレイシアの後ろに現れたのは、先程までいなかった筈のシェリアナだった。突然の事に驚いて、つい変な声を上げてしまう。
「あ、セリア?」
「そんなに慌てなくても……その紙は何?」
「あー……これ? 何でもないわ。セリアも、何しに来たの?」
アレイシアがそう言うと、急にシェリアナはそわそわし始める。何か問題でもあるのかと、アレイシアが思った次の瞬間——
「っ……何でもない! 何でもないわ!!」
「!? セリア待って!」
シェリアナは何故か全速力で逃げ出した。それを追おうとするアレイシアだが、どうも彼女に悪い気がするのでそのまま踏み止まる。二つに別れた宿の部屋の内、入り口に近い部屋のベッドに隠れたシェリアナは、その時こう考えていた。
——アリアを抱き締めてたリーシェが羨ましくて、私も入りたかっただなんて言えないっ! 言えないぃぃっ……!!
シェリアナがこう考えていたという事を、アレイシアが知る日は永遠に来ないだろう。椅子に座り直したアレイシアは、再び机に向かって紙の欄を埋めて行く。シェリアナが何故逃げてしまったのかと考えながら———
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