02-21 お姫様と王子様
タイトルは気にしないっ!
前半と最後の方は訂正する必要がありそうです。
中心街をまっすぐと進み、現在アレイシアは城門のすぐ前まで来ていた。深い堀と跳ね橋、灰色の石と煉瓦で固められた城壁。それら全てが城の威厳を強く感じさせている。そこでアレイシアは、跳ね橋の横の槍を持った兵士に話し掛けられた。比較的豪華な緋色のドレスを身に纏う少女が城を見上げていれば、誰だって不思議に思う事だろう。
「お嬢さん、この城に何の御用かな?」
「国王様に会いに来ました。アレイシアと言えば分かる……と思います」
いつもよりも丁寧な口調で喋るアレイシア。恐らく国王も私の事を憶えているだろうと、名前を伝えるように頼んでみる事にしたのだ。
「……国王様に面識があるのか? 君は何者だ?」
「クラード出身、ラトロミア家の者です」
「君はまさか……! いや、何でもない。ひとまずはこっちに来てくれ」
跳ね橋を渡り、庭を通り抜けた先、丸机と椅子が並ぶ広い部屋にアレイシアは通された。どうやら、ここで待っていろとの事らしい。部屋を見回せば、壁際に置かれたいくつもの置物や装飾品。これらを見て、アレイシアは暇をつぶしていた。先程の言葉がどうも引っかかるのだが、どうでもいい事だと、すぐに思考の隅に追いやる。
部屋に通されてから十分程、やっと先程の兵士が戻って来た。話によれば国王は、アレイシアが会う事を快く承諾してくれたそうだ。王の間へと向かう途中、アレイシアは、今まで黙っていた案内の兵士に突然話し掛けられる。
「質問があるんだが、いいかな?」
「いいですよ」
「どの様な事があって国王様と知り合ったのかな?」
「私が八歳の誕生日を迎えた日に、国王様がパーティに来てくれました」
それを聞いた兵士は、そうかと一言、また黙り込んでしまう。何か悩む事でもあるのか、眉にしわを寄せている。それを不思議に思ったアレイシアは、兵士に話しかけた。
「あの、どうしたんですか?」
「んー、いや、何でも無いが……」
「そう」
そして、前を向くアレイシア。
と、その時———
「……悪いッ!!」
「!?」
突然その兵士が、アレイシアの背中を狙って槍を突き出して来たのである。突然の事だったが、アレイシアはなんとか斜めに動く事によってかわす事が出来た。
ヒラリ……
宙を舞う何本かの黒い糸——いや、アレイシアの髪。恐らく、槍をかわした時にでも切れたのだろう。その黒い糸は風に流され、そのままアレイシアの右手に収まる。
「……何のつもりかは知らないけど、私が十年かけてここまで伸ばした髪を少しでも切った。その事に関してはいいわね?」
「ぁ……!」
先程までとは全く違うアレイシアの様子と、背後からの奇襲をかわしたという事実に驚いて超えも出ないらしい。実の事を言えば、アレイシア自身、黒くて長い髪をかなり気に入っていたのだ。右手に握った髪を、大事そうにスカートのポケットにしまう。
「国王の所までは来てもらいましょうか。とりあえず言っておかなきゃね」
「!! やめろっ! 国王様には言わないでくれっ!!」
アレイシアは、瞬間移動で兵士の背後に回り、襟元を掴んで王の間へと引きずって行——
「…………あ、王の間の場所知らないや」
——けなかった……
結局、王の間の場所を給仕の人に尋ね、五分程歩いて辿り着いたのは、鉄と木で出来た巨大な両開きの扉がある場所だった。ちなみに、給仕の人に道を尋ねた時、兵士についてを逆に尋ねられたが無視しておいた。
「お邪魔しまーす!」
ズガコンッ!!
「何事じゃ!?」
人間一人では開けるのにも苦労しそうな扉を、アレイシアはいとも簡単に指二本で押し開ける。両側に勢い良く開いた扉が、壁に当たって大きな音を立てた。
「国王、久しぶり! 私の事憶えてるわよね?」
「ふぉっ!? 何じゃ、アレイシアか……それにしても、大きくなったのう」
国王は、アレイシアを上から下まで全体的に見る。確かにアレイシアが八歳だった頃と比べれば、かなり成長しただろう。
「何じゃとは何だ。……それにしても、老けたわね」
「ふぉっふぉっ……口調は変わっても、やはり性格は変わらんな。で、そこに転がってるのは……お主がやったのかね?」
アレイシアの後ろ、開きっぱなしの扉の前に国王は目を向ける。そこには、身に付けた鎧の一部が剥がれ落ち、みすぼらしい姿を晒している兵士の姿があった。それでも槍は手放さなかったのか、ぴくぴくと震える右手にはしっかりと槍が握られている。ある意味、根性がある奴だとアレイシアは思った。
「あぁ、あれはね、ここに案内する途中に客人を刺す様な人間だから、気にしないでいいわ」
「……それは本当か?」
「だから気にしないでって。そろそろ本題に入っていいかしら?」
アレイシアは、以前よりは柔らかい言い方で本題を促す。国王は兵士の事がまだ気になる様子だったが、王の間の隣の部屋へとアレイシアを案内した。
部屋のソファに二人が腰掛けた所で、アテと呼ばれる、地球でいう紅茶の様なものが運ばれて来た。客人をもてなす時に出される一般的な茶だ。だが勿論、王城で出される物のため、風味や味に関してはかなりいい物を使っているだろう。
「砂糖はいるかね?」
「いらないわ。私にとって、アテはそのままの味で楽しむ物なのよ」
「ほう……珍しい」
そう言い、カップの中に砂糖を入れる国王。アレイシアは今まで気付かなかったのだが、カップにも細かい装飾が多く入れられているらしい。
「ま、人の好みよ」
「そうじゃな。では、本題に入るとしよう」
そしてアレイシアは、襲撃の件についてを詳しく話し始めた。十二歳の誕生日、学園へと向かう馬車、そして先程の兵士。大体の時刻や、その時の状況を細かく説明して行く。
「恐らく、私が王子と結婚したら良く思う奴か、あるいは、貴方の誘いを断った私を良く思わない奴か、どちらかだと思うわ」
「なるほど……心当たりもある、今から尋ねてみるかの?」
「ありがとう。それにしても、アテに時間差で効く睡眠薬入れるとか無いわよ……効かないからいいけど」
国王は驚いた様な顔をする。まさか、アレイシアのアテに睡眠薬が入っているなどとは思いもしなかったからだ。
「無味無臭無色透明、一般的には完璧な睡眠魔法薬ね。魔力が思いっきり感じ取れるのが欠点だわ」
「ふぉっふぉっ……相変わらずの素晴らしい知識じゃの」
「そりゃどうも」
褒められた事などどうでもいいと言わんばかりのアレイシアの返事に、国王はしばらく黙り込んでしまう。
「……で、やはりどうじゃ? 例の問題の解決にもなる。儂の息子の嫁には……」
「行かないわ。生憎、男には興味なくてね」
それは確かに当然の事と言えた。これでも、アレイシアは元男なのである。恐らく一生、結婚する事は無いだろうとアレイシアは考える。
「……女が好きかの?」
「…………別に、そういう訳じゃ無いわ」
「ほぅ、それは残念。男嫌いの娘がいてのう……困っておるんじゃ。ただの可愛い物好きらしいがの。息子と娘に、一度くらい会ってみてはくれんかのう?」
「まぁ、一度くらいなら……」
ガチャッ!
アレイシアがそう言った瞬間、扉を開けて誰かが入り込んできた。
「その言葉を待ってたわ! あぁ可愛い、人形みたい!!」
「ちょっ!? いきなりそれはまずいだろ……」
「え、うわ!?」
部屋に入って来たのは、薄い金色の長い髪を持つ少女と、なかなか整った顔立ちの青年。少女の方は、部屋に入った途端、何故かアレイシアを強く抱き締めた。これが恐らく国王の娘、姫に当たる人なのだろう。呆れた表情で後ろに立っているのは、国王の息子、王子だと思われる。
これが、この先長い付き合いとなってしまうリーシェ姫、レオル王子と始めて会った瞬間であった——
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……リーシェ姫はですね、アリアに対してかなりのキーパーソンだったりします。