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02-20 新しい戦い

 現在は二月一日。一学年が始めて選択科目の授業を受けてから、既に四日が経つ。この日から二日間は休日のため、学園街、つまり学園内市場も、朝方から休日を過ごす多くの生徒で溢れていた。


 そんな人混みの中、最近では自由時間に一人欠けるのも珍しい、とても仲の良い四人組歩いていた。三人が手を繋ぎ、残りの一人が手を引っ張られている形である。


「ちょっ! 引っ張るなって!」


「いーでしょアリア! ほら、こっちの洋服屋にいいのがあるわよ!」


 一番左を歩くのは、幼いながらも威厳を感じさせる、赤髪と長い耳が特徴的な少女。

 中央を歩くのは、茶髪に時々ぴくっと動く猫耳が可愛らしい、こちらも同じく少女。

 右側で手を引くのは、背中の半ばまで届く金色の髪を一纏めにした、活発そうな少女。

 それに対し、手を引かれるのは、腰まで届く長い黒髪を風になびかせる、分厚い本と不思議な形の棒を持った少女。


 ……言わずもがなである。右から順番に、クレア、フィアン、シェリアナ、アレイシアであった。


 四人は朝早くから学園街に来たと思ったら、突然アレイシアを着せ替え人形にして遊びだしたのである。着せ替えの幅は、洋服からちょっとしたアクセサリーまで、多岐に渡る。


「この服いいです! アリアさん可愛い!」


「とても似合ってますよ」


「うぅぅ……恥ずかしいから、もうやめて……」


 今アレイシアが着ているのは、すっかり普段着となった黒いドレス———背中の部分に髪で隠れる穴があいている———よりも更に装飾の多い、緋色のドレスであった。彼女自身としては、これもうゴスロリでいいだろと言った感じの服である。その様な服を着た状態で三人の可愛いコールを浴びせられれば、アレイシアの精神がガリガリと削られるのは当然の事でであった。既にアレイシアは、心身ともに疲れ果ててしまっている。


「店員さん、これ買いまーす!」


「ああっ! また勝手に話を……!」


 先程からこんな調子で、既に洋服を二着、新しいブローチを一つ、髪を飾るためのリボン紐を二本も買っていた。金は勿論、アレイシアの負担である。




 昼時を過ぎ、昼食を食べてから寮室へと戻って来た四人は、リビングルームにてちょっとした雑談をしていた。アレイシアは何故か、寮室に入った途端三人に取り押さえられ、緋色のドレスと胸元には濃い紅のブローチ、髪は朱い紐で一つに纏めるという、赤尽くめの服装に強制的に着替えさせられたのである。


 四人の雑談の内容も、当然アレイシアの服装についてだったのだが、ここでクレアが突然口を開く。


「……そうですっ!!」


「クレアどうしたの?」


「これから七年間、学園に通う事になると思いますが、この学園の外の街に出る事は少ない筈です」


「確かにそうね……」


 他の三人も、この事に関しての考えを巡らす。この学園の長期休暇は、五月、十月、十五月の一ヶ月間、つまり二十四日間を丸々となっている。他の街に行くならその辺りしかない。


「じゃあ五月になったらみんなで王都に行こうよ!」


「いえ、わざわざそこまで待つ必要はありません。魔王アリアがここにいる限り」


「魔王って何さ、魔王って……」


 アレイシアは、魔王(Erlking)の称号を手に入れた。


「空を飛べば速いでしょう。今からでも行けます」


「よし、アリア行こう!」


「えー……ま、いいかしらね」


 ここでアレイシアが王都に行くと決めたのは、王都に用事があるという事を思い出したからである。国王に一度、襲撃の件について話しておきたかったのだ。


「王都に行くなら……えーと……どこに挟んだっけ?」


 机の上に置かれた魔導書『the Grimoire of Alysia』のページをめくり、本に挟んだらしい何かを探し始めるアレイシア。全て英語(エングライシア)で書かれているため、後ろから覗き込む三人はほとんど理解出来ていない。


「何て書いてあるんでしょうか?」


「全く分かりませんわね……」


「あ、これだこれだ!」


 そう言ってアレイシアが取り出したのは、魔法陣が描かれた四枚の紙。アレイシア分の一枚を残して三人に配って行く。


「これに私が魔力を供給すれば空を飛べるわ。ポケットにでも入れておいて」


「すごい……!」


「二百年後の技術ですよこれは……」


 そして四人は、アレイシアの飛行魔法で王都へと向かって行った。本来は馬車で一日かかる道のりなのだが、アレイシアの飛行魔法があれば一刻半で到着出来るだろう。方向としては、いつかアレイシアがあのデカ猪と遭遇した、学園西の大草原のずっと先に当たる。因みに、アレイシア含め四人共、一度も王都に行った事は無い。





 イルクス王国の王都は、中央にそびえ立つ王城と、それを取り囲む貴族の館がある住宅街、その他多くの人達が住む一般地区から成り立っていた。

 これら、三つの地区を貫く様に存在するのは、幅が四十テルム(十メートル)以上もある中心街であり、露店から宿などが立ち並ぶ非常に活気のある場所であった。


 王都の中心街、辺りをキョロキョロと興味深そうに見回しながら歩く四人。長期休暇でもないのに王都に来れる学生がどれ程いるのだろうか。


「その店を見てみましょう!」


「あ、私もー!」


「これは来て良かったですね。来週もよろしくお願いします、アリアさん」


 楽しそうな三人とは違い、どこか困惑した様な表情のアレイシア。何故かといえば、三人に着せられた服装のまま来てしまったからである。周りの視線がかなり痛い。


「……と、とりあえず、私は国王に会って来るから。皆は待っててね」


「えー、ずるいですよ。アリアさんだけ……」


「仕方無いわよ。アリアにも事情があるらしいし……」


「じゃ、行ってくるわ!」


 そしてアレイシアは、三人に見送られながら王城へと向かって行った。全ては襲撃問題解決のために。


 フィアン、シェリアナ、クレアの知らない場所で、アレイシア一人の戦いが幕を開けた。

感想評価や誤字脱字の報告、アドバイスなどはいつでもどうぞ! 感想を送りにくい方は、Web拍手の方からでも送って下されば。



~きっと、謎コーナー~


フィア「最近、プロローグから見直しをしているらしいですね」


七篠「そうなんですよ。どうも見直したら、ここおかしいな~というのが随所に見つかるので……」


アリア「……所でさ、Erlkingって何?」


七篠「語源は多分Elf-King、つまり妖精の王で、一応魔王の英語訳だよ。ほら、ゲーテ作の『魔王』から。称号名に引用してみたり」


魔王アリア「……おいっ!!」


七篠「そ、それでは、感想評価などお待ちしております!」


フィア「お待ちしておりま~す♪」

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