02-19 剣術科の場合 2
剣を手に構え、前進して行く生徒達。アレイシアもその中で、向かって来るクラスメイトと相対する。周りの生徒達の目は、アレイシアが持つ奇妙な武器に釘付けとなっていた。
他の生徒達が持つ剣の中では、アレイシアの刀はどうにも目立ちすぎる。何故かといえば、大太刀に当たるのだろう。刀身の長さが三・五テルム(九十センチ)程もあり、本来アレイシアの身長では扱えない筈の大きさだからだ。
扱えない理由として挙げられるのは、鞘から剣を抜く事が出来ない。もっと単純なものでは、重さを支える事が出来ないなどといった理由がある。刀独特の反った刃が、アレイシアの身長でも刀を抜く事を可能にし、魔力による身体強化魔法が、刀の重さを支える事を可能にしている。その事に気付けたのは、クラスメイトの内何人だろうか。
と、そこで、アレイシアの方へと六人の生徒が向かって来た。刀を持ったアレイシアは、生徒の中でもかなり目立ってしまう。試合時に目立てばどうなるか、答えは単純。他の者から狙われやすくなるという事だけであった。
迫って来た六人の内、二人の男が同時に剣を振り下ろす。
ガキキィンッ!
二つの剣は刀によって、衝撃を柔らげる様に斜めへと逸らされた。そしてアレイシアは、刀をそのまま横へと持って行き、高速の峰打ちを放つ。やはりアレイシアには、まだ刀で斬るような勇気は無かったのだ。
「ごめんっ!!」
「うぉっ!?」
「ぐふぁぁっ!!」
痛々しい声と共に吹き飛ばされた二人は、後ろに控えていた四人に体当たりし、地面に崩れ落ちる。
「ぎゃぁぁぁ!!」
「ふぐっ!!」
「うぁぁ……死んでないよね?」
その悲惨な光景にかなり心配になったアレイシアだったが、休む暇もなく背後から火球が迫る。
「水龍っ!」
咄嗟にアレイシア自作の中級水魔法で相殺、火球を放って来た本人もろとも押し流した。
その後、峰打ちと初級魔法だけを駆使し、アレイシアは最後の三人にまで残る事が出来た。最後の三人に残ったのは、アレイシアと、猫人のほっそりとした大剣使いの男、そして……
「何でベルク先生が試合に参加してるのよ……」
「先生が参加したら勝てる訳ないだろ……」
「いや、実力を見るならやっぱり実際に戦った方が早いかなと」
何故か、ベルク先生であった。これには猫人の男も呆れたのか、深いため息をついている。
「で、実力を見たんでしょう? 皆の実力は如何程だったの?」
「いや、お前ら二人以外は弱かったな」
「お前が言うなっ!」
アレイシアと男の声が重なる。そんな二人の様子に、ベルク先生は一瞬たじろぐも、すぐに姿勢を取り戻す。
「あー、まぁとりあえず、三人でやろうか?」
「異議あり……と言いたい所だけどいいわ」
「僕も、右に同じく」
「そうか、じゃあ行くぜ!」
ベルク先生はそう言うと同時に、二人の視界から消え失せた。アレイシアは、辺りを見回してベルク先生を探そうと必至になる。
「…………どこに?」
「ここだッ!!」
「!?」
突然現れた気配に、アレイシアは驚いて後ろを振り返るが、反応が追い付かずに攻撃をもろに食らってしまう。
ガガッ!!
「うぁっ……!!」
「ぐぉっ……!!」
そして、横にいた男も同様に、攻撃を食らって大きく吹き飛ばされた。
意識が闇に堕ちる直前、アレイシアが最後に見たのは、吹き飛ばされた猫人男と慌てふためくベルク先生、そして自身の横に落ちて地面に刺さった刀であった。
浮上する意識、瞼の隙間から光が入り込む。そしてまず感じ取ったのは、自身が今ベッドに寝かされていると言う事であった。目が光に慣れて来て、辺りを見回す。
「……んぅ……?」
「アレイシアさん、起きましたか?」
「ぁ……フィズ先生……とベルク先生?」
ベッドの脇には、フィズ先生とベルク先生が立っていた。ここはどうやら保健室の様だ。フィズ先生は心配そうに、ベルク先生は申し訳なさそうにアレイシアを見つめている。
「悪かった! 大人気ないっ! 二人が中々やるもんだからつい……!!」
「……それよりもさ……あの瞬間移動はどうやったの? 魔法を使った様には見えなかったし、第一あれ程すぐに転移魔法を発動できる訳が無い。もしかして、純粋な身体能力で?」
その問いに、一瞬困った様な表情を見せるベルク先生。何か言いたくない理由でもあるのかと、アレイシアは推測する。
「あ、いや、言いたくなければ言わなくても……」
「いや、言っておこうかな……あれは気と言うものを使っているんだ。気とは生物が持つエネルギーそのものであり、それを引き出せば、異常なまでの力を発揮する事ができる」
それを聞いたアレイシアはある事を思い付いた。この状況に乗せてうまく行くかもしれないと踏んで、ベルク先生に問う。
「……なら、私に気の扱い方を教えてくれないかしら? それ『だけ』で許すわよ?」
あえて『だけ』を強調するアレイシア。これはつまり、気の扱いを教えさえすればこの場を逃れられる、という事を前面に押し出すためであった。
「あ、ああ分かった。だが気の扱いにはある程度の素質が必要だぞ? 気が少なければ、少し出しただけでも死んでしまう」
「死んだら私もそこまでという事よ。いつなら時間が空いている?」
アレイシアとしては、一度捨てた命を取り戻した様なものであり、死後の世界の存在も知っているため、大して死を恐れる様な事は無くなっていたのである。尤も、気の枯渇程度で死ぬ様な事は無いのだろうが。
「その……何か凄いなお前は……毎日十二刻以降は暇だから、その時でどうだ?」
「分かった、よろしく頼むわね」
そう言ってベッドから飛び降りようとするアレイシア。そこでフィズ先生が慌てて止める。
「ちょっと待って! 首に怪我をしていたから見たんだけど、背中にある魔法陣は何だ?」
「……秘密よ!」
アレイシアは、枕元に何故か置かれていた刀を手に取り、保健室から逃げる様に走って行った。いや、実際逃げていたのだろう。その魔法陣は、背中の翼を発現させるためのものだったからだ。
寮室に向かって走って行く途中、校舎内の向かい側から歩いて来た三人とすれ違う。
「アリアさんっ!? 大丈夫ですか?」
「今からお見舞いに行く所でした」
「全然大丈夫よ!もう平気だから心配しないで」
「ふぇぇ……アリアぁ……」
今日一日、念願の刀を手に入れ、本格的な気の修行への目処も立った。色々と密度が濃くて進展がある日だったなとアレイシアは考える。
……これはまた、明日からが楽しみね。
感想評価や誤字脱字の報告、アドバイスなどお待ちしております!Web拍手の方からでも、気軽にコメントを送って下さい。
感想評価は、作者のモチベーションや執筆速度が上がったりする原動力なので、どうぞよろしくお願いします。
~感謝のための、謎コーナー~
七篠「一月九日の午前二時、真夜中にPVアクセスが100,000超え、更にお気に入り小説登録数も200を超えました!ありがとうございます!!」
アリア「また時間が細かい……で、その午前二時時点のアクセス数が問題なのよね」
七篠「そうなんだよ……活動報告の方を見てもらえれば分かりますが、午前二時時点でのアクセス数が1も違わずに100,000ピッタリだったんですよ」
アリア「だからこれはまさに奇跡だと。凄いわね」
七篠「では、これからもよろしくお願いします!」
アリア「感想評価など、お待ちしておりま~す♪」
黒美さん「だから私はいつになったら……」
七篠「多分もうすぐ、恐らく第三章で活躍するでしょう。……きっと」
黒美さん「自信無さすぎっ!ヒドイ……ガクッorz」




