02-13 エルフの里
寮室への転移は無事成功したアレイシアだったが、問題は山積みである。アレイシアにとっては九十年前、魔法陣を発動させたのは早朝も早朝、真夜中であった。いくら真夜中に出たとは言っても、こちらの時間で九刻も経ってしまえば既に昼過ぎの一刻なのである。つまり、今日の授業には大遅刻も良い所、フィア達三人にも心配をかけてしまった。更に現在のアレイシアには、どうしても隠しようの無い蝙蝠の様な翼もある。結局、フィアが戻って来るまで寮室で待っているのが一番安全という結論に辿り着いた。どう言い訳をしようかと考えながら……
言い訳を考えている途中で、そういえば、とアレイシアはある事を思い出す。九十年もの歳月の中で思考の片隅に追いやられたある事、それは今日が選択科目を決定する日だったという事である。自室の棚から選択科目が書かれている紙を見つけ出し、ついでにと、どの科目にするかを考えるのであった。
一方その頃、フィアン、シェリアナ、クレアの三人は、一年Sクラスで授業を受けながらも、朝からいないアレイシアをずっと心配していた。授業が終わって帰る時間になると、三人はフィアンの部屋に行く事に決める。すっかり四人の溜まり場となったその部屋に行くのは当然、もしかしたら戻って来ているかもしれないアレイシアに一喝入れるためだ。
「お邪魔します」
「アリアいるー?」
三人は部屋の中にずかずかと入って行く。奥にある部屋には、未だ思いつかない言い訳を必死で考えようと焦るアレイシアがいた。だが、いくら焦ろうとも思いつかないものは仕方ない。思い切って三人に打ち明ける事にした。そこで丁度、アレイシアの自室の扉が開けられる。
ガチャッ……
「………ぁ……お、お帰りなさぃ」
「…………へ?」
「……………は?」
「………………えええぇぇぇ!?」
三人が部屋に入ってまず目に付いたのは、こちらを向いてベッドに横になっているアレイシア、そして彼女の背中にある大きな翼だった。その翼は、これは本物だと主張するかの様に小さく動いている。
「アリア、それ……」
「……やっぱりそうだったの!?」
「ぅ………順番に説明するからちょっとそこに座れ、命令だ」
そう言って三人をリビングの椅子に座らせ、アレイシア自身も空いた椅子に座る。この時、一瞬口調が素に戻ったという事に喋った本人は気付いていない。
「……私、時間を圧縮した空間で九十年修行してたのよ。じゃなくて、させられていたのよ。だから私は既に百十二歳のババァになるわね……」
「なっ、なんだってー!?」
フィアン、シェリアナ、クレアの三人は口を揃えてそう言った。だが三人にはまだ気になる事がある。
「で、アリアはやっぱりその翼を隠してたの?」
「百九歳の時に生えてきた」
「生えてきたって……」
アレイシアに話しかけたシェリアナは呆れた様にそう言う。ここ何百年も産まれなかった筈の翼持ちの吸血鬼が目の前にいる。それだけで驚きをも通り越し、呆れるには十分過ぎるだろう。そして、シェリアナは椅子から立ち上がり、アレイシアの後ろに立って翼を弄くり始めた。
「へぇー、これが吸血鬼の翼………伝承通りの蝙蝠みたいな……」
「ちょ、やめてっ……触るなっ!」
「おー!ここ、ぷにぷにしてる!」
「あ、そこはやめてっ!触るな!離れろっ!!」
結局、修行の残り三年間で学んだ翼の動かし方が幸いし、翼を大きく動かす事によって難を逃れる事が出来た。その後、九十年ぶりの再会ともあってか、アレイシアが少し泣いてしまったというのは余談である。
「ちょっと相談があるんだけど……」
「ん、何ですか?」
その日の夜、四人集まった寮室で、アレイシアは翼についてを皆に相談してみる事にした。アレイシアの言葉に一番早く反応したのはフィアンである。
「この翼、このままじゃ学園に出て行けないよ……」
「うーん……どうしたらいいんでしょうか?」
「…………あ!それなら私に心当たりがあります」
そう言ったのはクレア、どうやらよほど自信がある様だ。
「私がいた里ですが、そこには歴史的な書物もたくさんあるのです。伊達に何千年も繁栄し続けた里ではありませんから。その中でも、吸血鬼について書かれた歴史書があったと思います。それを見てみてはいかがでしょうか?」
「歴史書……翼持ちの吸血鬼が翼を隠すために使った手法も書いてあるかもしれないわね」
「はい。ですが、私の里まで馬車で二日は掛かってしまいます……」
そう言って暗い表情になるクレア。せっかく友人を助けられると思ったのに、重要な所で行き詰ってしまうという事を申し訳なく思っているのかもしれない。出会ってから未だ一週間も経っていないが、この四人の仲はかなり深いものになっているのである。尤も、アレイシアは違うのだが。
「馬車で二日かかる?なら馬車を使わなければいいのよ!」
「え?馬車は一番速い移動方法ですよ?」
首を傾げてそう言うフィアンだが、アレイシアにはもっと優れた移動方があるという事を知らない。
「私は翼で飛べばいいし、クレアには付いて来てもらいたいから飛行魔法をかけていくわ。それでいいわね?」
「あ、はいっ!」
そしてアレイシアは、すぐクレアに飛行魔法をかける。
「なら明日の夜明けまでに戻るわ」
「今行くのですか!?うわ、飛びました!」
「明日の登校までには間に合わせたいのよ。じゃ、行って来ます!」
そう言い残し窓を開け、そこからアレイシアは飛び立って行った。シェリアナは、翼を広げるその姿に見とれてしまい、数分間再起不能となってしまったそうである。
飛び始めてから約三刻、この世界ではあり得ない、音の半分程度の速度を出す飛行で辿り着いたのは、木々が生い茂る広大な里だった。その里は、アレイシアの故郷であるクラードよりも更に山奥へと入った場所にある。それはどうも里と言うには大き過ぎる気もするが、元々はたった一つの弱小集落だったのだと言うから驚きだ。木々を利用する様な形の家が多く、高い木の上に乗ったログハウスや、木を直接くり抜いた家もある。
そんな集落の奥、一際目立つ巨大な木。それが、クレアの家に当たるものらしい。入り口の正門に立った二人は、期待と緊張に高鳴る胸を抑えながら、門番と思われる人に話しかけた。
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~何とも言えない謎コーナー~
七篠「十二月二十九日の朝十時、ユニークアクセス10,000突破!読者の皆様、ありがとうございます!」
アリア「時間が細かいわねぇ……」
七篠「ま、細けぇこたぁ(ry………学園本編に入れなくてすみません。少し先になりそうです」
アリア「私の翼の事を学園中の皆にバラされるよりはいいわ」
七篠「……ま、そうだね」
セリア「えー、かっこいいのに……」
アリア「こいつは放っといて…………。感想評価など、いつでもお待ちしておりま~す♪」
セリア「アリアかっこいいよアリア♪」
アリア「黙らっしゃい!」