02-10 西の草原にて
気付けばアレイシアは、白くて四角いあの空間に居た。前方のかなり離れた所に、白いワンピースを身に着けた黒美さん(仮)が立っている。
「こんにちは!始めて吸った血はどうだった?」
「いや、それが何か凄く美味しかったんだけど……」
アレイシアは、自分はもう人間ではないのだとより強く認識した。例え吸血衝動が無くとも吸血鬼、血液を美味に感じるものなのである。アレイシアも不覚ながら、また一緒にセリアと血を吸い合いたいと思ってしまった。
「まぁ、それはいいとして……貴女は、あのセリアと言ったかしら?あの娘と後戻り出来ない関係にあるわよ」
「……!?それはどういう事よ!言いなさいッ!!」
黒美さんの言葉を聞いたアレイシアは、わざわざ瞬間移動で長い距離を詰めてまで掴み掛かる。
「それは………あの娘が貴女の血液を口にしたものだから、血液中に含まれる多量の魔力や神力がセリアの身体に影響して、寿命がかなりのびてしまったという事ね」
「……成る程。で、具体的にはどれ位?」
すぐに落ち着きを取り戻したアレイシアは黒美さんに問う。それは、もしかしたら大変な事になるかもしれないからだ。そういう時こそ落ち着いて、冷静に判断すべきなのである。
「そうね、身体はあれ以上成長しなくなった上に寿命は……七千年から八千年位かしらね?神力はとても強い影響力を持っているのよ。さらにセリアまで貴女が持つ霊力や妖力を極微量、持つようになっているわ」
「…………私に責任を取れと?」
「別にそんな事は言わないわよ。貴女がいいなら、むしろもっと血を吸わせた方がいいわ。理由はまた今度言うわね。……そうそう、あと一日であれから一週間が経つから十年修行するわよ」
そこで突然不意に歪む視界。それは目覚めが近い事を表していた。
「じゃ、また明後日!」
アレイシアはそれだけを言い残し、意識を少しずつ、現実へと度して行った。
そこは寮の二階、一番奥にあたる寮室のベッドの上で、二人の少女がすやすやと眠っていた。それはアレイシアとシェリアナであり、二人とも上半身を中心にかなりの範囲が固まった血液で赤黒くなっている。今は早朝の四刻であり、他の二人、フィアンとクレアはまだ起きていない様であった。そんな中、ゆっくりと起き出して来たのはシェリアナである。
「んぅーっ!……やっぱり貧血気味だなぁ……」
フラフラと上半身を起こし、伸びをしながらそう呟くシェリアナは、横にいるアレイシアに目を向ける。そして、ある事に気が付いた。
(……?私の魔力が……増えてる!?)
それは決定的な違いであった。昨日の夜までと比べたら、天と地のと言わんばかりの差である。感覚的に言えば、二、三倍になるだろうか。
(えええぇぇ!?何で何で?そんな急に増えるものなの!?)
シェリアナは当然かなり驚いたが、それと同時に喜びも感じていた。理由は簡単、余りにも遠すぎると感じていた存在が、少し近くなったからである。それは始めてホールでアレイシアを見た時からあった、尊敬という思いによるものであった。だからこそ、シェリアナはファンクラブの会員番号一番を頑張って取りもしたし、勇気を振り絞って話しかけたりもした。その事に強い喜びを感じたシェリアナは、喜びの余りつい、アレイシアに抱き付いてしまう。
「えへへへ……」
「……う……?」
それから一刻程が経ち、血臭を辺りに振りまきながらリビングへと現れた二人は、フィアンとクレアに風呂に入って来いと言い渡されてしまうのであった。ちなみにまた、一緒に入るかどうかで言い争いになり、アレイシアが押し負けてしまったというのは余談である。
学園での授業が終わった後、フィアンに外で魔法魔術の練習をして来ると断りを入れ、大魔法を放っても問題の無い学園西の草原へと向かう。歩いて行くのは大変なので、学園からある程度離れた後、飛行魔法でゆっくりと空の旅を楽しみつつ向かって行った。
半刻もの飛行の後、アレイシアは目的の場所に到着する。そこには川が流れ、遠くには森が見える、とても自然豊かな場所であった。……正直、これ程自然豊かな場所では火炎魔法が放ちにくいため、今回それは自重しておくことにする。
アレイシアは、矛盾の能力による『こじつけ』が何処まで通用するのかと、それを調べるためにもこの場所へと来たのである。瞬間移動で感覚を掴んでから、他の矛盾の行使も習得しやすくなったのだが、未だ瞬間移動以外では何も使い道が無いのが現状である。アレイシアが今回知りたいのは、例えば、瞬間移動は出来ても時間跳躍は出来ない、物質の再構成によって同質量の物を作り出す事は出来ても、零から有を作り出す事が出来ないなど、自分の今の力量でどれ程の事が出来るかという事である。
試験的に、そこら辺に転がっている小石を使い、当たっていないのに当たるという矛盾を使った必中の武器を作ってみる事にする。何処かで聞いた事がある気がするが、それは気にしないでおいた。
手近で使いやすい大きさの小石を拾い、神力を込める。そして想像する。当たりもしない筈の小石が標的へと吸い込まれる様に当たるという、その様子を。想像のイメージがはっきりとして来た所で、手に持った小石を勢い良く近くの木……の上に茂る葉っぱの一枚を狙って投げる。
パシャッ……
若干外した方向に投げてしまった筈の小石は、極自然な形で狙った葉っぱへと命中した。これにはアレイシア自身もかなり驚く。
それから何度も練習を重ねて行く内に、物に矛盾を付加する事は出来ないという事と、狙った物からあまり異なり過ぎる方向に投げると当たらないという事が分かった。前者は、武器を使う時に必殺技として使えればいいので、特定の武器で無く他の武器でも発動出来るという利点である。後者は、後々改善して行けばいいだろう。
とりあえず次の実験もやってみようかと思い、辺りを見回すと、遠くに見える森の方から地響きの様な低音が近づいて来るのが分かった。咄嗟にそちらを向いて臨戦体制を取るアレイシアは、次の瞬間現れた巨大な"モノ"に唖然とする。
「えええぇぇ!?何あれっ!!」
アレイシアはこの時、この草原における最も上位の獣と遭遇してしまったのである。
いつにも増して、続きは次回!ですw
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~作者が居ない謎コーナー~
アリア「おはこんばんちわ~!」
セリア「おっハロー!この小説、読んで頂きありがとうございます!」
アリア「今回は若干アレね……急いで書いた感が」
セリア「十九時に間に合わせたかったん
だって。ここも後々修正の対象だそうよ?」
アリア「ブツブツ……(下手に調子乗って毎日更新とかやり始めるから……)」
セリア「だから明日は休載かもって。でもその分、アレを上げるらしいわ」
アリア「そう、じゃあまた次回!」
セリア「感想や評価、お待ちしております!送ってくれたらまた更新早くなるかも、だって!」