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02-06 吸血衝動

「願いよ届け!我、魔法が行使されん事を望むッ!火よ!!火よッ!!」


 戦いが始まった。先手を打ったのは男、まずは初級火炎魔法をいくつも放ち、アレイシアが避けられる方向を制限する。少しずつ相手を追い詰めて行く基本的な戦法だ。


 一方アレイシアは、その火炎魔法を避けつつも、今まで感じた事のない不思議な感覚を覚えていた。火炎魔法を放って来ている相手の首筋に自然と目が向き、そして血が飲みたいと、そう思ってしまうのである。果てには、ホールの端で縮こまっているフィアンの血まで飲みたいと思う始末。先程の会話の時からやけに感情に忠実になっていたのは、恐らくこの吸血衝動のせいかと思われる。ある程度の年齢に達するまで、吸血衝動に駆られた吸血鬼は、自我を保つ事さえ困難になる者も居るというが、アレイシアの場合、普段よりも思考力が少し低下するだけであったのは不幸中の幸いだろう。


 アレイシアは少し冷静さを取り戻し、先程己が放った言葉を思い出す。


 愚かな……クズ……死ぬ覚悟……


 そのどれもが、普段のアレイシアでは考えられない様な言葉の数々であった。怒りに身を任せて本能のままに突き進むとこうなるのかと、アレイシアは自分の事ながらも恐ろしく思ったという。


 アレイシアはすぐにこの戦いを止めたいと思ったが、東次の知識からも、売られた喧嘩を買った男は普通の交渉では引き下がらないという事をよく知っている。実際、元はといえば、アレイシアが言い始めた事なのである。こうなれば、どちらかが負けるまで戦いがは続く事は明白であった。


「オラオラァ!!危ねぇぞ!」


「ッ!!?」


 何時の間に接近してきたのか、アレイシアの目の前には男の拳が迫って来ていた。男の腕全体から魔力を感じるため、恐らく身体強化でも使っているのだろう。避けるのは間に合わないと瞬時に判断したアレイシアは、すぐに魔法障壁を張る。


 ガッ……ピシッ……


 アレイシアが張った魔法障壁は、魔力割れが起こる寸前で何とか拳を防ぎ切った。魔力割れとは、魔法障壁を破られた時に起こる現象の一つであり、周囲に弱い魔力の衝撃波を放つというものであった。これは大きな隙を生むため、なるべく避けたい事なのである。


「防いだか!ならこれでどうだ!!」


 男は身体強化用の魔力を障壁に込めようとする。それは障壁を破る一番簡単な方法なのであった。しかし、それを見落とす程アレイシアも弱くない。すぐに飛行魔法を使用し、高速でその場から距離をとったのである。


「なっ……何だってぇ!?何で空を飛べるんだ!!?」


「…………ぁ。しまった……」


 だが、アレイシアは重大な間違えを犯してしまった。飛行魔法は(おおやけ)には明かさない筈だったのだが、今この男の前で使ってしまったのである。


「え……?アレイシアさん……??」


「あぁ、これはね……あの、そのぉ……」


 フィアンもかなり驚いている様であった。更に、集まって来ていた野次馬共にも見られてしまった。どうすればこの状況を打開出来るのかと考えるが……


「は……ははっ、これでこそ戦い甲斐のあるというものだぜぇ!!火よ!!!」


 どうやらこの男はまだ戦うつもりらしい。アレイシアとしては早くこの戦いを終わらせたかったのだが。


 相手が放って来る数多くの火炎魔法を避けつつも、アレイシアは男に急接近する。当然、急接近などされればそちらを警戒するに決まっている。そしてぶつかる直前、警戒が疎かになった背後へと瞬間移動、男の背中を蹴り飛ばしたのである。その瞬間、野次馬共の中から『見えたッ!』と声が聞こえたのは気のせいだろう。……いや、気のせいだと思いたい……


「ガハッ……貴様っ……」


 それでもすぐに立ち上がってアレイシアと対峙する男だが、アレイシアはまた背後に回り込み、男の首に指を触れさせる。そして一言、あえて恐怖を煽る言い方で告げた。


「チェックメイトよ。指先に集めた魔力を放出すればすぐに風魔法が発動するわ。そうすれば頭と体がサヨウナラね」


「…………分かった、俺の負けだな……」


 どうやら、この戦いの勝敗は決した様だ。実は、指先の魔力うんぬんは嘘であり、勿論首を跳ねるつもりなど砂のかけら程も無い。少し落ち着いて来たところで、男はアレイシアに質問を投げかける。


「さっき、空飛んでいたのとか一瞬で後ろに回ったのってどうやったんだよ?あとチェックメイトって何だ」


「それは秘密よ」


「アレイシアさーん!!」


 するとそこに、どこか焦った様子でフィアンが駆け寄って来た。


「どうしたの?」


「学園長先生が呼んでいるそうです。私も含め、三人で来いとの事でした」


「あー……騒ぎ過ぎたかしらね。校舎に被害はあまり出ていないけど」


 校舎への被害は、ホールの所々が焦げているだけであったが、それはつまりこの男がやったという事である。


「あぁっ、くそっ!」


「仕方ありませんよ……」


 そして三人は学園長室へと向かって行った。





 三人は学園長室に入り、イルクス側の学園長と対面した。豪華な飾りで満たされた室内で机を挟んで座っている。三人が座ったところで、学園長は口を開く。


「えー、では君達、学園校舎内で魔法魔術を行使してはいけないという決まり事は知っているかね?」


「はい、知っています……」


「私は知りません」


「私もです」


 そのルールについて、男は知っていた様だが、アレイシア達は知らない様だった。因みに、学園長、ウェルム、アレイシア、フィアンの順である。ウェルムと言うのは男の名前であった。


「そこの二人は何故知らない?入学した時に、それについて書かれた紙を渡された筈だろう」


「え?」


「へぁ?」


 二人はわけが分からないといった表情をした。それも当然、紙などまだ貰っていない筈だったからである。尤も、いつか貰い損ねていたというなら話は別だが。


「私達はまだ紙なんてもらっていませんよ?まだ入学式を終えたばかりですし……」


「ん?入学式を終えたばかり?という事はまさか、一年生なのか!?」


 学園長は心底驚いたという風にそう言う。まさか四年のSクラスと張り合う者が一年だとは思いもしなかったのだろう。本来一年生は、魔法魔術が使えないという事を前提としているのである。


「はい、これ学園証」


「私のも」


「なっ…これは………疑ってすまなかった。次からは気をつけなさい。先程言った、学園のルールが書かれた紙というのはこれから渡されるだろう。……あと、アレイシアと言ったか?この魔力……」


 学園長がそこまで言いかけたところで、急にアレイシアは言葉を阻む。


「はいそこ禁則事項!それ以上聞かない!!」


「あ、ああ。しかし……うむ、分かった」


 アレイシアが物凄い迫力で言うものだから、つい学園長は話すのをやめてしまう。後ろでは、何故あれ程慌てるのかと不思議に思ったウェルムがフィアンに話しかけていた。


「おい、あいつは何であんなに慌てているんだ?」


「多分心当たりはありますが、貴方には言えませんね……」


 その後、少し打ち解けた様子の三人は、学園長室を後にしてそれぞれのクラスへと向かって行った。ウェルムだけが、後で呼び出しがかかっている様であった。クラスでの説明には少し遅れてしまう事になるが、アレイシアは走りながら、どれだけ多くの人に飛行魔法を知られてしまったかという事を心配していた。

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