02-05 狂宴
アレイシアちゃんの絵を描きたくて奮闘してたら遅れてしまいましたw
すみませんでした。難しいなぁ……
タイトルは調子に乗りました。それ程でも無いので気にしないで下さい(笑)
中ホールには沢山の人が列になって集まっていた。中央には直径一テルム程度の大きめの水晶球が並べられている。恐らくあれが、魔力検査のための魔導具といった所なのではないかとアレイシアは考える。
「えー、次はアレイシアさんですね」
ふと、思考に耽っていたアレイシアは我を取り戻す。何時の間にか水晶球の前にまで来ていたのである。今アレイシアを呼んだ人は、入学書類の時にもお世話になったフィズ先生であった。
「久しぶりだね。……と言う程まだ時間は経っていないかな?」
「それでも私にとってはかなり久しぶりね」
このアレイシアの言葉をフィズ先生は疑問に思ったが、そう言えばと、ある事に気が付く。
「……あれ?口調変わったね」
「別に私も好き好んでこの口調で話しているわけではないのよ?」
「ははっ、そうか。じゃあまずは学園証を出してくれるかな?魔力検査の結果とクラスを書き足すようだからね」
アレイシアは、スカートのポケットから学園証を取り出してフィズ先生に手渡した。フィズ先生はその学園証を右手に持ち、左手を水晶球に当てる。
「この水晶球に手を当ててそのまま待つだけで大丈夫だからね。大して何も起きるわけではないから、安心して良いよ」
そう言われ、アレイシアは恐る恐る水晶球に手をかざす。すると……
ビシッ……パキッ……
突然水晶球が発光し、亀裂が入って行く。
「……!?これは……!!」
「大して何も起きないと言ったのは貴方よね……」
発光が収まる頃には、フィズ先生の右手には新たに多くの情報が記された学園証が持たれていた。
アレイシアとフィズ先生は、またもや恐る恐るといった感じで学園証を覗き込む。その中でも下の方、寮室の番号が書かれている所の上にある、クラス、魔力量の項目には目を疑う様な事が記載されていた。
「何だ…これは……」
フィズ先生が驚くのも無理がなかった。本来は魔力量だけが記載される筈の項目にはしっかりと、『魔力9999 霊力0121 妖力0142 神力0643』と書かれていたからである。更にクラスはS、エングライシアで書かれたその記号は、最も高位のクラスを表す記号であった。
「うーむ……流石、国王様が直々に推薦状を書かれただけはあるな……というかそもそも霊力と妖力ってなんだ?それに神力は神族しか扱えない筈なんだぞ?何で吸血鬼の少女が神力を持っているんだ?魔力量9999と言う事はつまりそれ以上の可能性もある訳だ……四桁までしか測れないからなぁ……一般的な人間が100程度の筈で、さっきここを通って行った吸血鬼の娘も700だったのに……本当に君は何者なんだ?」
「……多分普通の吸血鬼だと思うわ」
何やら一人でブツブツとフィズ先生は呟いていたが、さりげないその問いにアレイシアはただそう答える。アレイシアはその後、学園証を手に取ってその場を離れて行った。その場に残された生徒や教師は皆、先程の発光現象から驚きのあまり立ち竦んでいたという。
中ホール内での魔力検査後、アレイシアはフィアンと決めてあった待ち合わせ場所へと向かった。待ち合わせ場所は、中ホール横にある花壇の周りである。その場所に到着してみれば、既にフィアンがベンチに座って待っていた。
「あ!終わったんですか?」
「終わらなければ来ないわよ。それで、クラスどうだった?」
「アレイシアさんから言ってくださいよ。私は後で言いますから」
何を考えての事かは分からないが、フィアンはアレイシアの後に言う事を望んだ。それは彼女の自信の表れなのか、それとも……
「えっ……まぁ、いいわよ。私はSクラスになったわ」
「じゃあ私と同じクラスですね!学園証も見せて下さい。これが私のですよ」
フィアンもどうやらSクラスに入れたようだ。差し出された彼女の学園証の下部には、『魔力0515 クラスS』と書かれている。これを見れば、アレイシアがどれ程多くの魔力を持っているかが分かるだろう。
「えー……私の学園証ね……これだけど、あまり見せたく……」
「えー!?見せて下さいよ!」
「あ、待って!ちょっ……」
するとすぐに、フィアンはアレイシアの手から学園証を奪い取ってしまった。
「へへっ、私も見せたんですから、見せてくれないと不公平じゃないですか」
フィアンは楽しそうにそう言ってアレイシアの学園証を見る。その瞬間、花が咲き乱れるかの如き綺麗な満面の笑みが消え失せた。
「ぇ、え!?ええええぇぇ!!!?」
そしてすぐに、絶望の表情を浮かべる。それも当然、二百年を生きた吸血鬼でも2000を越えればかなり凄いのである。それを三十年も生きていない吸血鬼が四桁に達するなど、前代未聞の事であった。尤も、フィアンはアレイシアの事を十二歳だと思っているのだが。
「うぅぅ……何か自信なくなってきましたよ……」
「だから言ったのに…………大丈夫よ。私がおかしいだけだから」
「…………」
その予想外過ぎる発言に、ついにフィアンは黙り込んでしまう。午後からはクラスでの授業に関する説明があるために、早く立ち直ってもらわなければならない。そのため、寮室に戻って昼までフィアンを慰め続ける事となった。
正午の八刻を過ぎ、アレイシアとフィアンは西にある校舎へと向かう。ちなみに今回は、学園指定のローブと靴を身に付ける必要があったので、着ていたドレスの上からローブを重ねて着ておいた。寮から校舎まではかなり離れているため、毎日これを歩くのかと思うと気が滅入りそうである。アレイシアもフィアンも貴族、町の間の移動にも馬車を使用するため、あまり歩く事はない。更に、アレイシアの前世は交通手段の発達した日本に住む都会少年のため、歩く事を嫌うのは当然であった。
それでもやっと、校舎に辿り着いた二人は、一年Sクラスがあるという五階建ての第一校舎三階へと向かって行く。廊下には、アレイシア達と同じ入学式を終えたばかりの者や、二年生以上に上がったばかりの者など、多くの人や人外が行き交っていた。
しばらく廊下を歩くと、天井が五階まで吹き抜けになっている開けた円形のホールに出た。中央には五階の天井から吊り下げられたシャンデリアが輝いている。更に、上階から一階が見える様にフェンスがそれぞれの階に張られていた。ホールの淵を沿う様に設置されている螺旋スロープがそれぞれの階につながり、その場所だけフェンスが途切れている様だった。恐らくこれで三階まで登れるだろう。
二人がスロープに差し掛かったその時、突然何者かに後ろから衝突された。後ろを振り向くとそこには、ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべた痩せた感じの犬人と思われる男が立っていた。
「おいおい嬢ちゃん達……周りはしっかと見て歩こうな?」
「なっ!何ですか貴方は!?貴方からぶつかって来たんでしょう?」
明らかに因縁付けて謝らせる様な態度の男にフィアンは怒る。今のフィアンはどこか髪の毛を逆立てている様にも見えた。
「いや、ぶつかったんだから謝れよ。ほら、黒髪の方、お前の靴が俺の足に当たったんだからな。お陰で擦りむいちまったじゃねぇか」
「……全く、どの異世界にも同じ様な愚かな人間は居るものねぇ……」
「貴様ぁッ!!」
全く謝る様子の無いどころか、挑発する様な発言をするアレイシアに男は怒り、狂宴の引き金となる言葉を発した。
「そっちが謝らないのなら実力行使で行かせてもらうぜ?今謝ればまだ間に合うが、そうで無けりゃ体で払って貰おうか」
フィアンは完全に怯え切っていた。その言葉を聞いて更に怯えたのは言うまでもない。……どこか、勘違いをしているのかもしれないが。
「あら、そちらもその気なら私も実力行使で行かしてもらうわよ?」
「ハッ、お前みたいな普通の人間に何が出来るんだ?俺は四年Sクラスの主席だぜ?」
「私に何が出来るって?目の前に居るクズを倒す事が出来るのよ。それに私は人間じゃない、吸血鬼よ。死ぬ覚悟は出来たかしら?」
「吸血鬼か、上等だ!戦ってやろうじゃねぇか!」
そして今、戦いの火蓋は切られ、狂宴は幕を開けた。
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次回は全面バトルの予定。
アレイシアちゃんがおかしくなったのには、ちゃんと理由があるんです。……見捨てないでくださいね?