第6章 「雲海の上層島の空層銀行」
タクミは浮遊石が輝く空中道路を渡り、上層島に降り立った。
眼下には雲海が無限に広がり、その間に浮かぶ中層島群が揺らめく。
だが彼の視線は、上層にそびえ立つ巨大建築に吸い寄せられた。
「……ここが、空層銀行か。」
タクミは息を呑む。
建物は単なる石造りではない。
空に反発する魔導石を柱に組み込み、巨大なアーチ状の屋根が宙に浮かんでいる。
屋上には浮遊魔力陣が配置され、銀行全体がひとつの魔法回路のように輝く。
まるで空の都市そのものが銀行に取り込まれたかのようだった。
ミラがタクミの横で魔導計測器を展開する。
「タクミ様、この建物……魔力消費量が半端じゃないわ。これだけの魔導回路、地上人には貸せないのも納得です」
彼女の指先が浮遊石をスキャンすると、青い光が銀行内部を縦横に走った。
「利息も普通じゃありません。魔導権利を担保にする場合、元本の倍以上が返済条件になるでしょう」
銀行の扉が開き、係員たちが出迎える。
空気の振動でさえ魔力の流れを読むかのように静まり返った。
支店長のような男性が姿を現す。
「ようこそ、空層銀行へ。地上の者には原則融資は認めません。だが……例外もございます」
彼の声にタクミは耳を傾ける。
「例外……ですか?」
「はい。公共性の高いプロジェクト、あるいは天空権利の安定化に寄与する案件であれば、我々は貸付を検討します」
支店長の眼は鋭く、しかし計算高い温かみを帯びていた。
タクミはほくそ笑む。
「公共性……なら、ちょうど良い案件があります」
ミラも小さく頷き、計測器の光がさらに強まった。
「タクミ様、これで上層島の空中不動産を担保にできる可能性が高まります。空層銀行の融資は、利権の魔法で契約書を封印できますので、安全性も高い」
タクミは空を見上げ、深く息を吸った。
「よし……ここからが本番だ。上層島の魔導権利を握れば、空の不動産市場の主導権を手に入れられる」
しかし、背後の雲の間で黒い影が蠢く。
「フハハハ……!あの時の敗北、忘れたわけではないぞ、タクミィィィ!!」
スカイ=ハリケーンが叫ぶ。空の波動が銀行の魔力陣に衝撃を与え、建物全体が微かに揺れる。
彼の憎しみ復讐心が、空の民の平穏をすでに侵食していた。




