第4章 「崖上の絶景・死亡物件」
山道を抜けた先、風が強く吹き抜ける高台。
視界は開け、蒼い大地が一面に広がっていた。
まさに絶景
だが、問題はその美しさの「立ち位置」だった。
崖ギリッッギリに、傾いたボロ屋が一軒。
板壁は風に鳴き、足元の地面はすでにひび割れている。
危険物件、現る
勇者アレックス
「いや、絶対落ちるよこれ! この角度おかしいよね!? 家が崖の方に“前のめり”なんだけど!」
タクミ
「こ、これは……! 豪雨が来たら即アウト!
むしろ“今この瞬間”に落ちてもおかしくないレベルだよ!」
戦士ブレイン(腕組みしながら)
「……これ以上近づくのは危険だ。地面が柔らかい。」
魔法使いエリオ
「《地相感知》……うわっ、地盤の魔力がスカスカだ!
崩壊の気配しかしないよ!」
僧侶リリィ(怯えながら)
「いやぁあ……! わたし、落ちる夢見るの苦手なのに……!」
ヴァン(マントを翻し)
「……感じる。
この地は“闇の奈落”に飲まれる宿命……
買えば魂ごと引きずり込まれよう。」
タクミ
「地盤リスクを中二病語で説明するのやめて!」
カーミラは無言で崖際に歩き、
足元の石をつま先で軽く押す。
その石は――ストン……と、何の抵抗もなく奈落へ消えた。
カーミラ
「……三歩。」
アレックス
「あと三歩で落ちるってこと!?」
カーミラ
「二歩でも落ちるかも。」
タクミ
「怖すぎる!!」
ミラ(タブレットを取り出しながら)
「確認しました。
この崖地は“がけ条例”の制限区域。
再建築には莫大な補強費用が必要です。
しかも――」
ミラの言葉に、全員が息をのむ。
ミラ
「土砂災害警戒区域、赤いほう。」
「つまり、事故が起きたら“想定内”として扱われます。」
タクミ
「ひいいぃ! 投資価値ゼロどころかマイナスだよ!!」
アテネ(真剣な表情で)
「……この土地、神のご加護でも支えきれません。
風・雨・地の魔力すべてが“この家を落とす”方向に働いています。」
リリィ
「神さまでも守れないの!? そんな土地ある!?」
アテネ
「あります。これはその典型です。」
ヴァン
「クク……選ばれし者でも選びたくない地だ。」
タクミ
「これ、買う人いるの? どう考えてもムリだよね?」
ミラ
「……います。」
全員
「えぇぇぇっ!?」
ミラ
「“絶景”という言葉だけで飛びつく初心者投資家なら……
しかし、その末路は――」
エリオ
「奈落落ち!」
リリィ
「ひぃぃぃっ!」
アレックス
「じゃあ撤退しよ撤退! ここ絶対ロクなことにならないよ!」
カーミラ(くるりと背を向けて)
「……無価値。」
タクミ
「即答だ……!」
ヴァン(崖に背を向けて)
「さらば、奈落の館よ……
次に訪れる者の悲鳴を、存分に喰らうがいい……」
リリィ
「怖い怖い怖い!!」
こうして彼らは、崖に立つ“絶景・死亡物件”を後にした。
風は強まり、
背後のボロ屋はきしり、きしり、と音を立てていた。
今にも落ちそうな、運命を抱えながら。
ワンポイント解説
■ 崖下の物件とは?
崖の真下に位置する土地のこと。
上からの土砂や落石が直接降りかかる可能性があるため、
自然災害リスクが極めて高い立地に分類される。
危険性:なぜ「死亡物件レベル」なのか
土砂災害(がけ崩れ)
豪雨や地震の際、崖が崩落し、
建物ごと押し潰される可能性がある。
落石
大きな岩が転がり落ちるだけでも致命的。
土圧
崖側の土が年々押し寄せ、
基礎や壁に亀裂が入ることも。
融資は?
銀行は 非常に評価を下げる
担保価値が低いため、フルローンはほぼ不可
災害リスクが高すぎると、そもそも融資NGのことも
建築にも制限
土砂災害警戒区域
土砂災害特別警戒区域
特にレッドゾーンでは
建築規制
構造強化が義務(=高コスト)
追加の地盤調査
…など、負担が非常に大きい。
投資物件としての価値は?
■ メリット
とにかく 土地が安い
現金買いの投資家が狙いがち
■ デメリット
災害リスクが極大
保険料が高い
出口(売却)が弱い
賃貸でも入居者が不安を感じやすく、
空室リスクが高い
⇒ 総合評価:ハイリスク物件
初心者にはほぼ推奨されず、
「災害リスクと立地の癖を理解して買うベテラン向け」。




