第2章 「連棟式の崩落寸前アパート」
タクミたちは、アテネの導きに従い地上の港町ゲートウェイへ向かっていた。
しかし目の前に現れたのは。横一列に6戸がくっついた、古びた連棟式アパートだった。
屋根は波打ち、壁にはひび割れが入り、まるで建物自体が時空の悲鳴を上げているようだ。
「これ……全体では一棟に見えるけど、地権者がバラバラで、管理不能の典型物件だよ!」
タクミが眉をひそめる。
「なんで俺たちがこんなの見る必要があるんだ……!」
アレックスは困惑した。
ヴァンは影のように笑った。
「この歪み……時空すら悲鳴を上げる。崩壊は近い……フフ」
カーミラは壁を指で叩き、静かに言った。
「……三ヶ月。」
「三ヶ月で崩れる!? なんで分かるの!」
タクミの声が震える。
そこに、タクミの右手にして頭脳担当、敏腕秘書ミラが現れた。
彼女は小さなメモ帳を開き、冷静に状況を整理する。
「タクミ様、まず安全面のリスクを数値化しました。建物の老朽度、地権関係、耐久性――総合的に『危険レベル:最高潮』です」
ミラの声は明瞭で、感情はほとんどない。
しかしその視線の鋭さは、瓦礫の中でも安全なルートを見抜く目を持つ。
「なるほど……頼もしいな、ミラ」
タクミが小さく微笑む。
戦士ブレインが瓦礫の隙間に手を置き、周囲を確認する。
「構造的に危険だ……前衛として俺でもまずここでは戦えない」
魔法使いエリオは腕組みをし、屋根を見上げる。
「魔力の歪みもある……何か封印でもされているのかもしれない」
僧侶リリィはパーティーに癒しの光を差し込む。
「まずは安全確保です。無理に近づかず、建物の状態を観察しましょう」
タクミは現実的な視点で考えた。
この建物、見た目は古いがテラスハウスとしての特徴も持っている。
戸建て感覚で住めるメゾネット式間取り
1階から2階へ移動できる室内階段
廊下や玄関は専用
専用庭や駐車場付きの部屋もある
「なるほど……戸建て感覚だけど、壁や屋根は隣と共有か……」
タクミが続ける。
ミラが即座に補足する。
「メリットは戸建てより価格が安く、専用庭や駐車場付きもあります。デメリットは隣との壁共有による騒音、窓が少ないこと、建て替え困難と権利関係の複雑さです」
アレックスがため息をついた。
「見た目は古いけど、住めばメリットもあるのか」
ヴァンはニヤリと笑い、暗く低い声で言った。
「幻想と真実を見極めるのだ……外見だけでは物件の本質はわからぬ」
カーミラは無言で屋根を見上げ、冷たい眼差しを向ける。
リリィが手を翳し、パーティーに癒しの光を注ぐ。
「危険な場所でも、準備と注意があれば安全です」
エリオが杖を掲げて魔法陣を描く。
「もし崩れても、魔法で防げる範囲はあります。念のため、結界を作ろう」
ブレインは大きく息をつき、仲間を鼓舞する。
「準備は万端だ。行くぞ!」
ミラは静かにメモ帳を閉じ、タクミに目線を向けた。
「タクミ様、次の行動は安全ルート優先で。魔法・前衛・回復の順に動きます」
タクミは安心して頷いた。
アテネが静かに言った。
「問題物件は、あくまで“人の欲”を知るための試練です。次へ進みましょう」
タクミパーティーは、屋根の波打つ連棟式アパートを後にして、次の試練の物件へと歩みを進めた。
ワンポイント解説
■連棟式建物とは?
簡単に言えば「長屋」のことです。
複数の家が横にくっついて建っている集合住宅で、壁や屋根の一部を共有する場合があります。テラスハウスもこの一種です。
メリット
戸建て感覚で住める(メゾネット式など、上下階も独立)
専用庭や駐車場付きの物件もある。
敷地を分割して建てているため、一般的に戸建てより家賃が安い。
他の住民と顔を合わせることが少なく、プライバシーを保ちやすい。
デメリット
壁や屋根を隣と共有しているため、騒音に注意が必要。
窓が少なく通風が悪い場合がある。
建て替えや大規模リフォームが難しい。
権利関係が複雑で、銀行評価が低い場合もある。
集合住宅なのでゴミ出しやペット飼育など、ルールを守る必要がある。
連棟式建物の投資物件としての価値
メリット(投資面)
比較的安価に取得可能
戸建てより敷地を分割して建てられるため、初期投資が低め。
安定した賃貸需要
ファミリー層や単身者向けに人気があり、長期入居が期待できる場合がある。
専用庭・駐車場付き物件は高付加価値
他の賃貸物件と差別化でき、賃料設定の幅が広い。
デメリット(投資面)
壁や屋根を隣と共有しているため騒音トラブルが発生しやすい
入居者満足度に直結し、退去リスクが高まる可能性。
再建築不可や老朽化リスク
建て替えや大規模修繕が難しい物件は、資産価値の減少が早い。
権利関係が複雑
地権者や共有部分の管理が絡むと、運用コストが増加。
銀行評価が低く融資が付きにくい場合がある。




