第1章 「瓦礫の上の宣告」
闇竜ネクロスの断末魔が途絶えたあと、ミストリア・コロッセオに残ったのは、ただの瓦礫と、熱気の残る風だけだった。
観客席は崩れ、中央はクレーター。
建物としての機能は完全に失われていた。
その静寂の中で――
勇者アレックスは
「……よし。次は決勝戦だ」
淡々と言う。
「いやいやいやいや! 闘技場、跡形もねえから!!」
タクミの叫びが虚しく響く。
カーミラは瓦礫に片足を置き、空を見ていた。
金髪三つ編みが揺れる。
鋼の手甲にはまだ竜の黒炎の煤が残っている。
だが
彼女は何も言わなかった。
ただ、短く一言。
「……決勝、消えたね」
それだけ。
動じず、嘆かず、語らず。
鋼鉄の女は、状況を“事実として受け入れる”。
タクミがすがるように声をかける。
「カ、カーミラさん!
もしよかったら……俺のボディガード、やってくれませんか!?
強すぎる人材……欲しいんです!!」
「……危険手当」
「もちろん払います!」
「なら、いい」
それだけで契約成立だった。
言葉は少ないが、行動は早い。
ただし、ほんの少しだけ頬が緩んでいた。
その横で、ヴァンがマントを大きく翻す。
黒い髪、赤い瞳。
吸血鬼剣士という設定の青年。
完全な中二病。
ヴァン・ノクト
「……フッ。
ならば我も同行してやろう。
“夜の王たる我が影”は、貴様の闇に寄り添う義務がある」
タクミは困惑する。
「え……夜の王? 影? 義務? 何それ」
「説明不要……。
ただ覚えておけ、タクミ。
我を雇うということは
世界の闇を味方にするということだ……!」
その時だった
空が割れた。
白と蒼の光が奔り、雲が逆流するように裂ける。
光の柱が大地へ降下し、
その中心に、一人の女性が降臨した。
天空人アテネ。
白銀の翼が広がり、瓦礫の上に蒼い光が反射する。
アテネ
「……勇者アレックス。
そして、その仲間たち。
あなた方の戦い、天空よりすべて見ておりました」
その声は澄んでいて、
だがどこか、大地と同じ重みがあった。
アレックス
「あなたは……天空人?」
アテネ
「はい。天空都市レテンシアの使徒、アテネと申します」
アレックスたちの前に、
ふわりと降り立つ。
「あなた方こそ……
この世界に選ばれし者たち。
ぜひ天空都市レテンシアへ来てください。
古代の魔導技術で作られた《浮遊島》へ至る塔が、
“魔の島アトランティス”に存在します」
タクミが思わず後ずさる。
「ま、またヤバいのが来た……
カーミラさん、ヴァンさん……
俺たち、本当にこんな世界で生きていけるんですか?」
カーミラは短く答える。
「行く。決まったなら進むだけ」
ヴァンはマントをひるがえし、空を見上げる。
「クク……運命の歯車が回り始めたな。
さあタクミ……
“新たなる闇の章”へと歩みだすぞ」
タクミは頭を抱えた。
こうして、
勇者アレックス、タクミ、カーミラ、ヴァン。
破壊された闘技場を後にし、
“天空都市レテンシア”への旅が始まった。
カーミラは無表情のまま呟く。
「……この人、面倒くさい」
空は蒼く裂け、新たな冒険の幕が、静かに、だが確実に開いた。




