第13章 「準決勝第二試合 勇者アレックス VS ルシフェル」
グランド・バトルフェスティバル 公式ルール
1. 試合形式
トーナメント方式で個人戦のみで行われ、勝者は決勝へ進出。
試合時間は10分間を標準とし、制限時間内に相手をKOするか降参するか、判定により勝敗を決定する。
2. 禁止事項
武器の使用は禁止
剣、斧、ナイフ、弓矢など、手以外の武器を持ち込む行為は反則負けとなる。
※格闘技・魔術・忍術は使用可だが、器具・武器の変形物は禁止。
魔力の過剰使用による環境破壊
闘技場や観客席に損害を与える可能性のある魔法・忍術は禁止される場合がある。
審判への攻撃
試合中の審判・スタッフへの攻撃は即失格。
3. 許可される行為
徒手格闘・骨法術・打撃・蹴り技などの肉体技
打撃力、スピード、柔軟性、戦術の全てが勝利の鍵。
忍術・魔術
ただし、環境破壊や武器使用に該当しない範囲に限る。
分身術、煙遁、火遁などは許可されるが、観客・施設に危害を与える場合は制限される。
4. 勝敗の判定
KO勝利:相手が戦闘不能となった場合。
反則負け:武器使用や禁止行為を行った場合。
判定勝利:制限時間終了時に、審判団の評価によって勝者を決定。
評価基準は技術力・戦術・攻撃・防御・闘気の総合点。
5. 特記事項
選手は怪我のリスクを自覚し、自己責任で戦うこと。
戦士の個性や異能は尊重されるが、危険行為は反則として厳しく取り締まる。
大会運営側は必要に応じて試合中止権を行使できる。
遺跡都市ミストリア、闘技場〈コロッセオ・ミストリア〉。
太陽が闘技場の天蓋から差し込み、
観客席を黄金色に染めた。
勇者アレックスが姿を現すと、
スタンドが割れんばかりの歓声に包まれた。
「アレックスーーーッ!!」
「勇者!!!」
「「わああああああ!!」」
大歓声が爆発した。
青いマントを翻し、アレックスは静かに拳を胸に当てる。
その表情は穏やかだが、瞳の奥にある光だけは鋭かった。
対して反対側のゲートが、
ギィ……ッ と不気味な音を立てて開く。
闇の霧が吹き出すように舞い上がる。
格闘魔術士ルシフェル。
白髪に煤が混じったような髪を揺らし、
闇をまとった黒衣の魔術師がゆっくり歩み出る。
観客の歓声が、一瞬で凍りついた。
「……貴様の光を、今日で終わらせてやるよ。勇者。」
アレックスは、静かに答える。
「ここはフェスティバルの舞台だ。闇に呑ませはしない。」
二人の視線が交差した瞬間
闘技場の床が、かすかに震えた。
試合開始の鐘が鳴る。
アレックスが駆け出し、ルシフェルが詠唱を始めようとした、その時だった。
ドン……ッ!
まるで地中で巨大な心臓が脈動したかのような揺れ。
観客も戦士も足を止める。
ルシフェルだけが、嬉しそうに口角を上げた。
「感じるか……? 封印が軋む音を。」
地面に黒い線が走った。それはまるで、闘技場全体が“何か”の胎内にあり、
そこから血管が浮き出すような不吉な模様。
奔る黒線は中央で集まり、
巨大な魔法陣を描き始める。
観客席。
「な、なにが起こっているんだ!?」
「魔力が……濁っていく……!」
アレックスは剣を握りしめ、
ルシフェルは両腕を広げ叫んだ。
「開け―― 黒き胎動の門ッ!!」
地の底で、何かが目覚める。
グゴォォォォォォ……ッ!!
耐えきれず割れた床の隙間から、
黒紅色の炎が噴き出し、吹き荒れ、
観客席の石を焼き砕く。
そして――地面が“めくれ上がる”ように隆起した。
まず現れたのは、
闇そのものとしか思えない“巨大な影”。
だが影ではない。
それは 鱗 だった。
鱗は夜空のように黒く、
その表面には赤黒い線が脈動し、
まるで血が流れているかのように光っている。
背からは、折れた大地の裂け目のような骨翼が伸び、
翼膜は存在せず、空気が吸い込まれる虚無だけが広がっている。
尾は闘技場の壁を一振りで粉砕し、
蛇のようにするどく、そして長い。
竜でありながら“死神”を思わせる骸骨の輪郭。
目は眼窩の奥で燐光のように赤紫に揺れている。
そして、
五本の黒い角が王冠のように生え、
竜王の名にふさわしい威圧感を放っていた。
完全に地表へ姿を現した“それ”が――
ゆっくりと首をもたげる。
次の瞬間。
グオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!
咆哮ひとつで観客席が崩れ、
風圧だけで戦士たちが吹き飛んだ。
空が黒く染まる。
日が翳る。
影は伸び、光は逃げていく。
その名を知る者が震えながら呟いた。
「……闇竜……
闇竜ネクロス……!
なぜ……こんな場所に……!」
このままでは人々が消し炭になる。
アレックスは剣を構え、
闇竜の巨大な瞳を真っ向から見据えた。
そこへ、ヴァンとカーミラが駆け込み、背中を預ける。
「闇竜だと……!? 絶対に外へ出すな、ここで止める!」
「いやですわ、準決勝で世界崩壊なんて。負けていられません!」
アレックスは吠える。
「ルシフェル!!
これは――試合じゃない。
お前が呼び覚ました“災厄”だ!」
ルシフェルは笑い続ける。
「そうだとも。
勇者よ……世界を守ってみろ。
闇竜ネクロスの暴走を止められるならな!」
剣と闇が交差する
準決勝第二試合は、もはや武道大会ではなく。
世界の命運をかけた、死闘の幕開けだった。




