第11章 「ベスト4進出――揺らぐ闘技場(アリーナ)」
闘技大会〈ミストリア武闘祭〉三日目。
ついに、ベスト4の顔ぶれが出揃った。
◆ 鋼の女戦士 カーミラ
◆ 勇者 アレックス
◆ 格闘魔術士 ルシフェル
◆ 謎の格闘家 カムイ
しかし
熱狂の裏には、確かに“ざわめき”があった。
前日のベスト8戦。
魔物化したシュウバが反則のアサルトナイフを使用し、
勇者アレックスを襲撃した事件は、観客席に深い爪痕を残していた。
また死体安置にあるシュウバの死体が消えていた。
「あれ……本当に大丈夫なのか?」
「勇者アレックス……肩の傷、まだ血がにじんでたぞ」
「審判団の警備、もっと強化しろよ!」
闘技場の外周には、普段の倍近い警備兵が立ち並び、
空気はどこか緊張を帯びていた。
それぞれ選手たちの闘気
◆ カーミラ
控室で赤い唇を軽くなぞりながら、闘技場の熱気を感じ取っていた。
「ふふ……ここから先は“本物”同士の舞台ね」
銀の瞳は獲物を探す猫のように妖しく光っている。
◆ 勇者アレックス
肩に包帯を巻いたまま、静かに座っている。
表情に迷いはない。
「どんな相手でも、俺は戦う。
それが……俺の選んだ道だ」
仲間たちは心配で胸を痛めつつも、その覚悟に何も言えなかった。
◆ ルシフェル
魔術陣の光を拳に浮かべながら、独り言のように呟く。
「さて……この三人相手に、俺はどこまでやれる……?」
楽し気な笑み。
闘争そのものを愛する者の表情だった。
◆ カムイ
唯一、正体が不明の戦士。
黒装束のまま壁にもたれ、目だけを静かに開いている。
彼は誰に興味を示すでもなく、ただ
“なにかを待っている”ように見えた。
審判団が壇上に立ち、巻物を広げる。
観客席が一気に静まった。
「準決勝の組み合わせは――!」
ゴクリ、と全員が喉を鳴らす。
「第一試合、
鋼の女戦士カーミラ VS 謎の格闘家カムイ!」
観客「おおおおお!?!?
美と怪物の激突か!!」
「そして――第二試合、
勇者アレックス VS 格闘魔術士ルシフェル!」
観客「アレックス VS ルシフェル!?
どっちが勝っても決勝戦が地獄!!」
闘技場は震えるほどの熱狂に包まれ、
戦士たちはそれぞれの闘志を燃やす。
しかしその裏で―
闘技場の地下、光り始める魔法陣に気づく者はいなかった。
大会は盛り上がる。
同時に
“封印の紋章”は、確実に目覚めへと進んでいた。
◇◇◇
ミラは魔導端末に映る数字の羅列をじっと見つめていた。
ルシフェルの収支帳。いや、“裏の帳簿”と言っていい。
「やっぱり……おかしいですわね。」
彼女は眼鏡を押し上げる。
その声には確信と、わずかな恐怖が混ざっていた。
通常の格闘魔術士にしては、ルシフェルの振込額は多すぎる。
それも、どれも同じ経由地を通っていた。
ミラは指先で一つの項目をタップした。
『供出金――黒き竜の祭壇(Shrine of Necros)』
タクミが目を見開く。
「……黒き竜? この街の伝承にある“闇竜ネクロス”のことか?」
ミラは静かに頷く。
「闘技場建設の資金……その一部が、祭壇に流れていました。
つまり……誰かが“封印”を解く準備をしている。」
ライラが青ざめる。
「ルシフェルが……その中心に?」
ミラは画面を閉じ、冷たい月光を背に言った。
「彼の笑顔、ずっと引っかかっていましたの。
あれは、戦士ではなく“計画者”の顔ですわ。」
黒龍の伝承
≪黒き胎動の門・眠りし竜王を揺り覚ますな≫
黒紅の紋章が脈動し、
不気味な唸りが地の底から響く。
その先で、封印は確実に“開きかけていた”。




