第6章 「冒険者向け付加価値付の宿屋が誕生」
オープン初日― 冒険者向け宿の誕生
スラムの朝。まだ霧が残る中、陽光を浴びて金色に輝く新しい看板が掲げられた。
そこには《GOLD LEAF INN》の文字。
周囲のボロ家とは一線を画すその外観に、通りを歩く冒険者たちが足を止めた。
修繕された木の壁、清潔な窓、玄関から漂う香ばしいスープの匂い。
かつて廃墟だったその建物が、いまや“冒険者の拠点”として生まれ変わったのだ。
「いらっしゃいませ。《ゴールドリーフ・イン》へようこそ!」
リオが笑顔で出迎え、フロント奥でリリスがチェックインの魔法印を押す。
初日の客は三組。
一組目は若い魔法使い――彼女は防音結界付きの個室に足を踏み入れ、目を丸くした。
「うそ……ここ、魔力干渉ゼロ!? 詠唱練習し放題じゃない!」
二組目は筋骨隆々の勇者パーティ。
屋根裏に設けた“転移門”を見た瞬間、リーダーの男が歓声を上げた。
「なんだこりゃ! ダンジョン帰りでも一瞬で帰ってこれるじゃねぇか!」
そして三組目は、疲れた傭兵団。
広い共同浴場に浸かりながら、仲間の一人が呟いた。
「ここ、スラムの宿とは思えねぇ……。また来ようぜ。」
冒険者たちの口コミは早い。
その夜、ギルドの掲示板にはすでに「安いのに快適」「設備が神」と噂が広がっていた。
そこへ、杖をついた老婆が現れた。
黒いマントに、梅の紋が刻まれた巾着袋、悪名高き高利貸、《梅ばあさん》である。
「ほぅ……見違えたねぇ。ボロ屋が、まるで王都の宿みたいじゃないか。」
タクミが頭を下げると、ばあさんはニヤリと笑った。
「やるじゃない、あたしが見込んだだけはあるわ。……けど、借金の返済、忘れるんじゃないよ?」
「もちろん。宿の稼ぎで、必ず返します。」
「ふふ、いい心がけだ。命が惜しければ――ね。」
その一言に、タクミは冷や汗を流しながらも、胸の内で拳を握った。
“事業は勝負だ。返済だってビジネスの一部だ。”
夕暮れ、街に灯がともり始める頃。
フロントに腰掛け、帳簿を開いたタクミの耳に
“チャリン、チャリン”と金貨の心地よい音が響いた。
「これが……インカムゲイン(家賃収入)か。」
通帳も銀行もない世界で、タクミは確かに“収益の流れ”を感じていた。
労働で得た報酬ではなく、仕組みで生み出される利益。
それが、彼が夢見た「不労所得の第一歩」だった。
満室の宿を見上げながら、タクミは静かに呟いた。
「いずれは……二号店だ。」
その言葉が、やがて王都全土を震わせる“異世界レジデンス帝国”の序章となる。
低コストリノベーションから始まった、冒険と経営の物語がついに始まった。
ワンポイント解説
■不動産の付加価値とは?
タクミの成功は、ただ「家を貸した」からではない。
冒険者のニーズを的確に捉え、建物そのものに機能的価値を加えたことにある。
① ターゲットの明確化:
→ “冒険者向け”という明確な層に絞ることで、競合と差別化。
② 付加価値の創出:
→ 防音結界、転移門、共同浴場など「便利×快適」を実現。
③ 顧客満足とリピート化:
→ 「また泊まりたい」と思わせる宿こそが、最強の広告。
■インカムゲイン(Income Gain)とは?
保有している資産から、継続的・安定的に得られる収入のことです。
つまり、
「持っているだけで入ってくるお金」
のことを指します。
不動産の場合で言うと?
不動産では、家賃収入や宿泊費がこの「インカムゲイン」にあたります。
例①:アパートのオーナー → 毎月の家賃収入
例②:タクミの宿屋 → 宿泊料・食事代
例③:駐車場経営 → 利用料
つまりタクミが運営している《ゴールドリーフ・イン》から入る金貨は、まさに“インカムゲイン”=家賃型の利益です。




