第8章 「闇の波動と陰謀の影」
遺跡都市に正式名称が与えられた。「ミストリア」古代遺跡の神秘を色濃く残す街の名として、タクミは静かに頷く。
街の広場では、武道大会の開会式の準備が最終段階に入る。屋台や宿、闘技場の設備も整い、観客が集まる気配が濃厚だ。
秘書ミラが手元のリストを確認しながら、淡々と報告する。
「チケットは全て完売ですわ。返金不可。これで収益は……大会運営費を差し引いても十分に賄えます。」
タクミは広場を見渡しながら、目を細める。観客の熱気と雑踏の中に、潜む危険の影も感じ取れる。
トビーが杖を掲げ、魔力の異常を探知する。
「これは……通常の魔力ではありません。大会の熱気が、街全体の結界を揺らしています。誰かが、この場を利用して何かを企んでいる……。」
ライラが剣を握り直し、周囲を警戒する。
「まるで勇者を狙う暗殺祭……ですわね。」
夜空を見上げると、アテネが上空から街を見守っている。微かに不吉な雲が渦巻き、街に影を落としていた。
「この嫌な空気は……。」
ミラは売上報告の合間に、タクミに小さく耳打ちする。
「おそらく、世界中の強者たちがこの街に集まるでしょう。ですが、心配なさらずに。警備計画は万全ですわ。」
タクミは拳を軽く握り、決意を固める。
「勇者アレックスを迎えるための舞台は整った……あとは、この街で何が起ころうと、守り抜くのみだ。」
街ミストリアの広場には、光と影が交錯し、武道大会開幕の緊張感が高まっていく。
◇◇◇
しかし、その華やかさの裏で、静かに“異変”が始まっていた。
闘技場の中央地―
古代の石版に刻まれた魔法陣が、突如として淡く光を放った。
本来なら都市防衛用の魔導結界と連動しているはずのその陣が、
何者かの干渉を受け、封印の一部を解除してしまったのだ。
街の外縁を守る塔では、魔導士たちが慌てて叫んだ。
「結界反応が不安定です! 東区の魔力が暴走しています!」
「封印層が……剥がれています!」
塔の下では、地面が不気味に震え、
赤黒い靄が地割れから漏れ出していた。
やがて、それは声となる。
“我ら、主の影に還らん……”
地の底から、無数の影が蠢き始めた。
かつて火と氷の魔女に仕えていた“闇の眷属”
千年前に封じられた、呪われし使徒たちである。
その報告を受けたトビーは、研究所の魔法計測器を覗き込み、
蒼白な顔で叫んだ。
「これは……大会を利用した召喚儀式だ!」
ライラが振り返る。
「召喚儀式? 誰がそんな真似を――」
「スポンサーの一部に、黒魔導士ルシフェルの名前がある。何か仕掛けをしている!」
タクミは拳を握りしめた。
目の前の計器は赤い警告を放ち続けている。
放っておけば、街全体が呪いに飲まれる可能性があった。
「最悪の事態が起きる前に……大会を中止するか?」
トビーが問う。
しかし、タクミは首を振った。
「いや、今ここで中止したら、街は混乱する。チケットは返金不可。それに……この大会を台無しにしたら、勇者は来ない。」
迷いを振り切るように、タクミは命じた。
「全警備隊に通達! 観客には悟らせるな。闘技場と地下の封印区を二重防衛体制に移行する!」
ライラが剣を抜く。
「分かった。闘技場の周囲は私と騎士団で固める。」
トビーは魔力測定器を携え、地下通路へ走った。
闇の波動は、確実に街の中心へと集まりつつあった。
一方その頃、
夜空の上。天の雲間を飛ぶ翼の影がひとつ。
アテネ。
天空より遣わされた光の使者。
彼女は静かに街を見下ろしていた。
闘技場の灯火が星のように瞬くその下、
暗黒の気流が渦を巻いているのを、彼女の神眼は見逃さなかった。
「……やはり、光が集まる場所には、必ず影も生まれるのです。」
アテネの瞳に映るのは、地上で動き始めた人間たち。
勇者を呼ぼうとする者、勇者を利用しようとする者、
そして闇の主を蘇らせようとする者。
天と地の境界に、運命の糸が絡み始めていた。
次に現れるのは、真の“勇者”か
それとも、世界を滅ぼす“闇”か。
その夜、遺跡の街 【ミストリア】は、静かに、運命の夜明けを迎えようとしていた。
✨第七部 天空都市へ遺跡編 完✨




