第4章 「古代遺跡を中心とした街づくり」
遺跡探索の激戦から数日後。
傾いた家々の修繕を終えたタクミたちは、村の中央にそびえる“古代遺跡”を見上げていた。
その姿は、まるで神々が地上に落とした塔のようだった。
崩れた外壁の中からは青白い光が漏れ、
風が吹くたび、どこからともなく古代文字の声が響く。
ミラがノートを手に立ち、静かに言った。
「この古代遺跡、街の中心として生かせるかもしれません。観光と研究を両立させれば、人も商人も集まります」
タクミは腕を組んで頷いた。
「ただの遺跡にしておくのは惜しいな。ここを“新しい街”に再生しよう」
ライラが目を丸くする。
「街、ですか? そんな簡単に……」
だが、トビーはにやりと笑った。
「タクミの“無茶”は大抵、後で成功する。やってみようぜ」
ミラの瞳が輝き、紙の上にペンを走らせた。
「では、古代遺跡を中心とした都市計画――始動します」
◆ 中央遺跡区 《聖光の核》
街の中心となる古代遺跡は、
そのまま神聖な保護区域として整備されることになった。
崩れた壁は修復され、広場の中央には「古代文字の石板」が祀られる。
夜には魔導灯が灯り、青い光が遺跡全体を照らす。
人々はここを“聖域”と呼び、祈りを捧げるようになった。
ライラが言った。
「この光……悪い気を浄化しているみたい。ここにいると、心が穏やかになる」
タクミは静かに頷いた。
「それでいい。ここは“街の心臓”だ」
◆ 商業地域 《記憶の回廊》
遺跡の外周には、商人たちが集まり始めた。
タクミは彼らに声をかけ、テナントを募集する。
「お土産屋、宿屋、武器屋、道具屋。全部ここに集めよう。
この街を訪れた人が、まず立ち寄りたくなる場所にするんだ」
《古代遺跡前商業区 テナント募集!》
〜新しい街で、あなたの夢を形にしませんか?〜
募集店舗:
宿屋:旅人の心を癒す温かい空間を提供できる方
武器屋:冒険者を支える装備や修理技術に自信のある方
道具屋:ポーション・魔道具・探索用アイテムを扱いたい方
お土産屋:遺跡をテーマにしたクラフト・菓子・記念品など販売希望者
【募集条件】
・初期出店費用:金貨10枚(補助制度あり)
・契約期間:3年(更新可)
・立地:古代遺跡南口広場周辺
・福利:宿泊施設割引、共同警備体制完備
出店希望者は、地底村開発本部《タクミ商会》まで!
張り紙を見た村人や職人たちが次々と集まってきた。
「宿屋を開きたい!旅人に温泉と地元料理を出したいんです!」
「俺は武器の修理職人だ。古代金属を鍛え直せる腕がある!」
「お土産屋をやるなら、遺跡の欠片でアクセサリーを作るわ!」
タクミは笑顔で手を差し伸べた。
「みんなの夢が、この街の力になる。――遺跡の光を、人の笑顔で満たそう。」
ライラが感慨深げに言う。
「タクミさん……戦うだけじゃなく、“街を育てる勇者”ですね。」
そうして立ち並んだのは、古代風の石造り店舗群。
お土産屋では遺跡の欠片を模したアクセサリーが並び、
宿屋では遺跡の光を利用した“浮遊ランプ”が客室を照らす。
武器屋《鉄星堂》の炉では、遺跡金属オリカイトが赤く輝き、
道具屋《アークル商会》では魔導ポーションが棚一面に並んだ。
トビーが肩をすくめる。
「……随分と賑やかになったもんだ。遺跡の街が商売の街になるとはな」
ミラは満足そうに微笑んだ。
「経済の循環こそ、街の命です」
◆ 住宅地域 《浮石の里》
冒険者や学者、移住者のために住宅区も整備された。
傾いていた家々は魔導工によって水平に戻され、
屋根には浮遊石ランプが灯る。
夜になると、家々がふわりと浮かび上がり、
まるで空中庭園のような幻想的な光景を描いた。
村の老人が感慨深げに言う。
「昔は崩れた村だったのに……今じゃ、人が笑って暮らしておる」
タクミは微笑みながら答える。
「ここが、誰かの“帰る場所”になればそれでいい」
◆ 工業地域 《魔導炉区》
街の外れには、遺跡から発掘された素材を加工する工房群が築かれた。
鍛冶師たちは魔導炉を使い、古代金属を再現。
錬金術師たちは遺跡の欠片から魔力結晶を生成した。
安全のため、タクミの設計によって「魔力遮断結界」が張られ、
事故のない“クリーン生産区域”として機能した。
ここで生まれた品々は、商業地域へと直送されていく。
トビーが笑う。
「街の経済が回り始めたな。次は、空の都市との交易だ」
◆ 未来構想 《天空との回廊》
タクミは、遺跡広場の中心で地図を広げる。
その視線は、遠く空の彼方
まだ見ぬ天空都市レテンシアを見据えていた。
「いつか、この街とレテンシアを繋ぐ“空の橋”を作る。神に近い国と、地上の街が手を取り合う未来を」
ライラが微笑む。
「夢のような話ね」
ミラが静かに記した。
「いえ、これは計画書に残しておきます“未来都市構想 第一号”として」
風が吹き抜ける。
遺跡の石板が淡く光り、まるで街そのものが応えているようだった。
こうして、古代の遺跡のある街は再び息を吹き返した。
神々が眠る地に、タクミたちの新しい街が生まれたのだ。
ワンポイント解説
■都市計画とは?
都市計画とは、街や都市を効率よく、安全で快適に、かつ美しく整えるための設計や方針のことです。
目的
人々が安全に暮らせる街をつくる
生活や産業活動がスムーズに行えるようにする
災害や環境問題に強い街をつくる
観光や商業など経済活動を活性化させる
主な要素
地区区分
商業地域:店や市場、宿屋などが集まるエリア
住宅地域:住むための家やアパートがあるエリア
工業地域:工房や工場など生産活動のエリア
インフラ整備
道路、上下水道、電気・魔力網(異世界の場合)など
災害時の避難経路や安全設備
景観・環境保護
公園や広場、歴史的建造物の保存
自然との共生や緑地の確保
都市機能の調整
商業・住居・工業のバランスを考えた配置
人口や交通量に応じた計画
遺跡や古代建造物を活かして街の中心にする
魔力や浮遊石などの特殊要素をインフラとして利用
冒険者や観光客の動線も考慮したゾーニング
都市計画とは、「人々が安全で快適に暮らせ、街として成り立つように街を設計すること」です。




