第5章 「命をかけたリノベーション工事 」
タクミは朝日を浴びながら、スラムの端に立っていた。
目の前には傾いた屋根、崩れた壁、割れた窓。
風が吹くたびにギシギシと音を立てる“ボロ屋”が、彼の最初の物件だった。
「……ここから俺の夢が始めるんだな。」
鍵を差し込み、重たい扉を開けると、カビと埃の匂いが鼻を突いた。
だがタクミの頭の中では、すでに完成後の姿が描かれていた。
木の梁を磨き、簡易ベッドを並べ、二階に浴場を。
ギルド通りに面した一階には「宿泊受付兼レストラン」。
「低コスト・高回転型の宿泊施設だ。ターゲットは“冒険者層”。」
現代日本で得た知識と、“不動産査定スキル”が頭の中で稼働する。
人を雇わなければ、タクミは《冒険者ギルド》のカウンターに立った。
周囲は筋肉と魔力に満ちたゴツい連中ばかりだが、今日は剣ではなくスコップとトンカチの戦いである。
「大工・石工・魔法職人を探してます。短期のリノベ工事、報酬は日当銀貨五枚。」
掲示板に貼り出した瞬間、数人が手を挙げた。
鍛冶師のガロン、魔法建築士のリリス、そして料理人志望の青年リオ。
「宿屋だと? 面白そうじゃねぇか。俺のハンマーで骨組みを叩き直してやる!」
「防音結界くらいなら張れるわ。魔法使い用の部屋も作れるかもね。」
「料理は任せてください! 冒険者が“帰ってきたくなる味”を作ります!」
タクミは笑みを浮かべ、手を差し出した。
「よし、チーム《リフォーム・フォース》結成だ!」
リノベーション開始!
壁を壊す音が響き、埃が舞う。
魔法の炎が古い木材を焼き払い、石工が新しい壁を積み上げていく。
タクミは一つ一つの工程を見守りながら、メモを取った。
「材料費は予算の七割以内……内装は中古材を再利用。浮いた分で設備に回そう。」
リリスが指を鳴らすと、部屋全体に淡い光の膜が広がった。
「これが“防音結界”。隣の部屋で魔法をぶっ放しても大丈夫よ。」
「いいね! 魔法使い向けの個室に導入だ。」
ガロンが天井を見上げながら言う。
「屋根裏に“転移門”を設置すりゃ、勇者パーティの拠点にもなるぜ。」
「転移門付き宿屋……差別化になる!」
異世界の素材と現代的経営感覚が融合し、廃屋は少しずつ“宿屋”へと変わっていった。
【 開業準備とホテル営業許可】
数週間後、建物が形になった。
だが、タクミにはまだ大きな壁があった、営業許可だ。
「宿泊業を営むには、市庁舎で“旅館営業免許”を取らなきゃいけませんよ。」
ギルドの受付嬢が教えてくれた。
タクミは書類の山と格闘する。
防火設備・衛生検査・従業員登録。
現実の行政手続きとまるで同じだ。
「料理人リオ、衛生証明は?」
「ちゃんと取得済みです!」
「フロント担当は俺とリリス。ベルボーイはガロンでいいな?」
「ちっ、ハンマー置いて荷物持ちかよ!」
笑い声が響く。
書類に印が押され、役人が言った。
「異世界旅館、本日より営業を許可する。」
その瞬間、タクミは拳を握った。
そして夢が、形になった。
ワンポイント解説
■リノベーションとは?
リノベーションとは、古くなった建物を再生し、新しい価値を生み出すこと。
単なる修繕とは違い、「より使いやすく・より魅力的に」することで、
資産価値を**再構築(Re + innovation)するのが目的です。
たとえば、タクミの“ボロ屋”も同じ。
ただ壁を直すだけでは「原状回復」。
だが、魔法使い用の防音結界や、勇者向け転移門付きスイートを加えたことで、
建物はまったく新しい需要を持つ宿屋へと変貌した。
これは現実の不動産投資でも同じで、
リノベーションによって以下のような効果が生まれます
① 賃料アップ効果:設備やデザインを刷新し、家賃を上げられる。
② 空室リスクの低下:他物件との差別化で入居率が上がる。
③ 資産価値の上昇:再販時にも高値で売れる可能性がある。
④ 減価償却による節税効果:古い建物ほど税制上のメリットも。
つまり、“古さ”はマイナスではなく、再生のチャンスなのだ。




