第6章 「従業員の団結の力の重要性(世間の声編)」
地底湖ホテル《ルミナグロウ》。
カフェラウンジでは宿泊客たちが笑顔で談笑していた。
SNSや口コミで広がった情報を見て、訪れた客たちが思い思いに宿泊体験を語る。
「本当に、ただ泊まるだけじゃなくて“ここにいる時間そのもの”が楽しいの」
20代女性の声。スマホで光の小道の写真を何枚も撮っている。
「子どもが宝探しに夢中になってて、親も一緒に童心に返れたわ」
30代父親。
彼の表情には、仕事や日常で失われた安らぎを取り戻した喜びがにじむ。
「旅に求めるもの? 便利さじゃなくて、心に残る瞬間だよ」
20代カップルの女性。
彼氏はうなずきながら、湖畔のランプに映る二人の影を見つめていた。
◇◇◇
一方、トランプ・ラッシュの《ラッシュイン・ゼロ》。
AIの管理下で、客は無言で部屋に案内をされる。
部屋は最新機能が満載で、ベッドは自動で整えられ、照明も秒単位で最適化されている。
だが、SNSや口コミには不満が並ぶ。
「便利だけど、なんだか冷たい……ただ寝るだけならいいけど、心は疲れた」
「部屋は狭いし、清掃が追いついてない。安かろう悪かろう」
「AIに全て任せるのは楽だけど、旅のワクワク感がない」
従業員も疲弊しており、客対応は効率最優先。
“心の通わないサービス”が、お客様の心理的満足を下げていた。
カフェテラスで、タクミはノートを開き、仲間の意見を聞く。
「ライラ、この光の小道は、みんなが求める“非日常感”に直結してる?」
「はい。SNSでも『日常を忘れられる』『童心に返れる』って声が多いです。体験そのものが旅の価値になっています」
「ミラ、宝探しやワークショップは?」
「子どもだけじゃなく、大人も楽しんでます。『家族で笑える時間』が旅に求められるものだとわかります」
タクミは静かにうなずいた。
「旅に求められるのは、快適さや便利さだけじゃない。現地の人との交流、自然との調和、そして“心に残る体験”だ」
夜。地底湖畔のランプに照らされ、客たちはそれぞれに感動を噛みしめる。
「思ったよりも疲れが取れたわ。地底の静けさが心に染みる」
「空気も匂いも違う。都会じゃ味わえない安心感」
「ただ泊まるだけじゃなくて、ここでしかできないことを体験できる。それが価値」
同時刻、《ラッシュイン・ゼロ》。
トランプはモニターの画面を見つめる。
「利益は出ている。稼働率も高い。しかし……評判は下がっている」
ヴァルキュリアが淡々と報告する。
「清掃不足、客の心理的満足度低下、クレーム増加。効率化は成功していますが、心の満足度は損なわれています」
トランプは拳を握った。
「効率で全てを制御できるはずだ……。なぜだ!どうして客は満足していない?」
心の中に、初めて“数字では測れない旅の価値”の存在がちらついた。
タクミは仲間たちと湖畔に立ち、深呼吸する。
「人は、思い出を買いに来るんだ。体験を、感動を、笑顔を。効率や価格だけでは、心は満たされない」
ライラが笑顔で頷く。
「だからこそ、私たちの力でリピーターを増やせるんですね」
「うん。そうだね 従業員の力で、地底湖の魅力を最大化するんだ」
湖面に映る光が、仲間の皆の団結の決意を優しく照らした。




