表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12全話完結【ランキング32位達成】累計3万3千PV『異世界不動産投資講座~脱・社畜28歳、レバレッジで人生を変える~』  作者: 虫松
第六部 異世界ビジネスホテル編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/238

第5章 「報告書 ― 粛清の会議」

帝国査察庁 第3会議室。


分厚い石の扉が軋みを上げて閉じられた。

会議室の部屋では誰も笑っていない。


ただ、黒い制服の査察官たちが並び、中央に一人、地底湖のホテルから宿泊して戻った男、バドレスが立っていた。


机の上には、彼が提出した報告書。表紙には、はっきりと記されている。


地底湖ホテル《ルミナグロウ》

総合評価:4.9/5.0 ― 極めて優良な宿泊施設と認定。


沈黙が走った。


その静寂を破ったのは、重い靴音だった。


「……誰の許可で、そんな数字をつけた?」

声の主 帝都ホテル《グランドロイヤル》のCEO 、ドナルド・ラッシュ。


彼はゆっくりと報告書を手に取り、読み上げる。


「『接客、清潔さ、体験価値、全項目S評価』……だと?

馬鹿げている。あの地底の泥宿に? 貴様、何を見てきた?」


「真実を、見てまいりました」

バドレスは静かに答える。


「彼らは“効率”ではなく“心”で運営している。数字では測れない幸福が、そこにあった。

評価とは本来、人の心の反映です」


その言葉に、ドナルド・ラッシュの顔が歪む。


「ほう……人の心、だと?」

彼は報告書を机に叩きつけた。


「ならば聞け。数字こそが真実だ! 利益率、回転率、滞在単価どれも我がホテルが上だ!

 “心”で飯が食えるか? 甘ったれるな!」


会議室の空気が一気に凍りつく。


「バドレス査察官、貴様の判断は帝都宿ギルドの方針に反する。よって、『反逆行為』として処分を開始する」


副査察官たちが立ち上がり、冷たい鎖を手に近づく。

だが、バドレスは逃げない。

目を閉じ、静かに笑った。


「……あの宿で、俺は久しぶりに“人間”に戻れた。 それだけで十分です」


鎖が音を立てて落ちた。

闇の中へと、彼の姿は消えていった。



◇◇◇



一方そのころ、地底湖リゾート《ルミナグロウ》。

タクミは次の一手を打っていた。


「宿泊だけじゃない。地底湖で“暮らすように過ごす”体験を作るんだ」


モグラ族の子供たちが案内する探検ツアー、

職人が教える土細工のワークショップ、

地底魚を使ったバーベキュー

すべてが「滞在=物語」となる仕掛けだった。


宿泊客は増え続け、SNSで話題沸騰。

「癒しの地底リゾート」として、地上からも人が訪れ始めた。


だが、トランプ・ラッシュも黙ってはいなかった。


「“体験”だと? そんな非効率なことはやらん。我々は“最適化された旅”を提供するのだ」


彼のホテルでは、AIヴァルキュリアが開発した完全自動ツアープログラムが始動。

旅程、移動、食事、睡眠すべてが秒単位で制御される。

客は迷うことも、考えることもない。

だが、そこに感動もまた、存在しなかった。


タクミとトランプ――

二つのホテルは、まったく異なる進化を遂げていく。


片や“心”を育てる癒しの宿。

片や“数字”で支配する帝国の宿。


その狭間で、一人の男

消されたはずの査察官バドレスが、再び目を開けた。


彼の手には、密かに持ち出した一枚の紙。

《帝国ホテル運営データ・最高機密》。


「……次は、俺が裁く番だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ