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12/12全話完結【ランキング32位達成】累計3万3千PV『異世界不動産投資講座~脱・社畜28歳、レバレッジで人生を変える~』  作者: 虫松
第六部 異世界ビジネスホテル編

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第3章 「宿泊客の奪い合い ― 両陣営の異なる戦略」

地底湖の朝は、ゆっくりとした蒸気と静寂で始まる。

《ルミナグロウ》のエントランスには、新しい看板が立っていた。


“癒しと居心地のホテル — 地底に、あなたのもう一つの家を”


ミカが植木鉢の位置を直しながら、柔らかく笑った。

「この看板、少し斜めですね。……でも、それも味かもしれません」

「完璧よりも温かさだ。ここは人の心を休ませる場所だからな」

タクミは頷き、湖面に反射する光を見つめる。


そのころ、地底のフロントには行列ができていた。

ミカが汗を拭いながら、笑顔で応対している。


「ようこそ《ルミナグロウ》へ。

お好きな香りのアロマをお選びください」


温もりのある接客、自然光のような照明、

どこか懐かしい土の匂い

宿泊者たちは「こんな場所、初めて」と声を漏らした。


しかし、その裏では静かな戦略会議が開かれていた。


「地上の《ラッシュイン・ゼロ》が、価格で攻めてきている」

タクミは資料を広げながら言った。

「でも、僕らが勝負するのは“値段”じゃない。“帰りたくなる記憶”だ」


ミカは頷く。

「宿泊後も繋がる仕組みを作りましょう。地底の景色や癒し体験をSNSで共有できるように。

お客様が“自ら広告塔”になるように」


こうして生まれたのが、

宿泊者限定アプリ《GlowBook》だった。滞在中に撮影した写真やコメントを投稿すると、

地底の照明石が反応して淡く光る。

“思い出を光に変えるホテル”という新しい体験が、口コミで拡散していった。




◇◇◇



だが、同じ頃、地上では熱狂が始まっていた。


ビジネスホテル、《ラッシュイン・ゼロ》


「キャンペーン開始だ! “AIがあなたを待っている”を合言葉にだ!」


トランプ・ラッシュの怒号が響き渡る。


巨大スクリーンには、冷たい近未来的デザインの広告が映し出されていた。

予約サイトを開けば、トップには常に《ラッシュイン・ゼロ》のバナーが表示される。

宿泊料金は《ルミナグロウ》の半額、

加えてAIポイントシステム「ゼロ・マイルズ」を導入。


ヴァルキュリアが冷静に報告する。

「一度泊まるごとに“未来割”が貯まる仕組みです。次回以降、半額・延泊無料・自動チェックアウト優先枠など、数字で客を囲い込みます」


トランプは満足げに頷いた。

「数字で動く人間を、感情で止めることはできん。癒しなど、非効率だ。人は利で動く」


だが、ヴァルキュリアの報告の中に一つの提案があった。

「しかし、タクミのホテルは“人の心”を掴むタイプ。単に価格で勝つだけでは、差別化が薄い。

……“破壊者”を呼びましょう」


トランプの目がぎらりと光る。

「呼べ。ホテルガイド階級審査員、バドレスを」


扉が開くと、黒い外套に身を包んだ男が静かに現れた。

無表情、しかし目だけが冷たい蛇のように光っている。

ホテル業界の裏で暗躍する“影の査察官”。

彼が星を与えればホテルは栄え、

彼が星を奪えば、都市すら凍りつくと言われる。


「バドレス。貴様に任務を与える。地底へ行き、あの“ルミナグロウ”を査察せよ。

だが、星を与えるのではない――潰せ。

“最低評価”をつけ、世界中に悪評を流すのだ」


男はわずかに口角を上げた。

「……つまり、“輝きを消せ”ということですね」


トランプはグラスを掲げ、赤い酒を揺らす。

「そうだ。光を奪えば、闇が戻る。それが帝国の流儀だ」



両陣営の戦略、激突

ラッシュ陣営:低価格+AIポイントで短期顧客を大量獲得。

タクミ陣営:体験共有+癒し価値で長期ファンを構築。


観光客たちは二分された。

「安くて便利なラッシュイン・ゼロ派」


「心が休まるルミナグロウ派」


そして、その狭間で暗躍するバドレス。

黒いトレンチを翻し、無言で地底列車に乗り込む。

その目的はただひとつ

タクミの光を、数字と評価で塗りつぶすこと。


地底湖ホテル《ルミナグロウ》

ミカがフロントに立ち、ふと風を感じた。

地下ではありえない、冷たい風。


「……誰かが、来る」


タクミは微笑を崩さず、答えた。

「なら、歓迎しよう。たとえそれが“闇の客”でもね」


地底と地上のホテル戦争、次なる幕が静かに上がるのだった。


ワンポイント解説


「従業員を仲間だとは思わず、働く奴隷だ 。ノルマ優先の“効率至上主義ホテル”」

トランプ・ラッシュのホテル経営は、徹底した数字主義と合理性に基づいている。

その理念はこうだ。

「人は感情で動くな。数字で動け。感情は誤差だ」

彼のもとでは、従業員は“チーム”ではなく“システムの歯車”。

笑顔やホスピタリティは不要、ノルマと結果だけが存在する。


社員たちはAIによって勤務時間や接客ログまで監視され、

ミスをすれば自動的に減給、成果を出せばポイント加算という完全成果主義。


一部のスタッフは疲弊しながらも、

「ラッシュ様に選ばれることこそ栄誉」と洗脳され、

次第に“仕事”ではなく“崇拝”に近い忠誠を見せていく。


この「冷たい機械の帝国ホテル」は、

タクミの“仲間と共に築く癒しの宿”と正反対の存在であり、

物語全体の倫理的コントラストを形成していく。

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